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帝国の探り、試されるリオン

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俺の介入によって、ミリアが仕掛けた最初の「テスト」――星図盤の操作盤に隠されたデータ削除トラップ――は、幸いにも未然に防ぐことができた。だが、その一件は、ミリア・ヴァレンタインという存在の危険性と、彼女が俺に対して明確な「興味」と「評価」の目を向けているという事実を、改めて俺に認識させるものだった。彼女の目的はスカウトであり、あからさまな敵意こそ見せないものの、俺の力を露呈させるために明らかに誘導する行動をとってくる。


星図盤の正しい起動方法について、レナード先輩とセレスティア先輩が再び頭を悩ませ始め、他のメンバーにも疲労の色が見え始めた頃、ミリアは新たな揺さぶりをかけてきた。


「ねえ、レナード先輩、セレスティア先輩」

彼女は、困っている二人を助けるかのような、親切な口調で話しかけた。

「わたくしの故郷、ゼノン帝国に伝わる古い星見の装置の中には、複数の制御宝珠に対し、それぞれに異なる『波動』を持つ魔力を、同時に、かつ特定の『調和』をもって注ぎ込むことで初めて起動する、という非常に難解なものがあったと聞いていますわ。もしかしたら、この星図盤も、そのような複雑な起動条件を持っているのかもしれませんわね?」


その言葉は、一見すると、手詰まりの状況を打開するための、貴重な情報提供のようにも聞こえた。だが、俺には、その裏に隠された彼女の意図が透けて見えた。


「複数の異なる波動の魔力を、同時に、かつ特定の調和で……!?」

レナード先輩は、ミリアの言葉に目を輝かせた。

「なるほど! それならば、この複雑なルーン配列と、各宝珠の材質や配置の意図も説明がつく! 各宝珠がそれぞれ固有の魔力受容特性を持ち、それに対応した性質の魔力を、寸分の狂いもなく同調させ、一斉に流し込む必要がある、ということか! なんという高度な……!」


レナード先輩は、ミリアの情報と、俺が先ほどトラップを見抜いた際に口にした「魔力の流れの異質さ」という言葉を結びつけ、そして師匠の古文書を読みふけっていた俺の姿を思い出したのか、何かに気づいたようにハッとした表情で俺を見た。

「リオン君! 君が読んでいたあの古文書! もしかして、この星図盤の起動シーケンスや、各宝珠が要求する精密な魔力パターンについて、何か記述があったのではないかね!?」


俺は、内心で舌打ちした。レナードの勘の鋭さは、時として厄介だ。だが、ここで下手に隠しても、余計に詮索されるだけだろう。

「……ええ、まあ。この遺跡の星図盤について、いくつか記録がありました。それによれば、レナード先輩の今の推論は、ほぼ的を射ているようです。各宝珠に、それぞれに定められた極めて微細な量の魔力を、かつ宝珠ごとに固有の振動パターンを正確に模倣した魔力で、しかも寸分の狂いもなく同時に、かつ定められた順序で流し込む必要がある、と……」


俺がそう説明すると、レナード先輩は「やはりそうか!」と興奮したように叫んだが、すぐにその顔は絶望の色に変わった。

「だが……そんな芸当、人間業ではないぞ……!異なる魔力量と魔力パターンを、同時に、完全に同調させて制御するなど……! 理論上は可能かもしれんが、実行できる術者がいるとは到底思えん!」

セレスティア先輩も、静かに頷き、その表情は厳しい。

「ええ、レナードの言う通りですわ。それは、神話の時代の魔法使いたちか、あるいは、選ばれたごく一部の天才にしかできない領域の技術……。私たちでは、到底不可能です」


他のメンバーも、その起動条件の困難さに、顔を見合わせている。せっかく起動理論が解明されたというのに、それを実行できる者がいない。まさに、宝の持ち腐れだ。


その時、それまで黙って状況を見ていたアストリッド教官が、静かに口を開いた。その視線は、真っ直ぐに俺を射抜いている。


「……アッシュフォード」


「……はい」


「君なら、あるいは可能かもしれんな」


アストリッドのその言葉に、馬車内の空気が凍りついた。いや、正確には、俺以外のメンバーたちが、息を呑んだのだ。


「君のあの魔力制御の精密さ、そして、合同訓練で見せた複数の異なる力の行使……。この起動条件を満たせる者がいるとすれば、それは君しかいないだろう。……やってみろ」


アストリッドは、俺に星図盤の起動を促してきた。それは、俺の能力を試す、明確な意図を持った指示だった。そして、断ることを許さないような、強い圧力を伴っていた。


俺は、アストリッドの鋭い視線と、仲間たちの期待と不安が入り混じった視線、そしてミリアの探るような視線を感じながら、内心で深く溜息をついた。

(……結局、こうなるのか。どこまで行っても、俺は目立たずにはいられない運命らしいな)


だが、目の前には、師匠の手がかりへと続く可能性のある道がある。そして、アストリッドに「できない」と答えることは、俺のプライドが許さなかった。


「……分かりました。やってみましょう」


俺は、覚悟を決めて、星図盤の前に立った。師匠の古文書に記されていた、各宝珠へ流すべき魔力の量と位相、そしてその注入順序に関する詳細な記述――『星々の詩に、汝の魂を調和させよ。七つの音色を同時に、しかし異なる響きで奏でるのだ』――という言葉を胸に、ゆっくりと魔力を練り始めた。


この古代の叡智の結晶が、俺の力に応えてくれるのか。そして、その先に何が待っているのか。緊張感が、俺の全身を包み込んでいた。

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