表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/100

第39話 風神社の静寂

風神社は小高い丘の上にあった。その名の通り、常に風が吹き抜ける場所だ。


しかし今日は、不自然なほど風がない。


空気が止まっている。まるで、息を潜めているかのように。


『変ね』


ルカが手話で伝える。


『いつもは風が強いのに』


確かに奇妙だった。風の神社なのに、風がない。それは不吉な予兆のようにも思える。


神社の境内に入ると、そこには予想外の人物がいた。


■木村さゆりとの出会い


「あら、皆さん」


六十代の女性——木村さゆりだった。朽葉温泉の女将で、チヨの母の親友でもある。


上品な着物姿で、手には小さな風呂敷包みを持っている。


「佐藤先生、ルカちゃん、おはようございます」


さゆりの視線は二人だけに向けられ、チヨをすり抜けていく。


チヨの存在は、もう認識されていない。


健司が手話でチヨに通訳しながら、さゆりと話す。


「不思議な夢を見たんです。美咲さんが出てきて、『娘を頼む』って」


チヨの心臓が跳ねた。母が夢に?


「それで、何か大切なことがある気がして、ここに来たんです。風神社には、美咲さんとよく来ましたから」


さゆりは懐かしそうに境内を見回した。その視線が一瞬、チヨの立っている場所で止まった。


「……誰かいるような」


『私です。チヨです』


必死に手話で伝えるが、さゆりには見えない。


「気のせいかしら。でも、美咲さんの気配を感じるような……」


さゆりは小さな包みを取り出した。


「これ、ルカちゃんに。美咲さんから預かっていたものよ」


包みを開けると、中には古い風鈴が入っていた。ガラス製で、短冊には「風の音を記す」と書かれている。


『お母さんの……』


ルカが風鈴を受け取ると、不思議なことが起きた。風がないのに、風鈴が鳴り始めたのだ。


チリン、チリン。


音は聞こえない。しかし、振動でそれが分かる。そして、風鈴の周りに、薄い金色の光が漂い始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