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第35話 新しい朝への準備
日記を書こうとして、ペンを取る。
でも、どう書いていいか分からない。音のない世界の感覚を、言葉で表現するのは難しい。
それでも、書き始める。
『二つ目の欠片を手に入れた。声と聴覚を失った。
最初はパニックになった。完全な静寂は、想像以上に恐ろしい。自分が世界から切り離されたような感覚。
でも、水の記憶を読む力を得た。すべての水が、物語を持っている。雨も、涙も、井戸の水も。
夢の中でなら、声が聞こえる。お母さんと話せた。これも新しい発見。
健司さんが「愛してる」と手話で伝えてくれた。答えられなかったけど、嬉しかった。でも、このまま消えてしまう私を愛しても、彼が苦しむだけ。
ルカは強い子。手話もすぐに覚えて、一生懸命話しかけてくれる。この子のためにも、最後まで頑張らなければ。
明日は風の欠片。嗅覚を失うことになるだろう。
でも、恐れない。失う度に、新しい世界が開ける。それを信じて。
追伸:夢の中で母が言った「写祓」という言葉。きっと重要な意味がある。いつか、その時が来たら思い出そう』
ペンを置いて、窓の外を見る。
雨は止んで、静かな夜が村を包んでいた。
明日も、新しい一日が始まる。
音のない世界で、でも確かに前に進んでいく。
大切な人たちと共に。




