遺跡の守護者
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エリアーナの号令一下、俺たち第三班と巨大な石像兵との戦闘が開始された。その巨体は、俺たちの身長の倍はあろうかという威圧感を放ち、両手に握られた巨大な石の戦斧は、一振りで数人をまとめて薙ぎ払うほどの破壊力を秘めているように見えた。
「うおおおおっ!」
フィンが、騎士としての勇気を振り絞り、盾を構えて石像兵の前に立ちはだかる。彼が最初に引き付ける役目を買って出たのだ。石像兵は、そのフィンの存在を認識すると、赤い魔力光を放つ目を細め、巨大な戦斧を振り上げた。
「フィン君、気をつけて!」
エリアーナの叫びと同時に、戦斧が振り下ろされる。**ゴォォン!**という地響きのような轟音と共に、フィンの盾が戦斧を受け止めた。凄まじい衝撃に、フィンの身体が大きく揺らぎ、足元の石畳に亀裂が走る。
「くっ……! なんて重さだ……!」
フィンは、歯を食いしばり、必死に耐えている。だが、石像兵の力は圧倒的で、じりじりと押し込まれていくのが分かった。
「援護するわ! ウォーター・ショット!」
「風よ、彼の動きを縛れ!」
エリアーナが水の弾丸を連続して放ち、ミリアが風の精霊魔法で石像兵の足元を狙う。水の弾丸は石像兵の硬質な身体に当たって霧散し、風の魔法も、その巨体をわずかに揺らす程度で、動きを止めるには至らない。その素材は、レナードの分析通り、通常の岩石ではなく、魔力を帯びた特殊な合金か鉱石のようで、魔法に対する高い耐性を持っているらしかった。
「このゴーレム、やはり通常の岩石ではないわ! 魔力に対する耐性が高すぎる!」
ミリアが、悔しげに呟く。
「であれば、物理的な弱点を突くしかないか……!」
セレスティア先輩が、後方で防御結界を展開しつつ、冷静に分析する。彼女の結界がなければ、石像兵の攻撃の余波だけで、俺たち後衛はひとたまりもなかっただろう。
その間にも、ロイが隠密魔法で石像兵の背後に回り込み、その関節部と思しき箇所に短剣を突き立てようとしていた。だが、**カン!**という硬い音と共に、短剣は弾かれ、石像兵の装甲には傷一つついていない。
「ダメだ、硬すぎる……! 関節部も、普通のゴーレムとは構造が違う!」
ロイが、苦々しげに後退する。
「これでは埒が明かない! 私が奴の構造と弱点を解析する!」
それまで戦況を観察していたレナードが、ついに痺れを切らしたように叫んだ。彼は鞄から奇妙な形状のゴーグルを取り出すと素早く装着し、その場に膝をついた。
「セレスティア君、私を頼む! 解析魔法『マナ・ストラクチャー・アナリシス』起動!」
レナードの目が、ゴーグルのレンズ越しに淡い光を放ち始める。彼は完全に集中し、周囲の状況には一切構わなくなる。まさに無防備な状態だ。
「レナード先輩!?」エリアーナが驚く。
「……分かりました。結界の維持に集中します」セレスティア先輩は、即座にレナードの意図を理解し、彼を守るように防御結界の強度を高めた。
レナードの視界には、おそらく石像兵の内部を流れる魔力の経路や、エネルギーが集中している箇所が、複雑なパターンとなって映し出されているのだろう。彼の額には汗が滲み、集中力の高さがうかがえる。数秒間、彼は微動だにせず石像兵を凝視していたが、やがて目を見開き、興奮した声で叫んだ。
「見えたぞ! やはり、あの胸の紋章の奥だ! そこに高密度の魔力反応が集中している! あれが奴の中枢核に違いない! 通常の装甲よりも魔力的な強度は低い! あそこを破壊すれば……!」
その時、石像兵がフィンの防御をこじ開け、戦斧の柄で彼の体勢を崩した。
「フィン君!!」
エリアーナが、咄嗟にフィンの前に飛び出し、水の盾を最大出力で展開する。石像兵の拳が、その水の盾に激突! バシャァァン!と水飛沫が上がり、盾は一瞬で砕け散る。エリアーナ自身も、その衝撃で吹き飛ばされそうになる!
「エリアーナ様!」ミリアが叫ぶ。
その絶対絶命の瞬間、これまでレナードを守るために結界を展開していたセレスティアが、唇を噛み締め、血を吐くような集中力で、エリアーナの前面にもう一枚、な第二の防御結界を瞬時に展開した! 「間に合って……!」
石像兵の拳は、その第二の防御結界に激突し、**バキィィン!!**という凄まじい衝撃音と閃光を発するが、ギリギリのところでその勢いが殺がれた。結界は蜘蛛の巣状に亀裂が入るが、完全に砕け散るには至らない。エリアーナは、衝撃波で後方に吹き飛ばされ、地面に強く打ち付けられたが、致命傷は免れたようだ。
(セレスティア先輩の二重結界……! 見事だ。だが、彼女も限界に近いか……)
俺は、冷静に状況を判断していた。石像兵は、エリアーナを吹き飛ばしたことで、一瞬、胸の紋章をがら空きにしている。そして、その巨大な体躯を支える左膝の関節が、先ほどの攻防でわずかに軋むのを見逃さなかった。
俺は、隠密行動中のロイに向けて、石像兵の左膝の関節部分を指し示すような、ごく僅かで素早い視線を送った。それと同時に、攻撃可能な位置にいたミリアに向かって叫んだ。
「ミリアさん! 今です! レナード先輩の言う通り、あの胸の紋章を!」
ミリアは、俺の言葉とセレスティアの援護に一瞬で反応し、渾身の魔力を込めた風の槍を、石像兵の胸の紋章目掛けて放った!
シュゴォォォッ!
風の槍が、紋章に直撃し、甲高い破壊音を立てる! 石像兵は、機械的な軋み音を上げ、その巨体がわずかに揺らぐ。
そして、その瞬間。
石像兵の注意が完全に胸の紋章とミリアに向いた、その一瞬の隙を突き、ロイが音もなく石像兵の左膝の背後に回り込み、俺の視線が示唆した装甲の継ぎ目に、渾身の力を込めて短剣を突き立てた!
グシャァッ!
これまでとは明らかに違う、鈍い破壊音。石像兵の左膝が折れ曲がり、その巨体が、バランスを崩して大きく傾いだ。
「やったか!?」
石像兵は、片膝をつき、動きが完全に鈍っている。胸の紋章も、ミリアの一撃で大きな亀裂が入り、赤い魔力光が不安定に明滅していた。
初めて明確なダメージを与え、勝利への光明が見えたことに、チームのメンバーたちにわずかな希望が宿る。だが、石像兵は、まだ完全に沈黙したわけではなかった。その赤い目が、不気味な光を明滅させ、再びゆっくりと立ち上がろうと、機械的な駆動音を響かせていた。
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