学外実習、迷霧の森へ
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レナード・アークライトから半ば強引に渡された手帳。あれから数日、俺は夜ごと自室でそのページをめくっていた。彼の狂的なまでの探求心には辟易させられたが、その知識と分析力は本物だった。手帳にびっしりと書き込まれていたのは、古代魔法の断片的な記述、未知の術式に関する考察、そして、特異な魔力現象の分析。その多くは、師匠から受けた古代魔法の教育によって、俺にはその内容の高度さと、着眼点の鋭さを理解することができた。
特に、俺が合同訓練で見せた魔法に関する彼の仮説――「リオン君のあの深紅の炎は、通常の火属性魔法とは異なる、極めて高効率なエネルギー変換プロセスを経ているのではないだろうか? その結果、あれほどの破壊力と特異な燃焼パターンが生じるのかもしれない。そして、あの爆裂現象による加速は、単純な爆風の反作用ではなく、魔力の指向性エネルギー放出と、それを推進力に変換する術者の瞬間的な身体強化が複合した、高度な魔力操作に基づいている可能性がある」――という部分は、師匠から受けた力の使い方に関する教えの断片を思い出させた。
レナードの推論は、俺が自身の力をより深く理解するための重要な「手がかり」になるかもしれない、そんな予感を抱かせるものだった。
ある日の朝、全校生徒が講堂に集められ、学院長から一つの発表があった。それは、毎年この時期に行われる恒例行事――「学外実習」の実施についてだった。
「諸君、まもなく学院は長期の学外実習期間に入る。これは、諸君が日頃の座学や訓練で得た知識と技術を、実際の自然環境の中で試し、実践的な経験を積むための、極めて重要な機会である」
学院長の厳粛な声が、講堂に響き渡る。生徒たちの間には、期待と不安が入り混じった、独特のどよめきが広がった。
「今年の実習場所は、学院から北東へ馬車で約三日の距離に位置する、『迷霧の森』とその周辺地域とする。期間は二週間。目的は、第一に、同地域に自生する希少な魔法薬草の採集と、その生態調査。第二に、迷霧の森周辺の地理的特徴および魔力分布の調査。そして第三に、同地域に生息する低級から中級程度の魔物の生態観察および、必要に応じた討伐訓練である」
迷霧の森。その名を聞いて、生徒たちの間に再びざわめきが起こった。その森は、一年中深い霧に覆われ、方向感覚を失いやすく、また、特殊な魔物や未知の植物が生息しているとも噂される、学院の生徒にとっては比較的難易度の高い実習場所として知られていた。
「実習は、各科・各学年から選抜された生徒による混成班を編成し、班ごとに行動してもらう。引率教官の指示に従い、安全管理を徹底し、実りある実習となるよう、各自、心して準備するように。班分けおよび担当教官については、後日、掲示にて通達する。以上だ」
学院長の言葉が終わると、生徒たちは、早速、実習の話題で持ちきりになった。
俺は、その喧騒の中で、深く溜息をついた。学外実習。
ただでさえ面倒なのに、メンバー次第では最悪の二週間になる。
そして数日後、掲示板に貼り出された班分けを見て、俺の予感は的中した。俺、リオン・アッシュフォードが所属することになったのは、第三班。そのメンバーには、エリアーナ・クレスウェル、ミリア・ヴァレンタイン、ロイ・スタイン、そしてレナード・アークライト。さらに、二人の新しい顔ぶれが加わっていた。一人は、魔法科の三年生で、いつも静かに本を読んでいる印象の女子生徒、セレスティア・ルーンフェルド。もう一人は、騎士科の一年生で、小柄ながらも真面目そうな雰囲気の男子生徒、フィン・マクニール。以前の合同訓練で一緒だったアルフォンスやマイルズ先輩、ティナ、そしてゼイドの名前は、第三班のリストにはなかった。彼らは別の班に編成されたのだろう。
(……セレスティア先輩に、フィンか。ゼイドやアルフォンス先輩がいないだけマシ……とは言えないか。ミリアとレナードがいる時点で、すでに面倒事は確定だ)
そして、この総勢七名からなる第三班の引率担当教官は――アストリッド・ベルク。
俺は、天を仰ぎたくなった。これだけの面子が揃えば、何事もなく終わるはずがない。
(ああ…神様。ぶん殴っていいですか?)
実習出発の当日。学院の門前に集合する生徒たち。第三班のメンバーも顔を合わせる。セレスティア先輩は静かに本を読んでおり、フィンは緊張した面持ちで直立不動の姿勢を保っている。他のメンバーは、以前からの知り合いも多いが、この新たな構成での共同作業に、どこかぎこちない空気が流れていた。俺はこれからの二週間をどう乗り切るか、思考を巡らせていた。
やがて、大型の幌馬車が数台到着し、班ごとに分乗するよう指示が出た。俺たちの班は人数が比較的多いため、一台の馬車を割り当てられた。乗り込む際、自然と席の配置で軽い譲り合いが起きる。エリアーナが窓際の席に座り、その隣にミリアがにこやかに収まった。レナードは、大量の資料と採集道具で自分の周りを固め、既に何かをぶつぶつと呟き始めている。セレスティア先輩は、彼の隣で静かに読書を続けており、フィンは背筋を伸ばして前方の席に座った。ロイは、いつも通り気配を消して隅に、そして俺は、できるだけ目立たない後方の席を選んだ。
馬車がゆっくりと動き出し、エルドラードの街並みを後にしていく。しばらくの沈黙の後、アストリッド教官に暫定的なリーダー役を指名されたらしいエリアーナが、少し緊張した面持ちで口火を切った。
「えっと、皆さん。これから約三日間、馬車での移動になります。その後の実習も考えると、長い期間行動を共にしますので、まずは改めて自己紹介と、それぞれの得意分野、そしてこの実習で何をしたいか、などを話し合っておきませんか? その方が、連携も取りやすくなると思いますし……」
彼女の提案は、もっともなものだった。特に、初顔合わせのメンバーもいるのだから。
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