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双炎の厄災、昇進と再会

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エリアーナは、俺の顔を見ると、ぱっと花が咲くような笑顔を見せた。それは二年前、学院で時折見せていた屈託のない笑顔と変わらないように見えて、けれどどこか大人びた憂いのようなものも滲んでいる気がした。彼女の隣に立つゼイドは、以前のような刺々しさは薄れ、代わりに騎士としての覚悟を秘めたような硬質な表情で俺を見据えている。その成長ぶりは、二年という月日の重みを否応なく感じさせた。


「リオンくん!…あっ、いえ、リオン隊長!ご昇進、おめでとうございます!…えっと、やっぱり隊長って呼んだ方が、いいんですよね?」

エリアーナが一歩前に出て、少し早口に、しかし輝くような笑顔で言った。その声には、上官への敬意と、昔馴染みに対する親しみが混じり合い、どう接すればいいのか少し戸惑っているような、そんな空気があった。その一生懸命さが、なんだか微笑ましくて、俺の強張っていた心が少しだけ解けるのを感じた。


俺は苦笑しながら、軽く手を振って見せる。

「はは、ありがとう、エリアーナ。まあ、公の場や部隊の皆がいる前では隊長と呼んでくれればいいが…こうして三人でいる時くらいは、昔みたいに『リオンくん』でいいさ。お前たちまでそんなに畏まられると、こっちが疲れる」


その言葉に、エリアーナの表情がさらにぱっと明るくなった。

「本当ですか!? よかったぁ!なんだか、リオンくんがすごく遠い人になっちゃったみたいで…少し寂しかったんですもの」

素直な言葉だった。その屈託のなさが、二年経っても変わらない彼女らしさなのだろう。

「ねえ、ゼイド。あなたもそう思わない?」

エリアーナが隣のゼイドに優しく声をかけると、彼は少しむっとした表情をしながらも、小さく頷いた。


「ああ、ありがとう、エリアーナ。それにゼイドも、よく来てくれたな。まさかお前たちが俺の部隊に配属されるとは思ってもみなかった」

俺は改めて、言葉を続ける。だが、内心は複雑だった。彼らが無事に騎士となり、こうして再会できたことは素直に嬉しい。しかし、その先にあるのは血と硝煙の戦場だ。俺がこの二年で嫌というほど味わってきた地獄に、彼らを引きずり込むことになるかもしれないという現実は、鉛のように重くのしかかってくる。


「アストリッド大佐の…推薦だと聞いています。俺たち二人を、リオン隊長の部隊へ、と」

ゼイドが、以前より少し低くなった声で答えた。その言葉には、まだ俺に対するライバル心のようなものが微かに残っているようにも感じられたが、それ以上に、これから始まるであろう過酷な任務への覚悟のようなものが滲んでいた。


すると、エリアーナがいたずらっぽく笑って口を挟んだ。

「ふふっ、ゼイドったら、表向きはそう言ってるけど、本当は自分からリオンくんの隊を志願したのよ? アストリッド大佐に何度もお願いしてたみたい」

「え、エリアーナ!貴様、余計なことを!」

ゼイドが顔を赤らめ、慌ててエリアーナを制止しようとする。その狼狽ぶりは、彼の普段の冷静さを考えると意外なものだった。


彼は咳払いを一つすると、俺に向き直り、あくまで平静を装って言い放った。

「…俺は、最も実力を高められる部隊を選んだだけだ。リオン、貴様は気に食わんが、学ぶべき点があることも認めよう。だが、勘違いするな。いずれ俺は貴様を超える。そのために、一時的に貴様の部下になってやるに過ぎん」

強がりと本音が入り混じったような言葉。だが、その瞳の奥には、確かに俺への対抗心と、成長への渇望が燃えているのが見えた。


二人のそんなやり取りを目の当たりにして、俺の胸には奇妙な感覚が込み上げてきた。俺の知らない二年間の間に、彼らは彼らなりの時間を過ごし、関係性を育んできたのだ。それは、戦場に明け暮れていた俺には窺い知ることのできない、眩しい時間。ほんの少しの寂しさが胸をよぎる。


