表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/100

第38話 健司との朝

朝食を食べていると、健司が来た。今日も休診日ではないはずだが、往診の合間を縫って来てくれたらしい。


『おはよう』


手話で挨拶する健司。たった二日で、かなり流暢になっている。


そして、健司からかすかに香る石鹸の匂い。清潔で、爽やかな香り。医師らしい。


でも、その奥に、健司特有の匂いもある。優しくて、温かくて、安心できる匂い。


『今日は風神社ね』


『はい。風の欠片があるはずです』


三人は村の北にある風神社へ向かった。


道すがら、チヨは村の香りを胸一杯に吸い込んだ。


朝の炊事の煙、畑の土の匂い、野花の香り。そして、近づいてくる雨の匂い。


空気が湿り気を帯びて、独特の匂いを放っている。もうすぐ雨が降る。


■風神社への道のり


山道を登りながら、チヨは自然の香りに包まれていた。


杉の木の清々しい香り、苔の湿った匂い、土の深い香り。山には無数の香りが満ちている。


ふと、甘い香りが漂ってきた。


立ち止まって辺りを見回すと、山百合が咲いていた。純白の花が、朝日を受けて輝いている——もちろん、色は見えないが。


『きれい』


ルカが手話で伝える。


チヨは花に顔を近づけ、深く香りを吸い込んだ。


濃厚で、官能的でさえある山百合の香り。野生の花の力強さと、繊細な美しさを併せ持つ香り。


『いい香りでしょう?』


健司が手話で尋ねる。


『素晴らしい香り。忘れられない』


本当に、忘れられない。この香りを胸に刻んで、たとえ嗅覚を失っても覚えていよう。


その時、風が吹いた。


風は様々な香りを運んでくる。遠くの田んぼの青い匂い、誰かの家の味噌汁の匂い、そして——


『煙?』


チヨは眉をひそめた。


普通の煙ではない。何か、不吉な匂いが混じっている。


健司も気づいたようで、心配そうに辺りを見回している。


でも、すぐに風向きが変わり、その匂いは消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