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報告、閉ざされた正義

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西の辺境での任務を終え、首都エルドラードに帰還した俺は、休む間もなく騎士団本部、グラン・ドレイク騎士団長の執務室の前に立っていた。


「入れ」

中から、低く、そして重い声が響く。俺は、扉を開け、一糸乱れぬ動きで敬礼した。

「アッシュフォード少佐、任務完了の報告に参上いたしました」


「うむ、入れ」

部屋の主、グラン・ドレイクは、巨大な執務机の向こう側で、椅子に深く腰掛けたまま、俺の顔をじっと見つめていた。その鷲のような鋭い瞳は、俺の心の奥底まで見透かそうとしているかのようだ。


俺は、彼の机の前まで進み出ると、今回の任務の成功と、敵アジトで発見した証拠物件について、冷静に、そして詳細に報告を始めた。

「西部の盗賊団は、報告通り、敵国の工作部隊でした。部隊は完全に殲滅。我が方の損害は、軽傷者数名のみです」

俺は、懐から証拠物件をいくつか取り出し、彼の机の上に置いた。村から奪われた地質図の写し、廃坑で採掘されていた特殊な鉱石のサンプル、そして、敵兵が最後に使用した、禍々しい紫色の薬瓶の残骸。

「奴らの目的は、略奪ではなく、特定の素材の収集でした。そして、追い詰められた兵士たちは、この薬を使い、自らの生命力を燃料に、強力な炎魔法を発現させました」


俺がそう報告した瞬間、ドレイクは書類から顔を上げ、俺の顔をじっと見つめて、その口元にわずかな皮肉の笑みを浮かべた。

「ほう、強力な炎魔法、か。どこぞの誰かさんのようだな、アッシュフォード少佐」


彼の言葉は、明らかに俺を指していた。俺の異名「双炎の厄災」を揶揄し、そして、この件と俺の力を関連付けて探りを入れているのだ。俺は、その挑発には乗らず、無表情のまま報告を続ける。


「ゼノン帝国は、おそらく魔力強化に類する薬剤の開発を行っているものと推測されます。そして、その研究のために、この土地の特殊な鉱石と、村の文献を必要としたのでしょう」

俺は、最後に、リズベットが特定した『月長石の花』の灰が入った袋を置いた。

「そして、これがその薬剤を完成させるための、最後の触媒です」


ドレイクは、その白い灰を指先に取り、静かに言った。

「……月長石の花。ヴァルトール伯の……」


「御明察の通りです」俺は続けた。「これだけの量の触媒を、敵国の部隊が所持している。考えられる可能性は一つ。ヴァルトール伯爵は、帝国にこの薬剤開発の素材を横流ししている。そうとしか考えられません」


「……伯爵の狙いは何だ? 帝国を勝たせることに、何の得がある?」


「おそらく、彼はどちらが勝ってもいいのでしょう」俺は、自分の推論を冷徹に語った。「ゼノン帝国がこの薬を完成させ、戦争に勝利すれば、彼は帝国の最大の功労者となる。逆に、我がアルクス王国が勝利したとしても、彼は『王国一の忠臣』の仮面を被ったまま、その地位を安泰にできる。どちらに転んでも、彼は莫大な富と権力を手にする。そのために、裏切っていると考えるのが自然かと」


俺の言葉に、ドレイクは初めて、その表情に深い苦悩の色を浮かべた。彼は、しばらくの間、黙って窓の外を眺めていたが、やがて、重々しく口を開いた。

「……君の報告通りなら、これは王国を揺るがす一大事だ。アッシュフォード、君の功績、見事であった」


彼は、俺の意見を認めた上で、しかし、主導権はこちらにあるとでも言うように、続けた。

「君の言う通り、この話は多くの者に広めるわけにはいかない。公に動くことはできん。事が動くときは、再び君の部隊に、極秘の任務を出すことになるだろう。その覚悟はあるか?」


「いつでもご命令を。俺の部隊は、常に戦う準備ができています」


「よろしい」ドレイクは、満足そうに頷いた。そして、最後に、釘を刺すように言った。

「わかっていると思うが、本件は重大機密事項だ。君の部隊の隊員たちにも、厳重な緘口令をしいておけ。特に、新人二人にはな。彼らが、余計な正義感で事を誤ることのないように、君がしっかりと監督しろ」


「……御意」

俺は、静かに敬礼し、執務室を後にした。

そしてそのまま休むことなく町へと繰り出していった。

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