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癒えぬ傷痕

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ゼイドが病室を去った後も、彼の言葉は俺の心に重く響き続けていた。「あれだけの力を持つお前が、本当に望む生き方がそれなのか」。その問いは、俺が目を背けようとしていた、自分自身の力の意味と、そして「自由」という言葉の本当の重さを、容赦なく突きつけてきた。


母親を自分の呪炎で死なせてしまったという事実は、決して消えることはないだろう。その罪悪感と絶望感は、これからも俺を苛み続けるに違いない。だが、ゼイドの言う通り、今の俺のこの女々しい姿は、エリアーナたちを心配させ、そして何よりも、命をかけて俺を守ろうとしてくれた母の想いを踏みにじることになるのかもしれない。


赤子の俺は、未熟だった。力を制御できず、悲劇を引き起こしてしまった。だが、今の俺は違う。師匠がいた。彼は、俺に力の制御方法を教え、そして何よりも、力を持つことの意味を問い続けてくれた。父が、母が、そして師匠が、俺に生きることを望んでくれたのなら……。


(……俺も、誰かを守れるだろうか。この力で。理不尽な暴力から、大切なものを……。それが、俺が選ぶ「自由」だというのなら……)

そんな考えが、ここ数日、俺の頭の中を巡っていた。答えはまだ出ていないが、以前のような完全な絶望からは、ほんの少しだけ抜け出せているような気がした。


数日後、俺の体調がある程度回復したのを見計らって、アストリッド教官が再び病室を訪れた。彼女の表情は硬く、その手には正式な召喚状が握られていた。騎士団特務班長グスタフからの、改めての事情聴取だ。


場所は、騎士団本部の一室だった。冷たく、威圧的な雰囲気の部屋。アストリッド教官の同席のもと、俺はグスタフと向かい合って座った。彼の鋭い視線は、俺の心の奥底まで見透かそうとしているかのようだ。


「リオン・アッシュフォード君。体調はもう良いのかね?」

グスタフの問いは、事務的だった。


「……おかげさまで」


「結構。では、単刀直入に聞こう。あの遺跡で、君は何を見たのか? そして、何をしたのか? 我々が観測した、あの遺跡一帯での大規模で特異な魔力反応。そして、君たちが遭遇したという遺跡の守護者たちとの戦闘……。君が、その中心にいたという報告も受けている。君が持つという、その『力』について、詳しく説明してもらいたい」

彼の言葉は、核心を突いていたが、「原初の炎」や、俺がその炎に直接触れたという事実は、まだ彼らには伝わっていないようだった。アストリッド教官や仲間たちが、その部分については口を固く閉ざしてくれたのだろう。


俺は、一度深く息を吸い込み、そして、真っ直ぐにグスタフの目を見つめ返した。

「……あの状況は、まさに絶体絶命でした。仲間たちが死ぬかもしれないという中で、俺は……ただ、自分が持ちうる全ての力を使って、彼らを守り、生き残るために戦うしかなかった。普段はこれほどの力を出すことはありませんし、正直、自分でも驚くほどの力が出たのは、あの極限状態だったからだと思います」

俺は、力の特異性や過去のトラウマについては一切触れず、あくまで状況が生んだ結果であり、仲間を守るための必死の行動であったことを強調した。これが、今の俺にできる、ぎりぎりの誠意だった。


俺の言葉に、グスタフは眉一つ動かさなかったが、アストリッドの表情がわずかに和らいだように見えた。


「……君が、あの遺跡で仲間たちを守るために戦ったことは、他の生徒たちの証言とも一致している。君が、極めて強力な炎の魔法を扱うことに長けており、その力で危機を脱した、と。その点については、疑いはない」

グスタフは、そう言った。やはり、エリアーナたちは、俺の聖炎や呪炎といった力の具体的な詳細については、伏せてくれたらしい。


「リオン・アッシュフォード君」グスタフは、再び俺を真っ直ぐに見据えた。「君のその決意と、遺跡で見せた戦闘能力は、高く評価する。君は、王国にとって、極めて有益な『戦士』となる可能性を秘めている」


そして、彼は続けた。

「実は、近頃、東のゼノン帝国だけでなく、西の山岳地帯の部族連合も、我が国に対して不穏な動きを見せている。この国全体が、脅威に晒されつつあるのだ。我々騎士団は、国の平和と民の安全を守るため、常に新たな力を必要としている」


グスタフは、机の上に一枚の羊皮紙を置いた。それは、王国騎士団への入団推薦状だった。

「君の力を、国のために役立てる気はないか? 君が本当に『守る』ために戦うというのなら、騎士団は、君にその機会と、そして相応の地位を与えることができるだろう」


騎士団への勧誘。それは、俺が最も避けたいと思っていた道の一つだった。だが、今の俺には、以前のような単純な拒否感だけではなかった。「守るために戦う」。その言葉が、今の俺の心には、奇妙なほど重く響いた。


「……少し、考えさせてください」

俺は、静かにそう答えた。


グスタフは、俺の返事に、わずかに眉をひそめたようだったが、すぐに頷いた。

「……よかろう。だが、あまり長くは待てん。良い返事を期待している」

彼は、それだけ言うと、アストリッドに目配せをし、部屋を出ていった。


後に残されたのは、俺とアストリッドだけだった。彼女は、何も言わずに、ただじっと俺の顔を見ている。


「……教官は、どう思われますか?」

俺は、彼女に尋ねた。


「……それは、君自身が決めることだ、アッシュフォード。だが、一つだけ言っておこう。君の言う『自由』は、騎士団の中では見つからないかもしれない。だが、君が本当に『守りたいもの』があるのなら……時には、組織の力も必要になる。そのことを、忘れるな」


アストリッドの言葉は、重く、そして深い意味を秘めているように感じられた。


俺は、窓の外に広がる王都の景色を見つめながら、自分の選ぶべき「自由」の形について、そして、この国が直面しているという新たな脅威について、深く、そして長く考え込んでいた

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