原初の炎、魂の共鳴
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俺の身体から、制御を失った魔力が、二つの異なる性質を持つ炎のオーラとなって噴き出した。万物を浄め癒す白銀の聖炎、そして、俺自身が最も忌み嫌い、心の奥底に封じ込めていたはずの、禍々しくも力強い黒い呪炎。それらが、俺の周囲で激しく渦巻き、互いに反発し合い、そして融合しようとするかのように、不安定に揺らめきながら、この古代遺跡の広間全体をその圧倒的な魔力で満たしていく。
「リオン君!?」
「アッシュフォード、しっかりしろ!」
エリアーナとアストリッド教官の悲痛な叫び声が、遠くで聞こえる。だが、俺の意識は、もはや彼女たちの声に反応することができなかった。過去のトラウマ――盗賊の襲撃、父親の抵抗、そして母親の絶望の叫びと共に、俺自身の呪炎が暴走し、彼女を、そして全てを焼き尽くしてしまったあの日の記憶――が、奔流のように脳裏を駆け巡り、俺の精神を粉々に打ち砕こうとしていた。
(俺が……俺の力が……母さんを……っ!)
絶望と、身を裂くような罪悪感が、俺の心を黒く塗りつぶしていく。この力がある限り、俺はまた、大切な誰かを傷つけてしまうのかもしれない。いや、既に、この手で取り返しのつかないことをしてしまったのだ。
『――自由に生きろ、リオン』
その時、心の奥底で、師匠の温かく、そして力強い声が響いたような気がした。そうだ、俺は、自由に生きると誓ったんだ。こんなところで、自分の力に喰われてたまるか!
俺は、最後の力を振り絞り、荒れ狂う二つの炎の中で、必死に自我を繋ぎ止めようとした。だが、その抵抗も虚しく、俺の意識は、深淵へと沈んでいくかのように薄れていく……。
その、まさに意識が途絶えようとした瞬間だった。
広間の中央、台座の上で揺らめいていた「小さな炎」――「原初の炎」が、これまでとは比較にならないほどの、眩い輝きを放ったのだ! それは、太陽のように力強く、そして月のように優しい、虹色の光。
その光は、まるで意思を持っているかのように、俺の暴走する二つの炎に呼応し、そして、それらを包み込むように、清浄で、しかし圧倒的な波動を送り始めた。その波動は、荒れ狂う俺の魔力を鎮め、調律し、そして何か新しい秩序を与えようとしているかのようだった。
温かい。
だが、それはもはや、俺の心を癒すものではなかった。むしろ、その温かさが、俺の罪の重さを際立たせるように感じられた。
白銀の聖炎、そして黒い呪炎は、その虹色の光に導かれるように、徐々にその勢いを弱め、そして、ゆっくりと俺の体内に再び収束していく。だが、それは単に元に戻ったのではない。俺の心は、流れ込んできた記憶――特に、自身の呪炎によって母親を死なせてしまったという、耐え難い真実――によって、完全に打ちのめされていた。
やがて、全ての炎のオーラが完全に消え失せ、広間には、再び静寂が戻った。俺は、膝をついたまま動けず、その顔は俯き、長い前髪が表情を隠している。ただ、その肩が小刻みに震え、床には、ぽつり、ぽつりと、熱い雫が落ちていた。
「リオン君……?」
エリアーナが、涙を浮かべながら、恐る恐る俺に近づいてくる。フィンとロイも、心配そうな顔でこちらを見ている。
アストリッド教官は、剣を構えたまま、俺と、そして今は静かに揺らめいている台座の上の「原初の炎」を、鋭い視線で見比べていた。彼女は、今、この場で起こった、常識では計り知れない現象の全てを目撃し、そして俺の精神が極めて危険な状態にあることを察していた。
エリアーナが、そっと俺の肩に手を置こうとした。
「……触るな」
俺の口から漏れたのは、自分でも驚くほど冷たく、そして虚ろな声だった。
「リオン君……?」
「俺に……近寄るな……」俺は、顔を上げることができない。「俺は……母さんを殺した……。俺のこの力で……。そんな俺に……自由に生きる資格なんて……あるはずがない……」
その言葉は、絶望と自己嫌悪に染まりきっていた。俺の心は、深い闇へと沈み込み、もはや何の光も見出すことができないかのようだった。
エリアーナは、俺のその言葉に、息を呑み、悲痛な表情を浮かべた。アストリッドは、厳しい顔つきのまま、何かを深く思考している。
この遺跡の探索は、俺にとって、あまりにも過酷な真実を突きつけるものとなった。俺の魂は、癒えることのない傷を負い、深い闇へと沈んでいくのか……。
広間には、依然として強大な魔力の残滓が漂い、台座の上の「原初の炎」は、まるで全てを知っているかのように、ただ静かに揺らめき続けていた。
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