だが、同時に、ある種の満足感も感じていた。俺たちが、この二年、血反吐を吐くような思いで戦い続けてきたのは、彼らのような人たちが、少しでも長く平和な学生生活を送り、未来への希望を繋ぐためだったはずだ。その結果として、彼らがこうして成長し、俺の前に立っている。それは、決して無駄ではなかった証なのかもしれない。


「…そうか。なら、せいぜい俺から盗めるものは盗んでいくといい。ただし、戦場で足を引っ張るようなら容赦はしないぞ」

俺は敢えて挑発的な笑みを浮かべてゼイドに言い返す。彼のようなタイプは、下手に手加減するよりも、こうして発破をかけた方が伸びるだろう。


そこで、少し浮かれているようにも見えるエリアーナの表情に気づき、俺は口調を改めた。

「…それと、エリアーナ。ここは戦場だ。騎士学院の訓練とはわけが違う。死と隣り合わせの毎日だ。お前たちが思っているような、華々しい英雄譚なんてものは、ここにはない」

俺の口から出たのは、自分でも驚くほど冷めた言葉だった。彼女の戦場に対する甘い認識や、俺への期待を裏切るような、突き放すような言い方だと分かっていながら、そうとしか言えなかった。

幻想を抱いたまま戦場に出れば、真っ先に命を落とすのはそういう者たちだということを、俺は嫌というほど見てきたからだ。


エリアーナの表情が、わずかに曇る。隣のゼイドが、そんな彼女を気遣うようにちらりと見た。

「覚悟の上です。俺たちは、アルクス王国の騎士として、この国を守るためにここに来ました。」

ゼイドが、真っ直ぐな視線で俺に言い放つ。その言葉には、若さゆえの青臭さと、しかし無視できない意志の強さが感じられた。


「…そうか。配属されたからには、お前たちも俺の部隊の一員だ。俺の部隊の規律は一つだけ。必ず生きて帰ること。それ以外に、お前たちに求めるものはない」

俺はそう言って、彼らから視線を外し、練兵場にいる他の部下たちを見渡した。彼らは、俺と新人たちのやり取りを、少し離れた場所から興味深そうに見守っている。


「ハル、新人の二人に兵舎と装備を案内してやってくれ。それから、今日の訓練メニューも伝えておけ。歓迎会は、今夜ささやかだが開くつもりだ」

「はっ、了解しました!」

ハルが快活に返事をし、エリアーナとゼイドに声をかける。


「ようこそ、リオン隊へ!俺は副隊長のハルだ。よろしくな、お二人さん!隊長はああ言ってるが、歓迎会は盛大にやるから楽しみにしてろよ!」

ハルは、持ち前の明るさで二人の緊張を解きほぐそうとしているようだった。エリアーナも少し表情を和らげ、ゼイドも硬さは残るものの、ハルに会釈を返す。


三人が兵舎の方へ向かうのを見送りながら、俺は深い溜息を一つ吐いた。

「双炎の厄災」ね…。民衆や兵士からはそう呼ばれ、英雄と持て囃される。だが、その実態は、ただ人より少しだけうまく炎を操り、剣を振るえるだけの少年に過ぎなかった。そして、その力で仲間を守り、敵を殺し続けることで、心は少しずつ擦り切れていく。自由を渇望しながらも、騎士団という名の鎖に繋がれ、戦争という名の泥沼から抜け出せないでいる。


エリアーナ。ゼイド。

お前たちは、まだ知らない。この戦場が、どれほど人の心を変えてしまうのかを。

そして、俺がどれほど、お前たちのような真っ直ぐな瞳を失ってしまったのかを。


願わくば、彼らがこの地獄に染まらずに済むことを。

だが、そんな願いが叶わないことくらい、俺はとうに知っているはずだった。


空を見上げると、どこまでも青い空が広がっている。

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