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敵の痕跡と確信

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俺たち特務遊撃部隊が首都エルドラードを出発し、馬を駆ること数日。西の辺境、バルドール山岳地帯は、その名の通り、険しい山々と深い谷が連なる、荒涼とした土地だった。道は険しく、空気は乾燥し、時折吹く風は砂塵を巻き上げる。


そして、俺たちは、被害報告があった「アルダ村」へと到着した。だが、そこに広がっていたのは、俺が予想していたような、略奪の跡が生々しい惨状ではなかった。村の入り口の柵は修理された跡があり、いくつかの家屋の壁に真新しい板が打ち付けられている以外は、目立った破壊は見られない。畑では農夫たちが黙々と鍬を振るい、井戸端では女性たちが洗濯物を手にしている。一見すると、ほとんどいつも通りの、穏やかな村の日常風景がそこにはあった。


「……あれ?」

エリアーナが、馬上で戸惑いの声を漏らした。「報告では、この村が大規模な盗賊団に襲われたと……。何かの間違いだったのかしら?」

「ふん、だとすれば、無駄足だったということか」

ゼイドも、拍子抜けしたような表情で周囲を見渡している。


だが、俺と、俺の隣を馬で並走していたハル副隊長は、その光景に別のものを感じ取っていた。

「……隊長、どう思いますかい? こいつは、ちと……」

「ああ、おかしいな」

俺は、ハルの言葉に頷いた。一見平穏に見える村だが、その空気は、どこか不自然なほどに張り詰めている。村人たちの動きは、日常をこなしてはいるものの、その背後には常に警戒心があり、時折不安げに周囲を見渡している。そして、俺たち騎士団の制服を見た瞬間、彼らの目に浮かぶのは安堵の色が浮かぶのが見えた。


俺は、部隊を村の外れで待機させ、ハル、エリアーナ、リズベットと共に、村長の家へと向かった。


村長は、痩せ型の初老の男性だった。彼は、俺たちが騎士団の者だと知ると、心の底から安堵したような表情を浮かべ、深く頭を下げた。

「おお……騎士団様! よくぞ、本当によくぞ来てくださいました……!」


「状況は聞いている。被害の詳細と、襲ってきた連中の様子を、分かる限りでいい、教えてほしい」

俺は、単刀直入に尋ねた。


村長の顔が、再び恐怖と疲労の色に曇る。

「……はい。あれは、6日前の夜のことでした。奴らはまるで影のようでした。鮮やかな手際で、村のいくつかの家や蔵から、金品や食料、そして何より、村の集会所に保管されていた地質に関する古い文献や、一部の村人が所有していた近くの山でしか採れない鉱石を、狙い撃ちで奪っていきました」


「奴らは、住民には手を出さなかったのか?」俺は尋ねた。


「はい……。抵抗しようとした若い男たちが何人か、あっという間に打ちのめされましたが、幸い、命に別状はありませんでした。それ以外の者に死傷者はおりません。物的被害も、見ての通り最小限です。だからこそ、我々はすぐに日常生活に戻ることができました。ですが、またいつ奴らが現れるか分からず、夜もろくに眠れず、男たちで見張りを続けている有様でして……」


村長の話から、敵が極めて訓練された集団であることが伺える。俺は、村長に礼を言うと、彼から襲撃者が去っていったという「北の『鬼の棲家』(古い廃坑の俗称)」に関する情報を聞き出した。


野営地に戻った俺は、すぐに斥候役のマルコに指示を出した。

「マルコ。北にある古い廃坑を偵察しろ。だが、決して深入りはするな。敵の警戒網の規模と、兵力のおおよその数を把握するだけでいい。敵はプロの可能性が高い、油断すればすぐに気づかれるぞ」


「了解しました、隊長」

マルコは、数名の部下を連れ、音もなく闇夜に溶け込んでいった。


「さて、と」俺は、マルコたちを見送った後、ハル、そして新人二人に向き直った。「ただ待っているだけでは時間がもったいない。俺たちも、敵の情報を少しでも多く集めるぞ。村に戻り、現場を詳しく調べる」


「現場を、ですか?」エリアーナが聞き返す。


「ああ。敵が残していった、僅かな痕跡から、奴らの正体と実力を推し量るんだ。ついてこい。本当の戦い方がどういうものか、教えてやる」

俺は、そう言って、再びアルダ村へと向かった。



俺たちが向かったのは、村長の話にあった、抵抗した村の若者たちが打ちのめされたという村の広場だった。そこには、まだ生々しい争いの痕跡が、注意深く見なければ気づかないほど、巧妙に残されていた。


「エリアーナ、ゼイド。よく見ておけ」

俺は、広場の地面や、近くの家の壁に残された微かな傷跡を指差した。

「お前たちには、これが何に見える?」


二人は、顔を近づけ、真剣な表情でその傷跡を観察する。

「これは……剣の跡でしょうか? でも、あまり深くない……。それに、この壁のへこみは、棍棒か何かで殴られたような……」

エリアーナが、首を傾げながら答える。


「ふん、ただの乱闘の跡にしか見えんがな」

ゼイドも、特に重要な情報はないといった様子だ。


「甘いな」俺は、冷ややかに言い放った。「ハル、お前なら分かるだろう」


「へっ、まあ、長年隊長の下でしごかれてますからね」ハルは、ニヤリと笑うと、壁の傷に指を触れた。「この傷…剣の角度と深さが浅すぎる。これは、相手を殺すためじゃなく、相手が持っていた武器(農具か何か)を弾き飛ばし、致命傷にならないように止めている。戦意を削ぐためだけの一撃だ。無駄な力は一切入っていない。素人ができる芸当じゃねえ」


続けて、ハルは地面に残る微かな窪みを指した。

「こっちのへこみもそうだ。これは、棍棒の先端か、あるいは剣の柄頭で、相手を壁に押さえつけた跡だ。これは相手を殺さず、物品の在りかを吐かせるために脅したんだろう。つまり最初から物的被害を出すつもりはなかったという事だ。」


「その通りだ」俺は、ハルの説明に頷いた。「次に、足跡を見てみろ」


俺たちは、襲撃者が通ったであろう裏道へと移動した。そこには、数日前のものと思われる、多数の足跡が、風で消えかかりながらも残っていた。

「この数日雨が降らなかったのが幸いだな。見ろ、この足跡の間隔。ほぼ均等で、乱れがない。これだけの人数が、夜陰に乗じて、これほど統制の取れた動きができるのは、厳しい集団訓練を受けた証拠だ。数日たっても足跡が残っていることから見て、全員がかなりの重量の装備を身につけていることも分かる。……間違いなく、ただの盗賊じゃない。俺たちと同じ、訓練された軍人だ。」


俺の断定的な言葉に、エリアーナとゼイドは息を呑んだ。彼らは、ただの傷跡や足跡から、そこまで詳細な情報を読み取った俺とハルの観察眼に、驚きを隠せないでいるようだった。


「これが、戦場での索敵であり、情報収集だ。敵の姿が見えなくとも、残された痕跡から、その実力、規模、目的までをも推し量る。戦場で有利に立ち回るには、こういう地味な観察が大事なんだ。」


俺の言葉を真摯に受け止めているようだった。彼らも、学院での学びと、実戦での「観察眼」の違いを、痛感したのだろう。


「さすがは隊長だ」ハルが、満足そうに頷く。


俺の中で、敵の正体と、その危険度に関する確信が、さらに固まっていった。

(ドレイクから任務を言い渡された段階で厄介な任務になるとは思っていたが、ここまで訓練されたプロが相手とはな…)

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