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洗礼の模擬戦

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エリアーナが展開した高等魔法「アクア・ヴェール・サーペント・マキシマム」は、瞬く間に訓練場一帯を濃密な白い霧で包み込んだ。視界は数メートル先もおぼつかず、霧に込められた微細な水の魔力粒子が、通常の魔力感知をも大きく阻害している。防御側のハルたちが混乱するのも無理はない。


「くそっ、この霧、ただ視界が悪いだけじゃねえ! 魔力の流れが完全に乱されてやがる! マルコ、リーザ、サイラス、互いの位置を見失うなよ! 下手に動けば孤立するぞ!」

霧の中から、ハルの怒声混じりの指示が飛ぶ。彼の言う通り、この濃霧は防御側の連携を断ち切るには十分すぎる効果を発揮していた。


作戦通り、エリアーナは拠点北側に作り出した複数の偽の魔力反応を誘導し、斥候であるマルコの注意をそちらに引きつけつつ、さらに自身は拠点東側で、ゼイドの雷魔法を模倣した低級の雷魔法と、広範囲に展開可能な水魔法を交互に放ち始めた。あたかも、魔法使いたちが同時に派手な攻撃を仕掛けているように見せかけているのだ。


「隊長! 北側から複数の魔力反応! 同時に東側からも、二種類(水と雷)の強力な魔力反応です! おそらく、エリアーナ嬢とゼイドが連携して攻撃を!北側はおとりかと思われます!」

マルコが、霧の中で位置を特定しようと索敵魔法を使いながらも、混乱した様子でハルに報告する。エリアーナの魔力擬態と一人二役の陽動は、見事に彼の目を欺いている。


「ちぃっ、この霧の中で場所を特定させずに魔法で押し切るつもりか! 新人のくせに小賢しい真似を!」

ハルは舌打ちし、すぐさま指示を出す。

「リーザ! お前は正面東側の魔法攻撃を抑えろ! サイラス、櫓から魔法と弓でリーザを援護! マルコ、お前は北側の魔力反応に回り、状況を確認しろ! 俺は中央で全体の指揮を執りつつ、旗から目を離さん!」


ハルの指示は的確だった。だが、それはエリアーナとゼイドの描いた筋書き通りでもあった。防御側の三人が、エリアーナの作り出した陽動と偽の襲撃に対処するために、それぞれの持ち場へと意識を集中させていく。


「ウォーター・ブリッド!」

エリアーナが叫ぶと、東側の偽の襲撃地点で、複数の水の鞭が地面から伸び上がり、リーザの足元に絡みつこうとする。

「ふん、小賢しい!」

リーザは、その巨体からは想像もできないほどの素早い反応で、タワーシールドを地面に叩きつけるようにして水の鞭を粉砕する。だが、その間、彼女の意識は完全に東側に集中させられていた。


「サイラスさん! あなたの矢は、この霧では役に立ちませんわよ!」

エリアーナは、さらに挑発するように、櫓の上のサイラスに向かって、東側から水の矢を数発放つ。

「ちぃっ……!」

サイラスは、濃霧で視界を完全に奪われ、得意の弓がほぼ無力化されている。彼は風魔法で霧を吹き払おうと試みるが、エリアーナの霧魔法は広範囲かつ持続的で、一部を払ってもすぐに新たな霧が立ち込めてくる。「この霧さえなければ…!」彼は聴覚と勘を頼りに数本の矢を放つが、エリアーナはそれを巧みに回避し、逆に水の矢を櫓に向かって放ち、サイラスの集中を執拗に乱し続けた。


北側に陽動の確認に向かったマルコもまた、エリアーナが作り出した複数の偽の魔力反応に完全に翻弄されていた。

「くそっ、なんだ! 動物や動かない木ばかりじゃないか! この霧といい、魔力反応の揺らぎといい、全容が見えるまでここから離れられん!」

マルコの焦りの声が、霧の中から聞こえてくる。


(……エリアーナの魔力制御、そして戦術眼も、二年前とは比べ物にならないほど成長しているな。広範囲の霧を維持しながら、複数の魔力反応を擬態させ、さらに一人二役の陽動魔法まで使うとは……。相当な魔力と集中力が必要なはずだ。だが、その分、彼女自身の消耗も激しいだろう。ゼイドは、この完璧な状況を活かせるか……?)


俺は、監視台の上から、エリアーナの予想以上の奮闘と、それによって防御側の主力三人が効果的に引きつけられ、連携も分断されつつある状況を冷静に分析していた。彼女の作戦は、今のところ、見事に機能していると言えるだろう。


その間、本物のゼイドは、エリアーナが作り出した混乱と濃霧に紛れ、一切の魔力反応を消し、音もなく拠点西側の、完全に手薄になった岩陰から、旗竿の根元でどっしりと構えるハルの背後へと、まるで影のように迫っていた。


霧の中で、エリアーナの放つ偽の雷魔法の音と光が、派手に東側で炸裂する。リーザとサイラス、そして陽動に振り回されているマルコの意識が、そちらに完全に集中した、まさにその瞬間。


「――隊長! 東側の雷魔法、あれはゼイドじゃない! 魔法の発生が水魔法と雷魔法が同じ場所から出続けている!雷魔法も低級のものばかりです! これは陽動です! 恐らくマルコの方も陽動だ!すぐに戻れ! ハル隊長、西側です! ゼイドがそちらへ向かいました!」


櫓の上のサイラスが、何か異変に気づき、鋭く叫んだ! 彼は、エリアーナが一人で二役の魔法を使っているのを見抜き、そして、それまで全く気配のなかったゼイドの本当の狙いに気づいたのかもしれない。


「なにぃっ!?」

ハルが、驚愕の声を上げ、背後を振り返ろうとする。


だが、遅かった。


「――そこだァッ!!」


雷鳴のような鋭い気合と共に、ゼイドの身体から圧縮された雷の魔力が爆発的に解放される! その推進力で、彼の身体はハルの背後へと一気に跳躍し、右手の訓練用長剣が、ハルの無防備な背中目掛けて閃光のように突き出された!

どんどん更新していきますので作品評価&ブックマークをお願いします!

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