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星図盤起動

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俺の指名により、ロイが赤い光点が示す未知の区画へと、先行調査に向かった。彼の隠密魔法と索敵能力は、この班の中でも突出している。危険な罠や敵が潜んでいる可能性が高い場所の調査には、彼が最も適任だろう。そして何より、俺自身がミリアの挑発に乗って危険を冒す必要がなくなる。


ミリアは、俺のその判断に、一瞬だけ不満そうな表情を浮かべたが、すぐにいつもの完璧な笑顔に戻った。「そうね、ロイさんの隠密能力は素晴らしいものね。彼なら、きっと安全に情報を持ち帰ってくれるでしょう」と、彼女は言ったが、その声には、どこか棘があるように感じられた。彼女の「テスト」を、俺が回避したことが、気に食わないのだろう。


俺たちは、ロイからの報告を待つ間、星図盤が映し出す他の情報を、改めて詳細に調査することになった。レナード先輩とセレスティア先輩は、古代エルヴン文字の解読に没頭し、エリアーナとフィンは、その補助をしながら、周辺の警戒を続けている。ミリアは、相変わらず俺の近くに位置取り、時折、意味ありげな視線を向けてくる。


俺は、そんな彼女の視線を無視しながら、師匠の古文書と、星図盤に投影された情報を照らし合わせていた。古文書に記されていた、古代の炎の魔法に関する記述。それが、この遺跡の構造や、星図盤が示す魔力の流れと、奇妙なほどに符合する点が多く見つかったのだ。


(……師匠は、やはり、この遺跡で、俺の炎の力の根源について調べていたのかもしれない。そして、この星図盤は、そのための重要な鍵となる装置だった……? )


俺の中で、点と点が繋がり始め、一つの仮説が形を成しつつあった。その時。


「――戻った」


ロイの声が、静かに響いた。いつの間にか、彼は俺たちの背後に戻ってきていた。その表情は、いつも通り読み取れないが、わずかに緊張しているように見える。


「どうだった、ロイ君? 何か分かったか?」

エリアーナが、心配そうに尋ねる。


「……ああ。あの赤い光点の先は、巨大な円形の広間になっている。そして、その中央には……何か、巨大な魔晶石のようなものが、安置されていた。そこから、この遺跡全体の魔力が供給されているようだ」


「魔晶石……! それが、この遺跡の動力源か!」

レナードが、興奮したように声を上げる。


「だが……」ロイは、そこで言葉を切った。「その魔晶石の周囲には、強力な防御結界が張られている。そして、それを守るように、複数の……おそらくは、先ほど我々が戦った石像兵よりも、さらに強力な守護者が、複数体、徘徊していた」


ロイの報告に、俺たちの間に再び緊張が走った。


「……やはり、そう簡単にはいかないようだな」

アストリッド教官が、腕を組み、低い声で言った。その視線は、俺に向けられている。彼女は、俺の力があの守護者たちを突破する鍵になると考えているのだろう。しかし、同時に、ミリアがゼノン帝国のエージェントであることは彼女も恐らく気付いているはずだ。ミリアに詳細に知られることは避けたい、という葛藤も彼女の中にはあるはずだ。王国騎士団の元魔法騎士として、帝国の脅威は十分に理解しているだろうから。


「その魔晶石が、この遺跡の心臓部であることは間違いないだろう。そして、そこには、古代文明の技術や知識を解明する上で、極めて重要な手がかりがある可能性も高い」

アストリッドは、そこで一度言葉を切り、ミリアの方へ向き直った。

「ヴァレンタイン君」

「はい、アストリッド教官。何でしょうか?」

ミリアは、にこやかに応じる。


「君の精霊魔法の知識と、帝国での古代遺物の取り扱いに関する経験は、この書庫の安全な調査において非常に有益だと判断する。特に、先ほど起動したこの星図盤が、外部の魔力環境にどのような影響を与えているか、あるいは外部からの影響を受けていないか、詳細な記録と分析を行ってほしい。これは、君の専門知識が最も活かせる、重要な任務だ。他の者には任せられない」

アストリッドの言葉は、一見するとミリアの能力を高く評価し、重要な任務を任せるもののようだった。だが、その真意は別にあると俺は察した。これは、ミリアを俺たちから引き離し、彼女に俺の力の詳細な情報――特にもし俺が新たな力を使うことになった場合――を直接観察させないための、巧妙な策だ。


ミリアは、一瞬、その翠色の瞳の奥で何かを思考するように瞬きしたが、すぐに完璧な笑顔を浮かべた。

「光栄ですわ、アストリッド教官。お任せください。ゼノン帝国で培った知識の全てを以て、この任務にあたらせていただきます」

彼女は、アストリッドの意図に気づいているのか、いないのか。あるいは、気づいた上で、あえてその提案に乗ったのか。その表情からは読み取れない。


ミリアが、レナードとセレスティア先輩と共に、星図盤と書庫の調査に戻ったのを確認すると、アストリッドは、残った俺、エリアーナ、ロイ、そしてフィンに向き直った。

「さて、我々は、あの魔晶石と守護者の調査に向かう。準備をしろ!」

そしてアストリッドは俺にだけ聞こえる声で「リオン、君の力が必要になるだろう。だが、無闇に使うことは許さん。私の指示に絶対に従え。そして、可能な限り、その力の全貌を…他者に悟られるな」と明確にミリアを意識した言葉をかけた。アストリッドと俺の間には、奇妙な「利害の一致」が生まれているのかもしれない。


俺は、アストリッドの意図を汲み、静かに頷いた。帝国からのエージェント、ミリア・ヴァレンタイン。彼女は、俺の力を探り、俺を帝国へと引き込もうとしている。そして、その背後には、ゼノン帝国という巨大な国家の影がある。俺は、彼女の行動から、自分が帝国に「狙われている」という事実を、はっきりと認識していた。


俺は遺跡の奥深くへと、視線を向けた。

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