第13話 夜の決意
帰り道、三人は並んで歩いた。ルカは二人の間で楽しそうに話している。
写真を撮るルカが、ふと口にする。 「あ、今、写し世が見えた気がする」 「写し世って何?」と聞き返すと、首を傾げる。
「ねえ、知ってる?クラスの皆が言ってたよ。健司先生とチヨ姉ちゃん、お似合いだって」
「ルカ!」
チヨが慌てる横で、健司は優しく微笑んだ。
「そうかな。嬉しいな」
「健司さん?」
「あ、いや……」
彼は照れくさそうに頭を掻いた。その仕草が、チヨには愛おしく思えた。
もし、この使命がなければ……
でも、今は考えてはいけない。村を守ること。それが最優先だ。
その夜、チヨは日記を書いた。古い和紙のノートに、丁寧に文字を綴っていく。
『明日から欠片集めが始まる。一つ集めるごとに、私は何かを失っていく。でも、後悔はない。ルカの笑顔を守れるなら。健司さんの優しさに応えられないことだけが、心残り……
影向稲荷で見た、黒い外套の人影。あれは誰だったのだろう。敵か、味方か。それとも、また別の何か。
影写りの巫女。その言葉が、なぜか心に引っかかる。私も、いずれはそうなるのだろうか。
でも、恐れない。愛する人たちがいる限り、私は強くいられる』
窓の外では、紫の霧が少しずつ濃くなっていた。
満月まで、あと八日。
運命の時計は、確実に時を刻んでいた。
人生は長時間露光の写真。 動くものは消え、動かないものだけが残る。
私は、消える運命。 でも、愛だけは残したい。