第28話 井戸の底での体験
「降りるしかないみたいね」
チヨが言うと、健司が止めた。
「一人で行かせるわけにはいかない。僕も一緒に行く」
「でも、危険かもしれない」
「だからこそ、一緒に行くんだ」
彼の決意は固かった。
ルカが不安そうに二人を見つめる。
「私も……」
「ルカは上で待ってて」
チヨは優しく、でもきっぱりと言った。
「もし何かあったら、助けを呼んで」
「でも……」
「お願い」
ルカは渋々頷いた。
井戸の内側には、古い鉄の梯子が設置されていた。錆びついているが、まだ使えそうだ。
チヨが先に降り始める。一段、また一段。下に行くほど、ひんやりとした空気に包まれる。
梯子を降りる音が、井戸の中で反響する。カン、カン、カン。その音も、もうすぐ聞けなくなる。
「大丈夫?」
上から健司の声。心配そうな響きが、井戸の中で増幅される。
「はい」
自分の声も、不思議な響きを持って返ってくる。
井戸の底は、予想外に広かった。地下水脈に続く洞窟のような空間が広がり、その中心に小さな泉があった。
泉の水は、不思議な青い光を放っている——いや、もう色は分からない。でも、確かに光っているのは分かる。そして、その中に六角形の結晶が沈んでいた。
「綺麗……」
チヨがつぶやいた瞬間、水面に映像が浮かび上がった。
それは、過去の記憶だった。




