氷の教官の問い、揺れる天秤
作品評価&ブックマークをお願いします!
白銀の守護者たちとの死闘が終わり、広間の中央に鎮座する巨大な魔晶石が、まるで俺たちを誘うかのように、その奥へと続く新たな螺旋階段への道を示した。その神秘的な光景と、階段の先から漂ってくる未知の気配に、俺たちはしばし言葉を失い、立ち尽くしていた。疲労と安堵、そして新たな謎への期待と不安が入り混じった、奇妙な静寂が広間を支配する。
(レナード先輩とセレスティア先輩は、ミリアと共に書庫の調査を続けているはずだ。彼女たちがここにいないのは、ある意味幸いかもしれないな……特にレナード先輩がいたら、また大騒ぎになっていただろう)
俺がそんなこと考えながら、逸る気持ちを抑えきれずに無意識のうちに螺旋階段へと一歩踏み出そうとした、まさにその瞬間。
「――待て」
鋭く、そして有無を言わせぬアストリッド教官の声が、俺の動きを制止した。彼女は、剣の柄に手を置いたまま、その氷のような青い瞳で、真っ直ぐに俺を見据えている。その視線は、先ほどまでの戦闘指揮官としての厳しさとは異なる、もっと個人的で、そして深く探るような色を帯びていた。
「……何か?」
俺は、平静を装って問い返した。だが、彼女のただならぬ雰囲気に、内心では嫌な予感がしていた。
「アッシュフォード」アストリッドは、ゆっくりと俺に近づいてきた。「君には、まず聞かねばならないことがある。この先へ進む前に、だ」
その言葉に、エリアーナとフィン、そしてロイも息を呑み、俺とアストリッドの間に緊張が走るのを感じ取ったようだった。
「先ほどの力……。あの深紅の炎、そして、最後に使った、あの規格外の広範囲殲滅魔法。あれは、一体何なのだ? 君は、一体どこで、あれほどの力を手に入れた?」
彼女の問いは、単刀直入であり、そして俺が最も答えにくい核心を突いていた。もはや、偶然や運で誤魔化せるレベルではない。
エリアーナは、心配そうに俺とアストリッドを交互に見ている。
俺は、深く息を吸い込み、慎重に言葉を選んだ。
「……あれは、俺自身にも、まだよく分からない力なんです。ただ、仲間が危険に晒され、自分も追い詰められた時……無我夢中で、気がついたら、ああなっていた、としか……」
それは、半分は真実であり、半分は嘘だった。俺は、自分の力をある程度は理解している。だが、その全てを、今この場で彼女に明かすわけにはいかない。
「無我夢中、ね。君のあの戦闘中の冷静な判断力と、精密な魔力制御を見る限り、とてもそうは思えなかったが?」
アストリッドは、俺の言葉を鵜呑みにする様子はない。その追及は、執拗で、そして的確だ。
「それに、あの炎の質……。あれは、通常の火属性魔法の範疇を遥かに超えている。君がアークライトを救った時に見せた、あの聖なる浄化の炎とも、明らかに性質が異なる。君は、一体いくつの『顔』を隠し持っているのだ?」
アストリッドは、俺がレナードを聖炎で治療した場にもいたのだ。隠し通せるわけもない。
彼女の言葉には、俺の力に対する、強い警戒と探求心が滲んでいた。
「……俺は、ただ、自由に生きたいだけなんです」
俺は、ぽつりと、そう呟いた。それは、以前、彼女の教官室で問い詰められた時にも口にした、俺の偽らざる本心だった。
「力を隠していたのも、無用な騒ぎや、誰かに束縛されることを避けたかったからです。俺は、誰にも利用されたくない。ただ、静かに……」
「……また、その言葉か」
アストリッドは、俺の言葉を遮るように、深く息をついた。その表情には、以前この言葉を聞いた時とは異なる、より複雑な感情が浮かんでいるように見えた。
「君の言う『自由』とは、これほどの力を持ちながら、誰の管理も受けず、野放図に振る舞うということか? それが、どれほど危険なことか、君自身、理解しているのか?」
彼女の脳裏には、やはり騎士団長グラン・ドレイクの冷徹な判断や、国家という巨大な機構の論理が浮かんでいるのだろう。そして、俺のような規格外の力が、それらにどう扱われるかということも。
リオンの「自由への願い」と、国家の「管理」の必要性、そして教官としての自分の役割。
その間で、彼女の心が再び激しく揺れ動いているのが、俺にも痛いほど伝わってきた。
どんどん更新していきますので作品評価&ブックマークをお願いします!




