諦めと覚悟
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(……通らなければならない道だ、エリアーナ。だが、ここで死なせるわけにはいかない)
廃坑の入り口、その影の中から、俺は静かに右手の指を弾いた。特別な魔法ではない。ただ、指先に凝縮させたごく微量の魔力を、空気の弾丸として、音もなく射出しただけだ。
カッ!
エリアーナに斬りかかろうとしていた敵兵の手首から、乾いた音が響いた。彼の持っていた剣が、まるで見えない何かに弾かれたかのように宙を舞い、地面に転がる。
「なっ……!?」
敵兵は、何が起こったのか理解できず、自分の手を見つめて呆然としている。エリアーナも、恐る恐る目を開け、目の前の敵が武器を失っていることに、そして自分がまだ生きていることに、驚きを隠せないでいた。
「どうした、エリアーナ」
廃坑の入り口から、俺の冷たい声が響いた。
「敵は、お前が覚悟を決めるまで、待ってはくれんぞ」
俺の言葉に、エリアーナはハッとしたように、震える視線を上げた。彼女の目には、目の前で武器を失い呆然とする敵兵と、そして自分を守るために傷つきながら戦う仲間たち――必死に剣を振るうゼイドや、敵の猛攻を受け止めるリーザたちの姿が映っていた。恐怖で足がすくむ。だが、ここで何もしなければ、仲間が、そして自分自身が死ぬ。その単純な、しかし揺るぎない事実が、彼女の心を貫いた。
(……やらなければ……私が……!)
エリアーナの瞳から、恐怖の色が消えた。代わりに、そこに宿ったのは、悲しみを乗り越えようとする、強い意志の光だった。彼女は、涙を振り払うように一度強く目を閉じ、そして、再び目を開くと、武器を失い呆然とする敵兵に向かって、杖の先端を向けた。
彼女の震える唇から、悲壮な、しかし凛とした詠唱が紡がれる。
「迷いはもうありません……! 荒れ狂う慈悲よ、彼を貫け! ハイドロ・ランス!!」
彼女の杖先から放たれたのは、もはや牽制のための水の弾丸ではない。鋭く、そして強力な、一点集中の水の槍だった。それは、エリアーナの悲しみと覚悟を乗せて、敵兵の胸を正確に貫き、彼は苦悶の声を上げる間もなく、その場に崩れ落ち、動かなくなった。
エリアーナは、その光景を、決して目を逸らさずに見つめていた。その手は微かに震え、頬には一筋の涙が伝っていたが、その顔には、確かな覚悟が刻まれていた。
「……エリアーナ……!」
彼女のその姿に、ゼイドもまた、何かを打ち破ったかのような表情を見せた。彼は、初めて人を殺めたことへの恐怖と動揺を、その強い意志で捻じ伏せたのだ。
「……負けてはいられないな、俺も!」
ゼイドは、そう叫ぶと、再びその身に雷光を纏った。だが、その動きは、先ほどまでとは明らかに違う。迷いが消え、一撃一撃に、仲間を守るという意志が込められている。彼の雷速剣技が、ついに戦場でその真価を発揮し始めたのだ!
「はあっ!」
彼は、驚異的な速度で敵兵たちの間を駆け抜け、その剣が閃くたびに、一体、また一体と、敵が地に伏していく。その姿は、まさに雷神のようだった。
俺は、彼らのその変化を、静かに見守っていた。彼らは、今、この瞬間、本当の意味で「戦士」となり、そして、二度と元には戻れない道を歩み始めたのだ。
新人二人の覚醒と、古参兵たちの奮闘により、混乱していた敵兵のほとんどは制圧されていった。しかし、一部の精鋭部隊だけは、隊長格と思われる屈強な男の指揮のもと、巧みな連携で防御陣を固め、ハルとリーザの猛攻に耐え続けていた。
「ぐっ…!貴様ら、一体何者だ!」
敵の隊長格の男が、ハルの巨大な戦斧を、自身の長剣で受け止めながら、必死の形相で叫んだ。彼の部隊は、数的不利にも関わらず、驚くべき練度で抵抗を続けている。
「そして、誰だ、こんな頭のおかしい奇襲攻撃を仕掛けてきた奴は!?」
ハルは、鍔迫り合いの状態で、ニヤリと歯を見せて笑った。
「へっ、俺たちの隊長、『双炎の厄災』だ。敵国の工作員の旦那なら、聞いたことくらいあるだろ?」
「双炎の……厄災……だと…!?」
敵の隊長の顔に、絶望の色が浮かんだ。彼は、相手が王国最凶と噂される、あの伝説的な部隊であることを悟り、もはやこれまでと覚悟を決めたようだ。
「……ここまでか。だが、貴様らも道連れだ…! お前たち、覚悟を決めろ!」
彼は、生き残った部下たちにそう叫ぶと、懐から禍々しい紫色の光を放つ小さな薬瓶を取り出し、躊躇なく、その中身を一気に呷った!
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