第26話 健司との再会
朝食後、玄関のチャイムが鳴った。
「おはようございます」
健司が立っていた。白衣の代わりに、カジュアルなシャツとジーンズ姿。休日の装いが、彼を若く見せていた。手には、小さな包みを持っている。
「おはよう、健司さん」
「これ、君に」
包みを開けると、中には小さなノートとペンのセットが入っていた。防水加工された、丈夫そうなもの。
「筆談用に。防水だから、雨の中でも使える」
その心遣いに、チヨは胸が熱くなった。
「ありがとう。でも、どうして防水?」
「今日は『水』の欠片でしょう?きっと、水に関係する場所に行くと思って」
さすが医師。観察力と推理力が鋭い。
「それに」
健司は少し照れたように続けた。
「君との会話を、一つも逃したくないから」
その言葉に、チヨは頬が熱くなるのを感じた。
「あの、健司さん」
「うん?」
「今日で、私の声が聞けなくなるかもしれません」
健司の表情が曇った。
「だから、何か聞いておきたいことがあったら……」
「じゃあ、一つだけ」
健司は真っ直ぐチヨを見つめた。
「僕の名前を、呼んでくれる?」
シンプルな願い。でも、その中に込められた想いの深さが、痛いほど伝わってくる。
「健司さん」
チヨは心を込めて、彼の名前を呼んだ。
「もう一度」
「健司さん」
「……ありがとう」
健司の目が潤んでいるのが分かった。この人は、本当に自分のことを……




