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危険な任務

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首都エルドラードを出発し、馬を駆ること数日。

東部占領地エルトリアへと続く街道沿いの、寂れた森で俺たちは野営の準備を進めていた。ハルたちが手際よく見張りを立て、リズベットが携帯食の準備をする中、俺は主要なメンバーを焚き火の前に集めた。

パチパチと音を立てて燃える炎が、集まった俺たち――ハル、マルコ、リーザ、サイラス、リズベットと古参兵たち、そして緊張した面持ちのエリアーナとゼイド――の顔を、不安げに照らし出している。


「これより、任務の詳細通達を行う」

俺のその言葉に、それまでの雑談がぴたりと止み、全員の視線が俺に集中した。


俺は、テーブル代わりに置いた木箱の上に、エルトリアの詳細な地図を広げた。

「まず、我々に与えられた表向きの任務についてだ。全員、耳をかっぽじってよく聞け」


俺は、ドレイクから受けた命令の内容を、わざと感情を排した、事務的な口調で説明し始めた。

「東部占領地エルトリアは、ご存知の通り、今回の戦争でヴァルトール伯爵が多大な戦果を挙げて敵国から奪った領地だ。地理的には、伯爵自身の領地の隣に位置する。そして、現在の統治責任者は、あのアーノルド子爵だ」


アーノルドの名が出た瞬間、ゼイドの眉がわずかに動き、ハルが面白くなさそうに鼻を鳴らした。


「エルトリアは、元々、敵国の占有地であった頃から、当時の領主による過酷な搾取に苦しめられてきた。そのため、住民の王国に対する敵対心は薄い。さらにヴァルトール伯爵が市民に危害を加えず、巧みに制圧したおかげで、占領当初は大きな問題も起こらず統治できていた、と報告にはある。だが、ヴァルトール伯爵がアーノルド子爵に統治を任せるようになってから、状況は悪化の一途を辿っている。子爵の失政により、領地内には貧富の差が拡大。特に、旧市街区は貧困エリアと化し、治安が極度に悪化しているらしい。……我々、特務遊撃部隊の任務は、その富裕層エリアに、貧困エリアの住民が窃盗や物乞いとして流れ込んでくることを、実力行使をもって抑制することだ」


「なっ……!?」

最初に声を上げたのは、エリアーナだった。

「そ、そんな……! 私たちの任務は、困っている人たちを取り締まることなのですか……? それでは、まるで……」

彼女の顔には、明確な嫌悪と戸惑いが浮かんでいる。


「その通りだ。まるで、貴族様の番犬だな」俺は、冷ややかに言い放った。「これが、騎士団が我々に与えた公式な任務だ。だが、当然、こんなくだらないことのために、俺たちがわざわざ出向きはしない」


俺は、周囲を確認し、声を潜めた。

「ここからが、俺たちの本当の任務だ」


メンバーたちの視線が、再び俺に集中する。


「前回の任務で、我々は敵の工作部隊が『月長石の花』という希少な素材を集めていることを突き止めた。そして、その触媒を大量に供給できるのは、世界で唯一、ヴァルトール伯爵だけだ。ドレイク騎士団長の調査によれば、このエルトリアが、その『月長石の花』をゼノン帝国に横流ししている密輸拠点である可能性が極めて高い」


「では、やはりヴァルトール伯爵が……!」

ゼイドが、悔しそうに歯噛みする。


「ああ。だが、ドレイク騎士団長は、ヴァルトール伯爵が、いつでもアーノルド子爵を切り捨てられるように、あの占領地をあえて与えたと見ている。アーノルドは、トカゲの尻尾というわけだ」


俺は、地図上の特定のポイントを指し示した。

「俺たちの真の任務は二つ。一つ、エルトリアのどこかで、月長石の花がゼノン帝国に横流しされているという決定的な証拠を掴むこと。そして二つ目、最も重要なことだが、その横流しに、ヴァルトール伯爵自身が直接関与しているという、動かぬ証拠を掴み出すことだ。アーノルド子爵に全ての罪をなすりつけ、トカゲの尻尾切りをさせる前に、大元の首を獲る」


その壮大で、そしてあまりにも危険な任務の全貌に、エリアーナとゼイドは息を呑んだ。これは、単なる討伐任務ではない。

国家の最高権力者の一人を、秘密裏に捜査し、その罪を暴き出すという、一歩間違えれば俺たち全員が反逆者として処刑されかねない、危険な任務だ。


「……やりましょう、隊長。」

最初に沈黙を破ったのは、ハルだった。その目には、困難な任務への闘志が燃えている。他の古参兵たちも、頷いている。彼らは、俺と共に、この国の闇と戦う覚悟を決めているのだ。


「……承知、いたしました」

エリアーナとゼイドもまた、顔に緊張と覚悟を浮かべ、力強く答えた。


俺は、そんな彼らの顔を見渡し、静かに頷いた。

「よし。明日、エルトリアに到着次第、ただちに調査を開始する。……今夜は、ゆっくり休め」

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