深淵への階梯
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ロイが発見した祭壇の裏の窪み。その特異な形状は、俺の心を激しく揺さぶった。間違いない。あれは、俺が師匠から受け継いだ二振りの魔剣のうち、黒い魔剣の柄頭の形と、寸分違わず一致しているのだ。
(まさか……! この遺跡の奥へ進むための鍵が、師匠の剣だというのか……!?)
俺の背筋に、電流のようなものが走った。師匠は、やはりこの遺跡と深く関わっていた。そして、俺をここに導いたのは、単なる偶然ではなかったのかもしれない。この剣は、彼が俺に遺した、道しるべだったというのか……。
「アッシュフォード」
アストリッド教官の鋭い声が、俺の思考を現実に引き戻した。彼女もまた、その窪みの尋常ならざる形状と、そこから放たれる微弱だが特殊な魔力の気配に気づき、俺に視線を向けていた。
「……何か、心当たりがあるのか? その窪みの形に、見覚えがあるような顔をしているが」
彼女の洞察力は、相変わらず恐ろしいほどだ。エリアーナやフィン、ロイも、俺とアストリッドの間の緊張した空気を察し、固唾を飲んで俺の言葉を待っている。
俺は、一瞬ためらった。ここで魔剣の存在を明かせば、俺の力の秘密がさらに露見することになるだろう。それは、俺が最も避けたい事態のはずだ。
だが、目の前には、師匠の手がかりへと続くかもしれない道がある。そして、この窪みに合う「鍵」を持っているのは、おそらく俺だけだ。ここで躊躇して、この機会を逃すわけにはいかない。それに、アストリッドには、既に俺の炎の力の片鱗を見られている。今更、隠し事が一つ増えたところで、大きな違いはないのかもしれない。
俺は、覚悟を決めた。
「……もしかしたら、これが合うかもしれません」
俺は、そう言うと、腰に下げていた小さな革製の携帯バックに手を入れ、中から一本の黒い物体を取り出した。それは、一見するとただの金属製の短い棒か、あるいは装飾が施された杖の柄頭のようにも見える。長さは三十センチほどで、剣と呼ぶにはあまりにも短い。
エリアーナやフィン、ロイは、それが何なのか分からず、いぶかしげな視線を向けている。
「リオン君、それは……?」エリアーナが尋ねる。
アストリッドだけは、その物体から放たれる尋常ならざる魔力の気配に気づき、わずかに眉をひそめた。
俺は、彼らの視線に応えることなく、その黒い柄にそっと自身の魔力を流し込んだ。すると、音もなく、滑るようにして黒曜石のような光沢を放つ漆黒の刀身が、柄からスルスルと伸び、やがて完全な一本の長剣の姿を現したのだ! その刀身は、周囲の魔力光を吸い込むかのように深く、そして鋭い輝きを放っている。その瞬間、周囲の空気がわずかに震え、剣から強大な魔力の波動が放たれた。
「なっ……!?」
「剣が……伸びた!?」
エリアーナとフィンが、その現象と魔剣の威容に息をのむ。ロイも、その無表情の奥で、わずかに目を見開いていた。アストリッドは、驚きを隠せないといった表情で、その魔剣を凝視している。彼女ほどの経験を持つ者でも、このような特異な魔剣を見るのは初めてなのかもしれない。
俺は、形成された黒い魔剣の柄頭を、祭壇の裏の窪みへと、ゆっくりと差し込んだ。それは、まるで最初からそこにあったかのように、寸分の狂いもなく、窪みにぴったりと適合した。
その瞬間。
魔剣と窪みが共鳴するように、淡い黒紫色の光を放ち始めた。そして、遺跡全体が、ゴゴゴゴ……という低い地響きと共に、わずかに振動し始める。壁に刻まれたエルヴン文字や紋様が、一斉に明滅を繰り返し、周囲の魔力が、まるで嵐のように渦を巻き始めた。
「な、なんだ……!? 地震か!?」
フィンが、バランスを崩しそうになりながら叫ぶ。
「いえ、違うわ! これは……この遺跡の、何らかの機構が作動しているのよ!」
エリアーナが、周囲の魔力の変化を感じ取り、声を上げる。
そして、俺たちの目の前、祭壇の背後にあったはずの石の壁が、重々しい音を立てて、ゆっくりと左右に開き始めたのだ! そこには、さらに奥深くへと続く、新たな通路が現れた。通路の先は暗く、何も見えないが、そこからは、これまでとは比較にならないほど濃密で、清浄な、しかしどこか厳粛な魔力が、まるで呼吸するように流れ出してきている。
「……道が、開いた……」
ロイが、珍しく驚きの声を漏らした。
「アッシュフォード……その剣は、一体……」
アストリッドが、俺と、そして窪みに差し込まれたままの(今は刀身が消え、柄だけの状態に戻っている)黒い魔剣を、厳しい視線で見つめている。彼女の問いに、俺は答えない。答える必要もないだろう。
俺は、魔剣の柄を窪みから引き抜き、再び腰の携帯バックに収めた。そして、新たに開かれた通路の奥へと、視線を向ける。
「……行くぞ」アストリッドは、やがて、そう短く告げた。「ここから先は、さらに気を引き締めろ。何が待ち受けているか、全く予測がつかん」
彼女は、俺に先導を促すかのように、わずかに顎をしゃくった。あるいは、この状況を作り出した俺に、責任を取れとでも言いたげな視線を向けているのかもしれない。
俺は、腰のバックに収めた魔剣の柄の感触を確かめ、皆の視線を感じながら、決意を込めて、その暗く、そして未知なる通路へと、最初の一歩を踏み出した。
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