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絶望の包囲網、覚悟の双炎

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俺の全身から立ち昇る深紅の炎のオーラは、広間全体の空気を震わせ、石像兵ストーンゴーレムたちをわずかに怯ませたかのように見えた。だが、目の前に立ちはだかる一際巨大な指揮官機と思しき石像兵は、動じることなく、その両腕に備え付けられた砲門のような部分に、禍々しい紫黒色の魔力を収束させ始めていた。あれは、まずい。直撃すれば、ただでは済まないだろう。

「リオン君、危ない!」

エリアーナの悲鳴が聞こえる。だが、俺は冷静だった。

(――狙いは、あのチャージ中の砲門か。だが、それだけでは終わらんぞ)

俺は、右手に凝縮させた深紅の炎を、さらに圧縮し、一本の灼熱の槍へと形態変化させた。そして、左足の裏で小規模な爆裂を起こし、その推進力で一気に指揮官機へと肉薄する!

爆炎推進イグナイト・ブースト!」

指揮官機が魔力砲を発射するよりも速く、俺は奴の懐に飛び込み、炎の槍をその砲門の一つに深々と突き刺した。

ドグォォォン!!

砲門内部で魔力が暴発し、指揮官機の片腕が吹き飛ぶ。だが、奴は怯まない。残ったもう片方の腕の砲門で、俺を薙ぎ払おうとしてくる。

「遅い!」

俺は、再び足元で爆裂を起こし、その巨腕を紙一重で回避。そのまま宙を舞い、指揮官機の頭上を取る。そして、両手に深紅の炎を収束させ、それを巨大な炎の塊へと変化させた。

「これで、終わりだ! 紅蓮爆砕クリムゾン・ノヴァ!!」

俺が叩きつけた炎の塊は、指揮官機の頭部で炸裂し、凄まじい爆炎となってその巨体を包み込んだ。熱風と衝撃波が広間を吹き荒れる。

やがて、爆炎が収まると、そこには、黒焦げになり、原型を留めないほどに破壊された指揮官機の残骸だけが残されていた。

「やった……のか……?」フィンが息をのむ。

だが、指揮官機が破壊されたにも関わらず、周囲を取り囲んでいた他の石像兵たちは、活動を停止しなかった。それどころか、指揮系統を失ったことで完全に暴走を始め、お互いに攻撃し合ったり、手当たり次第に周囲の壁や柱を破壊し始めたりと、広間はさらなる混沌に包まれた。

「くそっ、統制が取れなくなっただけか! これでは余計に危険だ!」アストリッドが叫ぶ。

「リオン君、どうにかならないの!?」エリアーナが悲痛な声を上げる。

俺は一度深呼吸し、両の革手袋の中で、さらに強大な炎の魔力を練り上げた。

「……仕方ない。少し派手にいくか」

俺は呟くと、両手を天に掲げた。

「万象焼滅・深紅終焉オールバーン・クリムゾンエンド!」

俺の詠唱と共に、天井近くに巨大な深紅の魔法陣が形成され、そこから無数の炎の隕石が、暴走する石像兵たち目掛けて降り注いだ! 一つ一つの炎弾が石像兵に直撃するたびに轟音と爆炎が巻き起こり、同士討ちで数を減らしていた石像兵たちは、この広範囲殲滅魔法によって、次々と塵芥と化していく。

数分後。広間には、焼け焦げた石の破片と、もうもうと立ち込める煙、そして、ようやく訪れた静寂だけが残されていた。

「……終わった……のか……?」

フィンが、信じられないといった表情で呟く。

「リオン君……あなた……」

エリアーナが、震える声で俺の名前を呼んだ。その瞳には、俺の無事を喜ぶ安堵の色と同時に、先ほど俺が見せた、常識を遥かに超えた力に対する、畏怖と、そしてほんの少しの戸惑いが浮かんでいた。

ミリアは、その翠色の瞳を大きく見開き、俺の姿を凝視している。「素晴らしい……」と、彼女が小さく呟くのが聞こえた。

アストリッド教官が、剣を鞘に収め、ゆっくりと俺に近づいてきた。

「……よくやった、アッシュフォード。お前がいなければ、我々は全滅していただろう」

彼女の声には、珍しく、労いの響きがあった。しかし、すぐにその表情はいつもの厳しさに戻る。

「だが、その力……一体何なんだ? あの炎、貴様の魔法は、学院で教えるものの範疇を遥かに超えている」

俺が何かを答えようとする前に、アストリッドは周囲を見渡し、深く息をついた。

「……いずれにせよ、これ以上の調査は危険すぎる。皆、大怪我こそないものの、酷く消耗している。ここから先、さらに強力な守護者や罠が現れた場合、我々生徒だけでは対処しきれん。一度学院に戻り、騎士団や専門の調査隊に報告を上げるべきだ。今回の実習は、ここで中止とする」

彼女の判断は、教官として当然のものだろう。エリアーナやフィンも、その言葉に安堵の表情を浮かべた。レナードやセレスティア先輩は、名残惜しそうな顔をしていたが、反論はしない。

だが、俺は、このまま引き下がるわけにはいかなかった。この遺跡には、師匠の手がかりがあるかもしれないのだ。ここまで力を露呈した以上何も得ずに帰るわけにはいかない。

「待ってください、教官」俺は静かに言った。「まだ、やれることはあるはずです」

俺は、ゆっくりと両の革手袋を外し、それを懐にしまった。そして、両手を前に突き出す。

聖炎治癒ホーリーフレイム・ヒール

俺の手のひらから、温かく、そして清浄な白銀の聖炎が溢れ出した。その光は、広間全体を優しく照らし出し、負傷し、疲弊していた仲間たち――エリアーナ、フィン、そして他のメンバーたち――を包み込んでいく。聖炎に触れた彼らの傷はみるみるうちに癒え、失われた体力と魔力が、急速に回復していくのが分かった。

「こ、これは……!? 傷が……痛みが消えていく……!」フィンが驚きの声を上げる。

「なんて温かくて、力強い光なの……。魔力も回復していくようだわ……」エリアーナも、信じられないといった表情で自分の手を見つめている。

ミリアは、その光景に息をのみ、アストリッドは目を見開いて俺の聖炎を凝視している。

「聖属性の炎……!? これほどの純度と回復力……! 深紅の破壊の炎とは全く異なる癒しの性質……! こんなものがこの世界に存在していたのか……!?」レナードが、再び興奮状態に陥り、俺に詰め寄ろうとする。

「これなら、もう少し調査を続けられるでしょう?」

俺は、アストリッド教官に向き直り、静かに問いかけた。俺の瞳には、もはや迷いはなかった。

アストリッドは、俺の底知れない力と、その強い意志に、しばらく言葉を失っていたようだったが、やがて、ふっと息を吐き、そして、わずかに口元を緩めた。

「……フッ。面白い。そこまで言うのなら、もう少しだけ、付き合ってやろう。だが、アッシュフォード、お前のその力、そしてその行動の責任は、全てお前自身が負うことになる。覚悟はいいな?」

「……もちろんです」

俺は、力強く頷いた。

こうして、俺の聖炎によって、第三班は再び力を取り戻し、アストリッドの許可を得て、古代遺跡のさらなる深部へと、調査を進めることになった。

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