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帝国の探り、試されるリオン

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俺の指摘を受け、レナード先輩とセレスティア先輩は、改めて星図盤の操作盤と、ミリアが指し示した翡翠の宝珠を詳細に調査し始めた。レナード先輩は、携帯式の魔力分析器を取り出し、宝珠から放たれる微弱な魔力の流れを計測し、セレスティア先輩は、古代エルヴン文字で書かれた操作盤の解読を試みる。


数分後、二人はほぼ同時に顔を上げた。その表情は、青ざめている。


「……リオン君の言う通りだ……。この翡翠の宝珠は、起動キーなどではない……! むしろ、これは一種の緊急初期化プロトコル、あるいは、誤った手順でシステムを起動しようとした際に、この書庫に保管されている全ての記録媒体――古文書、石板、そしてこの星図盤そのものに含まれるであろう膨大なデータを、不可逆的に完全消去してしまうための、最終破壊トラップのようなものだ! もし、ここに最初に魔力を流し込んでいたら……!」

レナード先輩が、震える声で説明する。その声には、貴重な知識が永遠に失われるところだったという恐怖と、そしてそれを寸前で回避できたことへの安堵が混じっていた。


「ええ……。そして、そのデータ消去は、極めて強力な魔力のパルスによって行われるため、下手をすれば周囲の術者にも深刻な精神的ダメージを与える可能性が……」

セレスティア先輩も、普段の冷静さを失い、額に汗を滲ませながら付け加えた。


彼女たちの言葉に、その場にいた他のメンバーたち――エリアーナ、フィン、ロイ――は息を呑んだ。ミリアの提案通りに事を進めていれば、俺たちはこの古代の叡智の宝庫を自らの手で破壊し、あまつさえ危険な目に遭うところだったのだ。


「そ、そんな……! 私としたことが、なんてことを……!」

ミリアは、顔を両手で覆い、心底からショックを受けたかのような、悲痛な声を上げた。その瞳には、みるみるうちに涙が浮かび始める。

「ご、ごめんなさい、皆さん……! 私の早とちりで、皆さんを危険な目に遭わせるところでした……! 帝国で見た遺物と似ていたものですから、てっきり同じだと思い込んで……! 本当に、申し訳ありません……!」

彼女は、肩を震わせ、今にも泣き崩れそうだった。その姿は、純粋な善意から出た行動が裏目に出てしまい、深く後悔している健気な少女そのものに見えた。フィンなどは、すっかり彼女に同情し、「ミリアさんのせいじゃないですよ! 誰にだって間違いはありますから!」と慌てて慰めている。


(……見事な演技だな。だが、俺は騙されんぞ)


俺は、内心で冷ややかに呟いた。彼女のあの完璧なまでの悲劇のヒロインっぷりは、あまりにも芝居がかっている。おそらく、これも計算のうちなのだろう。失敗した「テスト」の後始末と、周囲からの疑いを逸らすための。


「まあ、結果的に何も起こらなかったのだから、それでいいじゃないか。ヴァレンタイン君も、悪気があったわけではあるまい」

アストリッド教官が、冷静な声で場を収めた。だが、その視線は、一瞬だけ、俺とミリアの間を鋭く往復した。彼女は、この一連の出来事の裏に、何か別のものがあることに気づいているのかもしれない。


「そ、それよりも、リオン君! 君は一体どうして、あの翡翠の宝珠の危険性を見抜けたんだい!? 我々専門家ですら気づかなかった、あの巧妙なトラップの構造を!」

レナード先輩が、今度は俺に詰め寄ってきた。彼の目には、先ほどの恐怖の色はなく、ただ純粋な知的好奇心と、俺の能力に対する驚嘆が浮かんでいる。


「……たまたま、あの宝珠だけ、魔力の流れに不自然な雰囲気を感じただけですよ。それに、重要なシステムには、えてしてこういう意地の悪い安全装置が仕掛けられているものですから。少し注意深く観察すれば、誰でも気づけたはずです」

俺は、そう言って、適当にはぐらかした。師匠の古文書に、古代エルヴン文明のトラップの特徴に関する記述があったのは事実だが、それをここで明かすつもりは毛頭ない。


「なんと……! 君のその観察眼と洞察力! やはり君は、ただの魔法科の生徒ではないな!」

レナードは、ますます俺への興味を深めたようだった。


「リオン君、本当にありがとう! あなたのおかげで、私たちは助かったわ!」

エリアーナが、心からの感謝を込めて、俺の手を握ってきた。その瞳は、俺への信頼と、そして尊敬の念で輝いている。その真っ直ぐな好意に、俺は少しだけ、戸惑いを覚えた。


ミリアは、そんな俺たちのやり取りを、いつもの完璧な笑顔で見つめていた。だが、その翠色の瞳の奥には、俺の介入によって最初のテストが失敗したことへの、わずかな悔しさと、そして俺という存在の「厄介さ」を再認識したかのような、冷徹な光が宿っていた。


(……この男、思った以上に有能ね……。私の仕掛けた誘導を、こうも簡単に見抜くとは。しかも、自分の手柄にはせず、他の人間に気づかせる形で……。これは、一筋縄ではいかないわ。……でも、だからこそ、手に入れる価値がある。次は、もっと慎重に、そして、もっと大胆に仕掛ける必要があるわね……)


彼女の内心の思考が、俺には手に取るように分かった。帝国からの密偵は、そう簡単には諦めないだろう。


俺たちは、星図盤の起動方法について、改めて議論を始めた。だが、その解明は容易ではなく、すぐに結論が出る気配はなかった。俺は、ミリアの視線を常に感じながらも、内心では師匠の古文書に記されていた、この遺跡のトラップに関する記述や、古代エルヴンの思考パターンについてのメモを反芻していた。この古文書には、この星図盤や、遺跡の他の仕掛けに関する、より直接的な情報が残されているかもしれないのだ。


アストリッド教官は、そんな俺たちの様子を、壁際に腕を組んで静かに見守っていた。彼女の視線は、俺とミリアの間で揺れ動き、この二人の間に存在する、見えない探り合いの違和感を感じ取っているかのようだった。

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