遺跡の守護者
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左膝を破壊され、胸のコアに亀裂が入った巨大な石像兵は、その巨体を大きく傾がせながらも、まだ完全には沈黙していなかった。赤い魔力光を放つ目が、不気味な光を明滅させ、損傷箇所を自己修復しようとするかのように、機械的な駆動音を低く響かせている。その執拗なまでの抵抗に、俺たち第三班のメンバーの顔には、再び緊張の色が浮かんだ。
「まだ……動くというのか!?」
フィンが、壊れかけた盾を構え直し、呻くように言った。彼の体力も限界に近いだろう。
「コアは破壊しきれていない…! もう一押しよ!」
エリアーナが、必死に魔力を練り上げながら叫ぶ。だが、彼女の額にも玉のような汗が浮かび、その魔力も尽きかけているのが見て取れた。ミリアもセレスティア先輩も、これまでの戦闘でかなりの魔力を消耗している。
(……次の一撃で倒しきれなければ厳しいな。)
俺は、冷静に戦況を分析していた。石像兵の自己修復能力は、それほど高くないように見える。だが、俺たちが消耗しきってしまえば、いずれ押し切られるだろう。アストリッド教官は、依然として介入する気配がない。
「レナード先輩の分析通り、やはり胸のコアが最重要目標ですわ! あそこを徹底的に叩きましょう!」
ミリアが、残された力を振り絞るように杖を構え直す。
「フィン君、もう一度だけ、あいつの注意を引いてくれる!? 私たちがコアを狙う時間を稼いで!」
エリアーナが、フィンに懇願するように言った。
「……はい! やってみせます!」
フィンは、覚悟を決めた表情で頷くと、雄叫びを上げながら、再び石像兵へと向かっていく。その姿は、満身創痍でありながらも、騎士としての誇りに満ちていた。
フィンが果敢に石像兵の注意を引きつけている間に、エリアーナ、ミリア、セレスティア先輩は、最後の魔力を振り絞り、それぞれの魔法を石像兵の胸のコア目掛けて放った。エリアーナの指先から凝縮された水の槍が、ミリアの手からは鋭利な風の刃が複数、そしてセレスティア先輩の杖の先端からは聖なる光の矢が、コアの亀裂部分に吸い込まれていく。
ロイもまた、残された力を振り絞り、石像兵の破壊された左膝の関節部分に、さらに数本の短剣を投げつけ、その動きを完全に封じようと試みていた。
俺は、その攻防を静かに見守っていた。もはや、俺が手を出すまでもないだろう。彼女たちの連携と、勝利への執念が、石像兵の抵抗力を上回ろうとしていた。
ドガァァァンッ!!
ついに、石像兵の胸のコアが、三方向からの強力な魔法攻撃に耐えきれず、内部から魔力が暴走。大きな爆発音と共に砕け散った。赤い魔力光を放っていた目が急速に光を失い、その巨体は、まるで糸の切れた人形のように、力なく崩れ落ち、完全に動かなくなった。
「や……やった……!?」
フィンが、信じられないといった表情で、その場にへたり込む。
「倒した……のね……?」
エリアーナも、安堵と疲労で、その場に座り込んでしまった。ミリアとセレスティア先輩も、荒い息をつきながら、肩で息をしている。ロイも、緊張の糸が切れたように、その場に膝をついた。強大な一体目の守護者を、ついにチームの力で撃破したのだ。
だが、その安堵は、ほんの一瞬で打ち砕かれた。
石像兵が完全に沈黙した、まさにその瞬間。
グォォォォォンンンンン!!!!
遺跡全体が震えるほどの、けたたましい警報音のようなものが、広間の四方八方から鳴り響いたのだ! 同時に、壁に埋め込まれていた青白い魔晶石が、一斉に不気味な赤色の警告灯のような光へと変わり、点滅を始めた。
「な、なんだ!? 何が起こったんだ!?」
レナードが、パニックに近い声を上げる。
「これは……まずい……」
俺は、この異常事態に、背筋が凍るような不吉な予感を感じていた。あの石像兵は、ただの番兵ではなかった。おそらく、この遺跡の防衛システムの、最初のトリガーだったのだ。
その予感を裏付けるかのように、遠くの複数の通路から、重々しい、そしておびただしい数の足音が、急速にこちらへと近づいてくるのが聞こえてきた。それは、最初の石像兵よりもさらに重く、そして力強い、絶望的なまでの物量を感じさせる音だった。
アストリッド教官の表情が、これまでにないほど険しくなった。
「……まずいな。どうやら、こいつはただの番兵ではなかったらしい。本物の防衛システムが起動したか……!」
彼女の声には、焦りの色が隠せない。
次の瞬間、広間の四方にある全ての入り口から、新たな石像兵の軍勢が、次々と姿を現し始めたのだ! その数は、一体や二体ではない。ざっと見ただけでも、数十体は下らないだろう。しかも、その中には、最初の石像兵よりもさらに大型で、禍々しいオーラを放つ個体も混じっている。
俺たちは、完全に、そして絶望的なまでに、包囲されてしまった。
「そ、そんな……嘘でしょう……?」
エリアーナが、顔面蒼白になって呟く。フィンも、ロイも、セレスティア先輩も、そしてミリアでさえ、その圧倒的な戦力差を前に、言葉を失っている。
「総員、戦闘準備!!」
アストリッド教官が、ついに剣を抜き放ち、雷鳴のような声で叫んだ。
「死にたくなければ、全力で戦え! ここを突破するぞ!」
彼女の言葉は、絶望的な状況の中で、わずかながらも俺たちに闘志を蘇らせた。だが、この圧倒的な数を相手に、果たして生き残ることができるのか……。
俺は、ゆっくりと立ち上がり、革手袋の中で、静かに魔力を練り始めた。戦うしかない。この状況を打開するためには……。
(……もはや、力を隠している場合ではない、か)
俺は、迫りくる石像兵の軍勢を睨みつけながら、心の奥底で、双炎の力を解放する覚悟を、静かに固め始めていた。
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