第23話 夜の省察
その夜、チヨは一人で屋上に上がった。
モノクロームの世界でも、星空は美しかった。むしろ、色がない分、星の輝きがより鮮明に感じられる。
「色を失って、光が見えるようになった」
小さくつぶやく。
父の書いた文書を思い出す。『光は色ではない。想いの強さである』という一節があった。今なら、その意味が分かる。
ふと、遠くに小さな光が見えた。
それは、蛍だった。
緑色は見えない。でも、光は見える。健司と一緒に見た、あの夏の日の蛍。
「あの時の光は、今も心に残ってる」
健司の言葉を思い出す。
そうか、大切なのは色じゃない。光そのものなんだ。
階下から、ルカの声が聞こえてきた。
「チヨ姉ちゃん、お風呂沸いたよー!」
「今行く!」
返事をしながら、チヨは最後にもう一度星空を見上げた。
明日は、「水」の欠片を探す日。
きっと、声を失うだろう。
でも、恐れない。
光は、心の中にある。それさえあれば、道は見える。
その夜、チヨは日記を書いた。
『最初の欠片を手に入れた。色彩を失ったけれど、新しい世界も見えてきた。健司さんの優しさ、ルカの強さ。失うものがあっても、得るものもある。
魂写機で撮った写真には、人々の記憶の光が写っていた。これが私の新しい使命。村の記憶を、光として残すこと。
色を失っても、魂の光は見える。この発見が、きっと重要な意味を持つ。
父の残した「写祓」という言葉。いつか、その意味を知る日が来るのだろうか。
黒い外套の人影。正体は分からないが、見守られているような、監視されているような……
でも、怖くない。健司さんとルカがいる。それだけで、十分強くなれる。
残り八つ。最後まで、大切な人たちのために』
窓の外では、紫の霧がゆらゆらと揺れていた。色は見えないが、その不穏な動きは感じ取れる。
明日も、きっと大丈夫。
愛する人たちが、側にいてくれるから。
チクワが窓辺で鳴いた。金色の瞳が、まるで「頑張れ」と言っているようだった。
その瞳が、また一瞬青白く光る。
不思議な猫。でも、きっと味方。
そう信じて、チヨは眠りについた。




