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狂気の作戦

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俺たちが村での現場調査を終え、野営地に戻った頃には、日は既に中天に差し掛かっていた。エリアーナとゼイドは、すっかり口数も少なくなり、その顔には、自分たちがいかに甘い世界にいたのかを痛感させられたことによる、一種の衝撃と、そして悔しさが浮かんでいた。だが、同時に、彼らの瞳の奥には、この厳しい現実から目を背けず、何かを学ぼうとする強い意志の光も宿っている。それが見えただけでも、彼らを連れてきた価値はあったのかもしれない。


「隊長、どうやら俺たちの想像以上に、厄介な連中のようですね」

野営地に戻るなり、俺の隣を歩いていたハルが、腕を組みながら唸った。彼も、村での調査を通じて、敵のプロフェッショナルな手口に警戒を強めている。


「ええ」リズベットも、真剣な表情で頷く。「特定の文献と鉱石だけを狙うなんて、ただの盗賊のやることじゃないわ。何かの儀式か、あるいは、魔道具の作成でも企んでいるのかしら……。どちらにしても、きな臭いわね」


「敵の正体は、ゼノン帝国の正規の工作部隊か、それに準ずる組織と見て間違いないだろうな」俺は、野営地に広げられた地図を指しながら結論付けた。「問題は、奴らがこの辺境の地で、一体何をしようとしているかだ」


俺たちが議論を重ねていると、不意に、野営地の茂みから一つの影が音もなく現れた。偵察に出ていたマルコだ。その表情は硬い。


「隊長、報告します」

マルコは、俺の前に進み出ると、敬礼もそこそこに、早口で報告を始めた。

「連中のアジトは、やはりあの北の古い廃坑です。ですが……」


「だが、どうした?」


「……少し奇妙です」マルコは、わずかに眉をひそめた。「一見すると、大したことのない盗賊団が拠点にしているように見えました。野営の跡もいくつかありましたが、後始末が雑で、まるで素人のようです。これだけなら、大した脅威ではないと判断するところですが…」


マルコの言葉に、ハルが「なんだそりゃ? 村での手際の良さとは話が違うじゃねえか」と訝しげな声を上げる。


「ええ。俺も最初はそう思いました」マルコは続けた。「しかし、その周囲の野営跡や足跡を詳しく調べたところ、いくつか見過ごせない点がありました。焚き火の組み方も一見雑ですが、延焼を防ぐための処理が完璧になされている。食べ残しのように見えるものも、野生動物を寄せ付けないための工夫が凝らしてある。そして何より、足跡そのものです。その運び方、歩幅の間隔、集団で移動した際の距離感……これらは、間違いなく軍の厳格な訓練を受けた人間のものである可能性が高いです。」


「……つまり、奴らは、意図的に『雑で大したことのない盗賊団』を演じている、ということか」

俺は、マルコの報告の意図を正確に読み取った。


「はい。おそらくは。外部の目を欺き、時間を稼ぐための偽装工作かと。連中は、我々が考えている以上に、厄介な相手かもしれません。」

マルコの報告は、俺たちの推測を裏付け、さらに事態の緊急性を高めるものだった。


「廃坑の内部までは潜入できませんでしたが、廃校と連なる岩に耳を当てると、規則的な金属音…何かを採掘しているような音が聞こえました。その他には大規模な儀式や魔法陣といった様子はありません。どうやら、奴らはこの場所で『何か』をするのではなく、この廃坑自体を、何らかの素材の『採集場所』として利用しているようです」


マルコのその報告に、リズベットが口を開いた。

「村で奪われた文献は『地質に関する古い文献』、そして『特殊な鉱石』。そして、この廃坑で何かを『採掘』している……。これだけの規模で、しかも身分を偽ってまで集める素材…ろくなことに使うものじゃないわね。」


リズベットの言葉に、俺は同意した。敵の目的が何であれ、これ以上放置しておくのは危険だ。

俺は、即座に決断を下した。

「……作戦は、今夜決行する。奴らが目的の素材を全て集め、この地から去る前に、叩く」


俺のその言葉に、テント内の空気が一気に引き締まる。


「敵はプロだ。おそらく、我々のような軍の接近もある程度は想定しているだろう。奇襲の利は少ないと考えた方がいい。だが、それでも夜陰に乗じて、可能な限り迅速に、そして静かに、敵の指揮系統を叩き潰す」


俺は、地図を指し示しながら、作戦の骨子を説明し始めた。


俺は、テーブルに広げられた地図を指し示しながら、厳しい現実を突きつけた。

「いいか、よく聞け。我々特務遊撃部隊は総勢23名。対する敵は、マルコの偵察によれば推定50名以上。しかも、ただの盗賊ではない、高度な訓練を受けたプロの工作部隊だ。この戦力差で、まともに正面からぶつかればどうなるか……言うまでもないな。敵に組織立った動きをされては、まず我々に勝ち目はない」


