東部占領地エルトリア
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数日間の行軍の末、俺たちはついに東部占領地エルトリアの街へと到着した。
馬上で揺られながら見えてきたその街の姿は、俺たちの想像以上に歪んでいた。
高い壁で明確に分断された二つの区画。豪華な装飾が施された貴族や富裕層が住む「新市街」と、元々の住民たちが追いやられた、古く、そして荒廃した「旧市街」。そのあまりにも露骨な格差に、誰もが言葉を失う。
「……これが、エルトリア……。報告にはあったけれど、これは……」
エリアーナが、馬上で息を呑み、悲痛な声を漏らした。新市街の壮麗な門構えと、そのすぐ外側で物乞いをする痩せた子供たちの姿が、あまりにも対照的だった。
「ふん、統治能力のない者が権力を持つと、こうなるという見本だな。貴族の恥だ」
ゼイドが、吐き捨てるように言った。その顔には、アーノルドに対する明確な嫌悪と、同じ貴族としての怒りが浮かんでいる。
「へっ、隊長。こりゃあ、やりがいがありそうだ」
俺の後ろを走っていたハルが、ニヤリと笑いながら言った。「どっちが悪党か、一目で分かるってのは、ある意味やりやすいですぜ」
「違いないな」俺も短く応じる。
俺たちが新市街の門に近づくと、アーノルド子爵配下の兵士たちが、物々しく俺たちの進路を塞いだ。その鎧は立派だが、着こなしはだらしなく、その目には、辺境の兵士を見下すような傲慢さが滲んでいる。
「止まれ! 貴様ら、どこの部隊だ! 所属と目的を述べよ!」
ハルが、前に出ようとするのを、俺は手で制した。
「アルクス王国騎士団、特務遊撃部隊隊長、リオン・アッシュフォード少佐だ。ドレイク騎士団長閣下からの特命により、この街の治安維持任務のため、本日到着した」
俺が冷静に告げると、兵士たちは一瞬顔を見合わせたが、隊長らしき男が鼻で笑った。
「はっ、『双炎の厄災』様のおなりか。聞いてはいたが、本当にガキじゃないか。まあいい、通れ。駐屯地は旧市街との境界にある、一番古い兵舎だ。間違えるなよ」
その言葉は、明らかに俺たちを馬鹿にしたものだった。
俺は何も言い返さず、無言で馬を進めた。部下たちの間に、怒りの空気が広がるのが分かったが、今は事を荒立てる時ではない。
案内された駐屯地は、男の言葉通り、壁が崩れ、屋根には穴が空いているような、廃墟同然の古い兵舎だった。あからさまな嫌がらせだ。
俺たちが馬から降り、荷物を解き始めた、その時。アーノルド子爵本人が、数人の取り巻きを連れて、わざとらしく姿を現した。
「ようこそ、アッシュフォード少佐。君の活躍はかねがね聞いているよ」
アーノルド子爵は、にやにやとした笑みを浮かべて言った。その目には、先日の練兵場での屈辱を根に持っているかのような、陰湿な光が宿っている。
「光栄ですな、子爵。あなたの『素晴らしい統治』のおかげで、この街もずいぶんと『活気』があるようだ」
俺は、皮肉を込めて言い返した。
子爵の眉がピクリと動いたが、彼はすぐに笑みを深めた。
「ははは、手厳しいな。まあ、ゆっくりしていくといい。君たちの任務は、この街の『ゴミ掃除』だそうだからな。存分に、その力を振るうといい」
彼は、そう言い残すと、部下を引き連れて屋敷の中へと消えていった。
「……あの野郎……!」
ハルが、悔しそうに拳を握りしめる。
「まあ、落ち着け、ハル」俺は、肩をすくめた。「ああやって、分かりやすく敵意を向けてくれる方が、こっちとしてはやりやすい」
「ですが、リオン君! あの言い草は、あまりにも……自分が統治する領民のことをゴミなんて…」
エリアーナが、憤慨したように言う。
「エリアーナ、これが貴族社会の一部の現実だ。お前も、いずれ知ることになる」
彼女は唇を噛み締めた。
俺は、部下たちに向き直り、きっぱりとした口調で言った。
「いいか、全員聞け。これより、我々は任務を開始する。表向きは、この街の治安維持だ。だが、俺たちの本当の目的は、この街に渦巻く『闇』を暴き出すことにある。……今夜、日没後に、改めて作戦会議を行う。それまで、各自、休息と、そして情報収集に努めろ。ただし、決して目立つな。俺たちは、今この瞬間から、敵地の真っ只中にいるということを、決して忘れるな」
俺の言葉に、部隊のメンバーたちは、緊張した面持ちで、しかし力強く頷いた。
俺は、アーノルド子爵が消えていった豪華な屋敷を、冷たい目で見つめていた。
この街には、腐敗と、絶望と、そして多くの秘密が渦巻いている。
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