第15話 魂写機(たまうつしき)の秘密
朝食後、チヨは魂写機の最終点検を行った。この特別なカメラは、橋爪家に代々伝わる秘宝だ。
「ルカ、ちょっと来て」
チヨは妹を呼び、魂写機の構造を詳しく説明し始めた。
「見て、このレンズの周りの歯車。これは『時の歯車』と呼ばれていて、撮影する瞬間の時間を固定する役割があるの」
ルカは興味深そうに覗き込んだ。真鍮の歯車が、複雑に組み合わさっている。光を受けて、金色に輝く様子が美しい。
「そして、この青い水晶は『記憶石』。人の心に眠る記憶の粒子を集めて、写真に定着させる力があるわ」
「すごい……でも、どうやって作られたの?」
チヨは少し考えてから、古い言い伝えを話し始めた。
「初代の橋爪千代が、霧姫様から授かったと言われているわ。写し世と現世を繋ぐ架け橋として」
「写し世?」
「私たちの世界の裏側にある、もう一つの世界。記憶と想いが集まる場所よ」
ルカの金色の瞳が、理解と共に輝いた。
「じゃあ、この魂写機があれば、見えないものも撮れるの?」
「そう。だから今日から、これで村の大切な瞬間を撮り続けるつもり」
チヨは魂写機を胸に抱いた。これが自分に残された、最後の仕事になるかもしれない。
ふと、父の書斎で見つけた古い文書を思い出した。
「そういえば、お父さんの日記に『写祓』という言葉があったの」
「しゃばらい?」
「写し世に囚われた魂を、現世に戻す術らしいわ。でも、詳しいことは書かれていなくて」
ルカは首を傾げた。その時、彼女の瞳が一瞬、青白く光ったような気がした。でも、すぐに元の金色に戻る。
「なんだか、大切な技術みたいだね」
「ええ。いつか、必要になるかもしれない」