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古の囁きと聖炎

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俺たち第三班は、ついに古代エルヴン文明の叡智が眠る巨大な大書庫へと、その第一歩を踏み入れた。一歩足を踏み入れると、そこはひんやりとした、しかしどこか清浄な空気に満ちており、数千年の時を超えた知識の重みが、肌で感じられるかのようだった。壁一面に並ぶ巨大な書架には、無数の古文書や巻物が整然と収められ、中央には星図盤のような巨大な装置が静かに光を放っている。

「素晴らしい……! これほどの古代文献が、これほど良好な状態で保存されているとは……!」

セレスティア先輩は、感嘆の息を漏らしながら、最も近くにあった書架にそっと手を触れた。その指先が、微かに震えている。

「見ろ、セレスティア君! この巻物の羊皮紙の質感! そしてこのインクの色! 間違いなく第二王朝期のものだ! 」

レナードもまた、既にいくつかの巻物を手に取り、その場で広げては目を輝かせている。彼らの学究的な興奮は最高潮に達しており、アストリッド教官の「一つの書物に触れるにも、細心の注意を払え」という警告も、もはや耳に入っていないかのようだ。


エリアーナとフィンは、そんな二人の様子に少し呆れながらも、この荘厳な空間の雰囲気に圧倒され、緊張した面持ちで周囲を警戒している。ロイは、いつものように音もなく書庫の隅々まで移動し、隠された通路や罠がないかを探り始めた。ミリアは、興味深そうに書架を眺めながらも、その視線は時折、俺と、そして書庫の奥にある師匠の紋章が刻まれた黒曜石の書見台へと向けられている。彼女は、俺があの紋章に特別な関心を抱いていることを見抜いているのかもしれない。

アストリッド教官は、そんな俺たちの様子を厳しい目で見守りつつも、自身もまた、この古代の知識の宝庫に強い興味を抱いているようだった。彼女は、時折セレスティア先輩やレナードに声をかけ、彼らの発見について短い質問を投げかけている。

俺は、まず、師匠の紋章が刻まれたあの黒曜石の書見台へと向かった。そこには、やはり何か重要な手がかりが眠っているはずだ。書見台の上には、以前も目にした、黒い革で装丁された分厚い古文書が一冊だけ置かれていた。表紙には例の紋章が銀色の金属で象嵌されている。

俺は、革手袋をはめた手で、慎重にその古文書に触れた。ひんやりとした感触。そして、やはり感じる、師匠とよく似た魔力の残滓。俺がその古文書を開こうとした、その時だった。


「――うわっ!? こ、これは……なんだ……!?」

突然、レナードの甲高い、しかし明らかに異常な声が、静かな書庫に響き渡った。俺たちが驚いてそちらを見ると、彼は、書庫の一角、ひときわ古めかしい装飾が施された書架に置かれていた、手のひらほどの大きさの小箱を手にし、その蓋を開けた瞬間だった。

小箱の中から、黒い靄のようなものが勢いよく噴き出し、レナードの顔面にまとわりついたのだ!

「レナード先輩!?」

エリアーナが、悲鳴に近い声を上げる。

レナードは、その黒い靄を吸い込んでしまったのか、激しく咳き込み、その場に膝をついた。顔色は見る見るうちに土気色に変わり、その額からは脂汗が噴き出している。

「ぐ……う……あたま……が……割れる……! 何か……直接……入ってくる……!」

彼は、頭を抱えて苦悶の声を上げ、その瞳は焦点が合わずに虚ろに彷徨い始めた。

「精神攻撃のトラップです! レナード先輩から離れて!」

セレスティア先輩が、鋭い声で叫んだ。彼女は、即座に杖を構え、防御結界を展開しようとする。

アストリッド教官も、瞬時に状況を判断し、剣を抜きながらレナードの元へ駆け寄った。

「アークライト! 聞こえるか! 精神を集中させ、抵抗しろ! その邪念に意識を喰われるな!」

彼女は、レナードの肩を掴み、自身の魔力を送り込もうとするが、レナードの状態は悪化する一方だった。その指先が黒ずみ、口からは泡を吹き、全身が激しく痙攣し始めている。

俺は、レナードを苦しめている小箱から立ち昇る、濃密な負のエネルギーを感じ取っていた。

このままでは、レナードの精神は完全に破壊されてしまうだろう。

(……またか。なんであいつは次から次へと……)

俺は、内心で舌打ちした。

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