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学外実習、迷霧の森へ

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アストリッド教官の冷徹な言葉が、俺たち第三班の最初の試練の始まりを告げた。「お前たちで対処しろ。実習は、すでに始まっている」。その言葉を合図とするかのように、丘の茂みからこちらを窺っていた五匹の小鬼ゴブリンたちが、一斉に奇声を上げながら飛び出してきた。錆びた剣や棍棒を振り回し、その緑色のいやらしい目つきで、明確な敵意をこちらに向けている。


「……皆さん、準備はいいわね? 役割分担通りに、落ち着いて対処しましょう!」


エリアーナが、緊張を隠せないながらも、リーダーとして即座に号令をかけた。彼女の声に、メンバーたちが頷き、それぞれの得物を構える。


「フィン君、前衛をお願い! 私とミリアさん、セレスティア先輩は後方から援護します! ロイ君は側面からの奇襲と、敵の動きを攪乱して!」


「はいっ!」

騎士科一年生のフィンが、最も早く反応し、剣と盾を構えてゴブリンたちの前に躍り出た。彼の顔には緊張が浮かんでいるが、その瞳には恐怖よりも使命感が強く宿っている。この班で唯一の騎士科としての責任を、彼は感じているのだろう。


そのフィンの動きと同時に、ロイの姿が、ふっと掻き消えた。彼の得意とする隠密魔法だ。まるで陽炎のように、その場の風景に溶け込んでいく。


「ウォーターアロー!」

「風よ、彼の者らの足を止めよ!」

「守りのルーン、起動……」


エリアーナ、ミリア、そしてセレスティア先輩が、ほぼ同時に詠唱を開始する。エリアーナの指先から数条の水の矢が放たれ、ゴブリンたちの進路を牽制する。ミリアの手からは渦巻く風が発生し、ゴブリンたちの足元に絡みつき、その動きを鈍らせようとする。セレスティア先輩の周囲には淡い光の文字が浮かび上がり、俺たち後衛を守るための半透明の防御結界が形成されていく。


「グギィィィィアアア!」


ゴブリンたちは、魔法による妨害にも怯むことなく、フィン目掛けて突進してきた。その動きは、獣のように素早く、そして凶暴だ。


「くっ……!」


フィンが、最初に突っ込んできたゴブリンの棍棒の一撃を、盾で受け止める。**ガギン!**という硬質な衝撃音が響き、彼の体勢がわずかにぐらつく。実戦に近い戦闘は、彼にとって初めての経験だろう。数の上で不利な状況で、彼は必死に踏みとどまっていた。


「フィン君、しっかり!」


エリアーナの水の矢が、フィンを狙っていた別のゴブリンの肩を打ち、その動きを一瞬止める。その隙に、フィンは体勢を立て直し、反撃の剣を繰り出した。彼の剣筋はまだ荒削りだが、勇気だけは誰にも負けていない。


「そこだっ!」


突如、一体のゴブリンの背後に、音もなくロイが現れた。彼の手に握られた短剣が、ゴブリンの首筋を正確に切り裂く。ゴブリンは、悲鳴を上げる間もなく、力なく崩れ落ち、光の粒子となって消えていった。鮮やかな一撃だった。


「すごい……!」


フィンが、ロイの早業に目を見張る。だが、ゴブリンたちの攻撃は止まらない。残りの四匹が、なおもフィンに集中攻撃を仕掛けてきた。


一体のゴブリンがフィンの盾を弾き飛ばし、別のゴブリンがそのがら空きになった胴体に棍棒を振り下ろそうとする。さらに二匹が、フィンの左右から同時に襲いかかろうとしていた。絶体絶命のピンチだ。


「まずい!」


エリアーナが叫び、新たな水の矢を放とうとするが、距離とタイミング的に間に合いそうにない。


(……仕方ないか)


俺は、後方で戦況を冷静に観察していたが、このままではフィンがやられると判断した。俺は、地面に転がっていた手頃な大きさの石を、誰にも気づかれないように拾い上げると、フィンの右側から襲いかかろうとしていたゴブリンのコメカミ目掛けて、正確に投げつけた。石は、風を切って飛び、ゴブリンの急所に命中し、その体勢を大きく崩させる。


「おおっ!」


その一瞬の隙を、フィンは見逃さなかった。彼は、左からの攻撃をぎりぎりで回避しつつ、体勢を崩した右側のゴブリンの胸に、渾身の突きを叩き込んだ。ゴブリンは、苦悶の声を上げ、動きが鈍る。


「ナイスよ、フィン君!」


エリアーナの称賛の声が飛ぶ。


「リオン君! 君も早く、あのゴブリンの生態を記録したまえ! 」


レナードが、戦闘の真っ最中だというのに、興奮した様子で俺に叫んできた。彼は、いつの間にか安全な場所から、ゴブリンたちの様子を熱心にスケッチしている。


「アークライト! 戦闘に集中しろと何度言えば分かるんだ! それとも、君が前衛を代わるか!?」


アストリッド教官の、雷のような怒声が響き渡った。レナードは、びくりと肩を震わせ、慌ててスケッチブックを隠した。


その間にも、戦闘は続いていた。フィンの攻撃で深手を負ったゴブリンを、ミリアが放った鋭い風の刃が追撃し、その動きを止めた。そこにフィンが渾身の一撃を加えて討伐。残るは二匹。


「これで、終わりですわ!」


ミリアが、杖を構え、詠唱を始める。彼女の周囲に、鋭い風の刃が複数形成されていく。その魔力制御は、やはり交換留学生のレベルを明らかに超えていた。風の刃が、残ったゴブリンたちに襲い掛かり、その動きを完全に封じる。


「とどめは、私たちが!」


エリアーナが叫び、水の鞭を生成して一体を打ち据える。最後の一匹は、いつの間にか背後に回り込んでいたロイが、その喉笛を掻き切って、戦闘は終結した。


「はぁ……はぁ……。な、なんとかなった……」


フィンが、その場にへたり込み、荒い息をついている。彼の顔には、疲労と、そして初めての共同戦闘を乗り越えた安堵の色が浮かんでいた。他のメンバーも、それぞれの武器を下ろし、安堵の息をついている。


広間には、ゴブリンたちが消えた後の、魔力の残滓と、土埃、そしてわずかな獣臭が漂っていた。

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