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洗礼の模擬戦

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エリアーナとゼイドとの再会から一夜が明けた。昨日の歓迎会は、ハルが宣言した通り、ささやかながらも賑やかなものとなった。古参の兵たちも、久々に顔を合わせた若く美しい魔法使いと、学院首席という鳴り物入りの新人魔法剣士に興味津々で、質問攻めにしていたようだ。俺は早々に引き上げたが、彼らが部隊に馴染む良い機会になったのなら何よりだ。


しかし、感傷や歓迎ムードに浸っていられるほど、戦場の日常は甘くない。彼らが騎士団に正式配属された以上、一日も早く実戦に対応できる能力を身につけさせ、そして何よりも、この部隊の戦い方を理解させる必要があった。あのアストリッド大佐が、わざわざ俺の元にこの二人を送り込んできた意図はまだ測りかねるが、預かった以上は半端な状態で戦場に送り出すわけにはいかない。


翌日の早朝、俺はエリアーナとゼイドを練兵場に呼び出した。朝日が昇り始めたばかりの練兵場は、ひんやりとした空気に満ちている。


「リオンくん…おはようございます。こんな朝早くから、何か御用でしょうか?」

エリアーナは少し眠そうだったが、それでも騎士としての規律は守り、きびきびとした態度で俺の前に立った。隣のゼイドは、既に臨戦態勢と言わんばかりの鋭い目つきをしている。


「ああ、おはよう。早速だが、お前たちには今日、模擬戦を行ってもらう」

俺がそう告げると、二人の表情に緊張が走った。


「模擬戦、ですか…? もしかして、リオンくんが直々に…?」

エリアーナが僅かに声を上ずらせる。俺の戦闘能力の一端は、彼らも学院時代の出来事から知っているはずだ。その俺が直接相手をするかもしれないというだけで、相当なプレッシャーだろう。


「いや、今日の相手は俺じゃない」

俺は首を横に振った。そして、練兵場の入り口から姿を現した数名の兵士たちを顎で示す。

「お前たちの相手は、俺の部隊の選抜メンバーだ。副隊長のハル、それから斥候と遊撃を得意とするマルコ、重装歩兵顔負けのタフさを持つ女丈夫のリーザ、そして弓の名手で魔法にも心得のあるサイラス。この四人だ」


ハルを先頭に、歴戦の風格を漂わせた四人が、訓練用の武具を手にゆっくりとこちらへ歩いてくる。彼らは皆、この二年間の激戦を俺と共に潜り抜けてきた猛者たちだ。その佇まい、放つ気迫は、昨日までのエリアーナやゼイドが学院で相手にしてきたであろう教官や同年代の生徒たちとは比較にならないだろう。


エリアーナは息を呑み、ゼイドは好戦的な表情を引き締め、警戒の色を濃くした。彼らも、目の前の兵士たちが自分たちよりも遥かに格上であることを、肌で感じ取ったに違いない。


「今日の模擬戦は、少人数での拠点攻略を想定した訓練だ」

俺は練兵場の一角に設置された簡易的な砦と、そこに立てられた一本の旗を指差した。

「ハルたちが守るあの旗を、お前たち二人で破壊できれば勝利。逆に、ハルたちがお前たち二人を戦闘不能にするか、一定時間旗を守り切ればハルたちの勝利だ。攻撃側はお前たち二人、防衛側はハルたち四人となる」


ゼイドが眉をひそめる。「二人で四人を相手に、ですか? しかも防衛線を突破しろと?」

無理もない疑問だ。普通に考えれば、数の上で圧倒的に不利に見えるだろう。


「一見、防衛側が有利に見えるだろうが、そうとも限らんぞ」と俺は説明を加える。「実戦において、相手の技量や武器、戦術が完全に未知の状態で防衛線を敷くというのは、非常に高い対応力が求められる。攻撃側は自分たちの得意な戦術を押し付けられるが、防衛側は常に後手だ。だから、こういう訓練では基本的に攻め手が主導権を握りやすい」

もちろん、それは攻め手に相応の実力があれば、の話だが。


「訓練用の武器を使用し、魔法も殺傷力の高いものは禁止。だが、それ以外は何でもありだ。時間制限は、あの旗の横にある香が燃え尽きるまで。いいな?」


「…はい。やってみます」

エリアーナが緊張した面持ちで、しかし決意を込めて頷く。

「面白い。数的不利など、俺たちの連携と実力で覆してみせる。リオン、あんたの部下がどれほどのものか、この身で確かめさせてもらう!」

ゼイドは不敵な笑みを浮かべ、腰の訓練用剣の柄を強く握りしめた。その負けん気の強さは、彼の美点でもある。


俺は、ハルたちに向き直る。

「ハル、相手は新人二人だが、お前たちは防衛側だ。油断せず、全力で旗を守れ。そして、彼らに本当の戦場がどういうものか、その一端を見せてやってくれ。ただし、やりすぎ注意だぞ。あくまで訓練だ」


ハルはニヤリと笑い、自信に満ちた顔で答えた。

「了解です、隊長。しかし、俺に防衛をやらせるってことは、隊長も今回は本気で新人の実力を見定めるってことですね? 俺の守りを突破するのがどれだけ大変か、隊長が一番よくご存じでしょうに」

「ああ、そうだな。お前は防衛線のスペシャリストだからな。俺が攻め、お前が守る。いつもの役割通り、その鉄壁の守りを新人たちに経験してもらうとしよう」

「はっはっは、任せてください! 旗一本、そう簡単には渡しませんよ」

ハルは肩を回した。他の三人も、静かに頷いている。その目には、新人を試すような、それでいてどこか楽しむような光が宿っていた。


俺は戦場を見渡せる練兵場の隅へと移動する。ここから、彼らの戦いをじっくりと観察させてもらう。

エリアーナ、ゼイド。お前たちが学院で学んだことが、どこまで通用し、何が足りないのか。この模擬戦で、見極めさせてもらうぞ。

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