第20話 午後の撮影
その日の午後、チヨは村の人々を撮影して回った。色彩は失われても、写真は撮れる。むしろ、モノクロの世界で見ると、光と影のコントラストがより鮮明に感じられた。
「チヨちゃん、写真撮ってくれる?」
八百屋の田中さんが声をかけてきた。
「もちろん」
魂写機を構えると、ファインダーの中に不思議な光景が広がった。田中さんの周りに、野菜たちの記憶が光となって漂っている。大地で育った時間、農家の人々の愛情、そして田中さんの商売への誇り。
シャッターを切る。
カシャリ。
その瞬間、すべての光が写真に封じ込められた。
「ありがとう。また現像できたら持ってくるね」
「楽しみにしてるよ」
田中さんの笑顔も、モノクロームだが温かい。
健司も一緒について回り、村人たちの健康相談を受けていた。
「佐藤先生、最近物忘れがひどくて」
「霧のせいか、頭がぼんやりするんじゃ」
村人たちの症状を聞きながら、健司は眉をひそめていた。クロミカゲの影響は、確実に広がっている。
「チヨ」
診療所に寄った時、健司が真剣な表情で言った。
「このペースだと、満月までに間に合うか心配だ」
「大丈夫。必ず間に合わせます」
「でも、君の体が……」
健司の心配そうな顔を見て、チヨは優しく微笑んだ。
「健司さん」
「ん?」
「素敵です」
突然の言葉に、健司は顔を上げた。
「……急にどうしたの?」
「だって、もう色は見えないけど……健司さんの優しさは、光として見えるから」
健司の周りの光が、少し揺らいだ。照れているのが分かる。
「チヨ……」
「全部終わったら、聞かせてくださいね。言いかけた言葉」
「ああ、必ず」
二人の間に、温かな空気が流れた。まだ言葉にはできない想いが、確かにそこにある。




