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第10話 魂写機での撮影
チヨは魂写機を構え、市場の朝の風景を撮影し始めた。シャッターを切ると、レンズから光の粒子が舞い上がる。人々の笑顔、子供たちの遊ぶ姿、古い家々の佇まい……自分の存在がこの世から消えても、これらの写真だけは残るかもしれない。
ファインダーを通して見える風景に、チヨは違和感を覚えていた。人々の周囲に漂う光のオーラが、いつもより弱々しい。さらに気がかりなことに、ファインダーの端に、時折黒い影が映り込むことがあった。九つの尾を持つ影——クロミカゲの気配だ。
「チヨ姉ちゃん、どうしたの?」
ルカが心配そうに見上げる。金色の瞳に、不安の色が浮かんでいる。
「……何でもないわ」
チヨは努めて明るく答えたが、胸騒ぎは収まらない。ファインダーの中で、また黒い影が動いた。今度ははっきりと見えた——黒い外套を纏った人影が、市場の隅に立っている。
瞬きをすると、その姿は消えていた。
「幻覚……?」
でも、魂写機は嘘をつかない。確かに、何かがこの村を見守っている。いや、監視しているのかもしれない。