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原初の炎、魂の共鳴

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俺は、台座の上で揺らめく「小さな炎」を、吸い寄せられるように見つめていた。アストリッド教官の制止の声や、エリアーナたちの心配そうな視線も、もはや俺の意識には届かない。この炎は、俺を呼んでいる。俺の魂の奥底で眠る何かが、この炎と共鳴し、強く惹きつけられているのだ。


俺は、まるで夢遊病者のように、ゆっくりと右手を伸ばした。革手袋に包まれた指先が、虹色に揺らめく小さな炎に、そっと触れる――。


その瞬間。


熱さは、全く感じなかった。むしろ、温かい光に包み込まれるような、不思議な感覚。そして、次の刹那、俺の脳内に、怒涛のようなイメージと情報が、直接流れ込んできたのだ!


それは、時間の奔流そのものだった。


最初に見たのは、まだ人類が獣と変わらぬ暮らしをしていた、太古の光景。夜の闇を恐れ、寒さに震える人々。そこに、天からの恵みか、あるいは偶然か、最初の「火」がもたらされる。人々はそれを囲み、暖を取り、獣を遠ざけ、そして、初めて調理された肉の味を知る。炎は、希望の光であり、生きるための力だった。


やがて、人々は炎を自ら生み出す術を覚え、それを道具として使いこなしていく。土を焼き、金属を溶かし、文明を築き上げていく。炎は、人々の知恵と共に進化し、より強力なエネルギーの源となった。そして、一部の選ばれた者たちは、炎を単なるエネルギーとしてではなく、万象を構成する四大元素の一つとして捉え、その力を自在に操る「魔法」へと昇華させていった。炎の魔法は、人々の生活を豊かにし、様々な脅威から彼らを守る盾となった。


だが、炎の力は、恩恵だけをもたらしたわけではなかった。


次に流れ込んできたのは、戦乱の記憶。人々は、その強大な炎の力を、同胞を傷つけ、殺戮するための道具として使い始めた。炎は都市を焼き、大地を焦がし、無数の悲しみと憎しみを生み出した。魔法は、守るための力から、支配するための力へと変質し、世界は永きにわたる戦乱の時代へと突入する。


その凄惨な光景に、俺の胸は締め付けられるように痛んだ。まるで、俺自身がその時代を生き、その悲劇を目の当たりにしているかのような、強烈な共感と絶望感が襲ってくる。


「ぐ……っ!」


俺は、思わず呻き声を上げ、片膝をついた。頭が割れるように痛い。だが、情報の流入は止まらない。


次に現れたのは、戦乱を憂いた古代エルヴン文明の賢者たちの姿だった。彼らは、その卓越した知性と魔法技術をもって、争いの根源たる「力」そのものに向き合おうとしていた。そして、彼らはついに辿り着いたのだ。世界の根源に存在する、万物の始まりの力――「原初の炎」に。


彼らは、その「原初の炎」を解析し、その内に秘められた二つの側面を抽出することに成功する。一つは、万物を育み、癒し、守護する、純粋で清浄なる「聖炎」。もう一つは、万物を破壊し、終焉をもたらし、そして強い情念に呼応する、荒々しくも強力な「呪炎」。


エルヴンの賢者たちは、この二つの特異な炎を、それぞれに最もふさわしい魂を持つ二人の戦士に託した。聖炎を託された戦士は、その力で人々を癒し、大地を浄め、秩序と調和をもたらそうとした。一方、呪炎を託された戦士は、その圧倒的な破壊力で邪悪を討ち、抑止力として君臨し、危ういながらも平和な時代が訪れたかのように見えた。


だが、その平和は長くは続かなかった。


呪炎の戦士が、その強大すぎる力と、人々の負の感情に影響され、次第にその力に飲まれていったのだ。彼の心は憎悪と破壊衝動に支配され、かつて守るべきだった世界に、その牙を剥いた。聖炎の戦士は、かつての友であり、兄弟とも呼ぶべき存在だった呪炎の戦士を止めるため、悲壮な覚悟で立ち向かう。


二つの相反する炎が激しく衝突し、天変地異を引き起こすほどの壮絶な戦いが繰り広げられた。その戦いの記憶は、あまりにも鮮烈で、破壊の情景、人々の悲鳴、そして二人の戦士の魂の叫びが、俺の精神を直接揺さぶる。


「う……あああああああああっっ!!」


俺は、ついに両膝をつき、頭を抱えて絶叫した。膨大な情報と、それに伴う強烈な感情の奔流は、俺の精神の許容量を遥かに超えていた。内なる炎が、この「原初の炎」からの記憶に共鳴し、暴走しかけているのを感じる。身体が内側から焼き尽くされるような、激しい痛み。


「リオン君!」

「アッシュフォード!」


エリアーナやアストリッド教官の声が、遠くで聞こえる。彼らが駆け寄ろうとしてくる気配も感じた。だが、今の俺には、それに反応する余裕すらない。


俺の周囲に、目に見えない力の壁のようなものが形成され、彼らの接近を阻んでいるようだった。それは、俺が無意識のうちに展開した防御結界なのか、それとも、この「原初の炎」自身が、俺と外部とを遮断しているのか……。


意識が、急速に遠のいていく。このままでは、俺の精神は、この情報の奔流に飲み込まれ、崩壊してしまうかもしれない。


(……だめだ……まだ……師匠との約束が…俺は……生きなければ……)


薄れゆく意識の中で、俺は必死に抗おうとした。だが、次に流れ込んできたのは、さらに衝撃的な、そして俺自身の存在の根幹を揺るがすような、個人的な記憶の断片だった――。

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