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第27話 古井戸への道

古井戸は、村の広場の片隅にひっそりと残されていた。石造りの古い井戸で、普段は蓋がされている。


道中、チヨは周りの音に意識を集中させた。


鳥のさえずり、風が木々を揺らす音、ルカの足音、健司の息遣い。すべての音を、心に刻み込む。


「ねえ、覚えてる?」


ルカが突然口を開いた。


「小さい頃、この井戸で遊んだこと」


「危ないからって、お母さんに叱られたわね」


チヨは微笑んだ。


「でも、チヨ姉ちゃんは『井戸には物語がある』って言ってた」


「そうだったかしら」


「うん。水面に映る空が、別の世界への入り口みたいだって」


今思えば、それは予言だったのかもしれない。水は確かに、別の世界——過去の世界への入り口だった。


井戸に近づくと、チクワが待っていた。


「ニャー」


その鳴き声を、チヨは心に刻む。不思議な猫の、不思議な声。


「昔、この井戸にまつわる話を聞いたことがある」


健司が井戸を見つめながら言った。


「なんでも、恋人同士がここで永遠の愛を誓ったとか」


「素敵な話ね」


「でも、その恋人たちは結ばれなかったらしい。それで、二人の想いが井戸に宿ったって」


切ない伝説。チヨは井戸を覗き込んだ。深い、想像以上に深い。水面は見えないが、かすかな水音が聞こえる。


ポチャン、ポチャン。


規則正しい水滴の音。それはまるで、時を刻む音のよう。

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