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古の封印、試される知恵

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俺の指先から流し込まれた、二つの異なる波長を持つ微弱な魔力は、古代エルヴン文明の叡智の結晶たる封印の術式に、まるで楔を打ち込むかのように作用した。複雑に絡み合っていた魔法陣の光が激しく明滅し、ルーン文字がその配列を組み替えるかのように輝きを変える。扉全体が、ゴゴゴゴ……という低い地響きのような音を立てて激しく振動し始め、その表面に細かな亀裂が走るのが見えた。

「……来るぞ!」

俺は、小さく呟き、一歩後ろへ下がった。

次の瞬間、カチリ、という乾いた音が、扉の奥からいくつも連続して響き渡った。それは、まるで巨大な錠前が、一つ、また一つと開いていく音のようだった。そして、ついに、扉全体を覆っていた魔法陣の光が、ふっと消え失せ、扉から放たれていた強力な封印の魔力も、完全に霧散した。

ゴゴゴ……ゴ……。

扉の振動が収まり、そして、重々しい軋み音と共に、黒水晶のような巨大な円形の扉が、ゆっくりと、内側に向かって開き始めたのだ。

開かれた扉の向こうからは、ひんやりとした、しかしどこか清浄な空気が流れ出してくる。それは、数千年の間、閉ざされていた古代の空気。そして、その空気と共に、濃厚な、しかし安定した魔力の気配が、俺たちの肌を撫でた。

「……開いた……本当に、開けてしまった……」

レナード先輩が、信じられないといった表情で、呆然と呟いている。

みんな驚きに言葉を失い、ただ開かれていく扉の奥を凝視している。


扉が完全に開くと、その奥には、息を呑むような光景が広がっていた。

そこは、巨大なドーム状の空間だった。天井は遥か高く、ドーム全体が淡い青白い光で満たされている。その光源は、壁面にびっしりと埋め込まれた、無数の魔晶石のようだ。そして、その壁という壁には、床から天井まで届くほどの巨大な書架が、何重にも同心円状に並べられ、そこには、数えきれないほどの古文書や巻物、石板などが、整然と収められている。それは、まさに古代の知識が集積された、巨大な図書館とでも言うべき場所だった。

空間の中央には、星図盤のような、複雑な構造を持つ巨大な装置が設置され、ゆっくりと回転しながら、周囲の魔晶石と共鳴するかのように、淡い光を放っている。その装置の周囲には、いくつかの石造りの書見台や、実験道具のようなものも散見された。ここは、間違いなく、古代エルヴン文明の高度な知識と魔術が研究されていた、重要な施設の一つなのだろう。

「……これは……! なんという……!」

レナード先輩とセレスティア先輩は、その荘厳で、そして学術的な価値に満ち溢れた光景を目の当たりにし、もはや興奮を通り越して、感動に打ち震えているかのようだった。彼らは、今にもその古代の知識の海へと飛び込んでいきそうな勢いだ。

エリアーナやフィンは、その圧倒的な光景に、ただただ言葉を失い、立ち尽くしている。ミリアでさえ、その瞳には、普段の計算高さとは異なる、純粋な驚きと興味の色が浮かんでいた。

俺は、その大書庫の奥、中央の星図盤のさらに先に、何かを見つけた。それは、他の書見台とは少し趣の異なる、黒曜石で作られた、ひときわ大きな書見台。そして、その書見台の側面には、一つの紋章が刻まれていた。それは、俺が幼い頃から何度も目にし、そして、師匠の遺品の中にも見つけた、見慣れた紋章――二つの炎が螺旋を描きながら絡み合い、一つの剣を形作る、あの紋章だった。

(……師匠の……紋章……!? なぜ、こんな場所に……?)

俺の胸が、大きく高鳴った。この遺跡は、やはり師匠と何か関係があるのかもしれない。

「……アッシュフォード」

不意に、アストリッド教官が、低い声で俺に話しかけてきた。彼女は、いつの間にか俺の隣に立っており、その鋭い視線は、俺の顔と、そして俺が見つめる先の紋章を、交互に捉えていた。

「……君は、この封印を解く方法を、最初から知っていたのか? それとも……また『勘』だったとでも言うつもりか?」

彼女の声には、俺の能力に対する、もはや隠しようのない疑念と、そして何かを確信したかのような響きがあった。

俺は、彼女の視線から逃れることなく、静かに答えた。

「……ただ、昔、似たようなパズルを解いた経験があっただけです。運が良かったんですよ」

「運、ね……」アストリッドは、それ以上は追及せず、代わりに、扉の奥に広がる大書庫へと視線を向けた。「……いずれにせよ、我々は、とんでもない場所に来てしまったようだな」

彼女は、深く息をつくと、改めてメンバーたちに向き直った。

「これより、この区画の調査を開始する。だが、セレスティア、レナード、君たちの気持ちは分かるが、決して浮足立つな。この場所には、まだ我々の知らない危険が潜んでいる可能性が高い。一つの書物に触れるにも、細心の注意を払うこと。そして、私の指示なしに、勝手な行動は一切許さん。危険と判断したら、躊躇なく撤退する。いいな?」

「「「はいっ!」」」

メンバーたちの返事にも、緊張と、そして未知への期待が入り混じっている。

俺は、仲間たちと共に、古代の知識が眠るその荘厳な空間へと、足を踏み入れた。師匠の手がかりと、自身の力の謎を解く鍵が、ここにあるのかもしれない。


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