俺の言葉に、テントの中は重い沈黙に包まれた。


「だから」俺は続けた。「奴らの組織としての機能を、戦闘開始と同時に完全に破壊する。そのために……俺が単騎で敵の中枢を直接叩く」


「隊長!」ハルが、思わずといった様子で叫んだ。「いくら隊長でも、それは無茶です! 敵の警戒網をどうやって突破するんですかい!?」


「普通に突っ込んでも、入り口の警戒網に阻まれて終わりだ」俺は、ハルの言葉を肯定した。「だから、普通じゃない方法で行く。……奴らの魔力探知の範囲外――この地図上の、廃坑から約500メートル離れたこの崖の上から、一気に廃坑の最深部近くにある、あの通気孔へと飛ぶ」


「飛ぶ、ですって……? そんな長距離を、どうやって……」

リズベットが、信じられないといった表情で俺を見る。


俺は、その視線を真っ直ぐに受け止め、そして、隣に立つハルに向き直った。

「ハル、お前の出番だ」


「……へ?」


俺は、その場の全員が耳を疑うような、常識外れの作戦内容を告げた。

「まず、俺が爆裂魔法で自身を極限まで加速させる。そして、その勢いのまま、ハル、お前が俺を『ぶん投げる』んだ」


「…………はぁ!?」


ハルだけでなく、その場にいた全員が、唖然として口を開けていた。


「お前の膂力は、この騎士団でも随一だ。最大限の魔力で身体強化したお前の投擲力と、俺自身の爆裂魔法による初速と空中での軌道修正を組み合わせれば、俺を砲弾のように、あの通気孔まで届かせることは、理論上可能だ。俺は超高密度の炎のオーラで全身を守るから、投擲や着地の衝撃で死ぬ心配はない」


作戦室は、静まり返っていた。エリアーナとゼイドは、もはや思考が停止しているかのように、俺とハルを交互に見ている。古参のメンバーたちですら、俺のその常軌を逸した作戦に、言葉を失っていた。


「……隊長、そいつは……正気ですかい?」

ようやく、ハルが絞り出すように言った。


「正気だ。これが、敵に気づかれずに、一瞬で懐に飛び込むための、唯一にして最善の方法だ」


俺は、続けた。

「俺が内部に到達し次第、炎で奴らの拠点と指揮系統を、文字通り燃やし尽くし、大混乱を引き起こす。お前たちは、俺が内部で暴れ始めたのを合図に、廃坑の入り口を完全に封鎖しろ。そして、火と煙から逃げ惑い、統率を失って外に出てきたところを、一人残らず一網打尽にする。いいな?」


これは、もはや奇策ではない。俺という存在そのものを、文字通り「厄災」として敵陣の心臓部に撃ち込むという、狂気の作戦だった。


「そ、そんな……! リオン君一人に、そんな危険すぎることをさせるなんて、できません!」

エリアーナが、悲鳴に近い声を上げて反対した。その瞳には、俺の身を案じる、切実な想いが浮かんでいる。


俺は、その視線を真っ直ぐに受け止め、静かに、しかし有無を言わせぬ響きで諭すように語りかけた。

「エリアーナ、お前の気持ちは分かる。だが、よく考えてくれ。もし、お前たちが敵の立場で、自分たちの本拠地――しかも、逃げ場のない密室空間である廃坑のど真ん中――に、突如として正体不明の、炎をまき散らすヤバい奴が現れたら、どうする? まともに突っ込んでいけるか?」


「そ、それは……」

エリアーナは、言葉に詰まる。


「混乱し、恐怖し、まともな判断などできなくなるだろう。組織としての動きも完全に麻痺するはずだ。俺が狙っているのは、まさにそこだ。そういう事だ。これは、敵の戦意そのものを内側から破壊し、我々の犠牲を最小限に抑えるための、最も確実な方法なんだ」


真面目な顔で熱弁する俺を見てもはや誰も反論できない。エリアーナは、唇を噛み締め、悔しそうに俯いたが、作戦の有効性を認めざるを得ないようだった。


「……分かりました、隊長」ハルが、ごくりと喉を鳴らし、そして、不敵な笑みを浮かべた。「面白え! やってやりましょう! 俺の生涯最高の『隊長投げ』、見せてやりますぜ!」


彼のその言葉に、部隊の士気が一気に高まる。


ゼイドは、その狂気の作戦と、それを実行しようとする俺たち特務遊撃部隊の異様な雰囲気に、ただただ圧倒されるしかなかった。

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