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騎士の誇りと聖炎

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レグナスの咆哮が、合図だった。


彼の巨体から繰り出される大剣の初太刀は、風を切り裂くような轟音と共にアルフォンスに襲いかかった。それは、力任せに見えて、しかし的確にアルフォンスの胸元を狙った、重く鋭い一撃。アルフォンスは、それを冷静に見極め、左腕に構えた自らの円盾バックラーで衝撃を受け止めつつ、右手の長剣でその切っ先を巧みに受け流し、バックステップで間合いを取る。

ガキン!という硬質な音が響き、アルフォンスの腕に鈍い痺れが走った。


「逃げるのか、ベルンシュタイン! それとも、それがお前のちっぽけな騎士道か!」


レグナスは、獲物を見つけた獣のように獰猛な笑みを浮かべ、間髪入れずに追撃する。大剣が、薙ぎ払い、突き、叩きつけと、嵐のようにアルフォンスを襲う。その一撃一撃は、石畳の床に当たれば火花を散らし、壁に当たれば浅い亀裂を入れるほどの凄まじい威力だ。

ヒュン! ゴンッ! と空気を切り裂く音と衝撃音が絶え間なく響き、見ている者たちにまでその圧力が伝わってくるかのようだ。


アルフォンスは、堅実な剣捌きと盾を巧みに使い、レグナスの猛攻を必死に凌いでいた。額には玉のような汗が滲み、呼吸も荒くなってきている。明らかに防戦一方だった。レグナスの大剣はリーチも長く、その圧倒的なパワーは、アルフォンスの防御を少しずつ、しかし確実に削り取っていく。盾で受けた衝撃が腕から肩へと響き、足元が僅かにふらつく場面もあった。


(やはり、パワーとリーチの差が大きいか……。アルフォンス先輩の剣は正確だが、レグナスの攻撃を防ぐので精一杯だ。このままではジリ貧だな…)


俺は、戦況を見守りながら分析する。アルフォンスは、レグナスの攻撃パターンを読み、カウンターを狙っているようだが、レグナスの攻撃は獣のように途切れることなく続き、なかなかその機会が訪れない。


「どうした、ベルンシュタイン! もう終わりか! お前の誇りなど、その程度か! グレイ家の雑魚と一緒に、ここで無様に散るがいい!」


レグナスの挑発が、さらに下劣さを増して続く。アルフォンスは、唇を噛み締め、必死に耐えているが、その動きには徐々に焦りの色が見え始めていた。レグナスがフェイントを織り交ぜた渾身の一撃、その大剣の重い刃がアルフォンスの盾を強引に弾き飛ばした!


「しまっ――!」


アルフォンスの体勢が大きく崩れる。がら空きになった胴体に、レグナスの大剣が容赦なく迫る!


「終わりだ、ベルンシュタイン!」


レグナスが勝利を確信した獰猛な笑みを浮かべる。エリアーナやティナが、息を呑むのが分かった。


だが、その瞬間。


アルフォンスの身体から、ふわりと、ごく微かな、温かいオーラのようなものが立ち昇ったように、俺には感じられた。いや、それは実際に目に見えるものではない。だが、彼の纏う空気が、明らかに変わったのだ。疲労の色が薄れ、その瞳には、先ほどまでとは比較にならないほどの、強い意志と、驚異的な集中力の光が宿る。


「なっ……!?」


レグナスが、アルフォンスの纏う空気の突然の変化に気づき、大剣を振り下ろす動きがコンマ数秒、遅れた。その一瞬の隙を、アルフォンスは見逃さなかった。


「はあああああっ!」


石畳を蹴る音と同時に、アルフォンスの身体が弾丸のようにレグナスに迫る! その剣は、先ほどまでの防戦一方の剣筋とは全く異なる、鋭く、力強く、そして正確無比な軌道を描き、閃光のような斬撃となってレグナスの急所を的確に狙っていく。


キィン! ガキン! カン! カン! キィィィン! 甲高い金属音が、まるで鍛冶場のように連続して広間に響き渡る!


「こ、こいつ……急に動きが……キレが増しただと!? さっきまでの弱々しさはどうした!」


戸惑うレグナスに対し、アルフォンスは畳み掛けるように攻撃を続けた。レグナスの大剣が重々しく唸りを上げて振るわれるが、アルフォンスはそれを紙一重で見切り、あるいは盾で巧みに受け流し、即座に反撃の刃を閃かせる。剣と剣が激しくぶつかり合い、目にも鮮やかな火花が連続して散る。その音は、先ほどまでとは異なり、より甲高く、鋭い。アルフォンスの剣は、まるで生き物のようにしなやかに動き、レグナスの防御の僅かな隙間を的確に突いていく。一撃ごとに、レグナスの巨体がわずかに後退し、その顔には焦りの色が濃くなっていく。アルフォンスの長剣がレグナスの肩を浅く切り裂き、赤い血がわずかに滲んだ。


(……よし。聖炎の力は、確かに彼の身体能力と精神力を底上げしている。だが、この戦い方は、アルフォンス先輩自身の技量があってこそだ。身体能力がついてくればかなりの使い手になりそうだ。)


俺は、アルフォンスの戦いぶりを見ながら、冷静に分析していた。


激しい攻防が、数分間続いただろうか。両者ともに、息が上がり、汗が飛び散る。レグナスは、アルフォンスの予期せぬ反撃と、その衰えぬ闘志に焦りを見せ始め、その太刀筋に徐々に乱れが生じてきていた。一方のアルフォンスは、集中力を切らさず、冷静に相手の隙を窺っている。彼の剣先は、レグナスの防御網を徐々に切り崩し、確実にダメージを与え始めていた。


そして、ついにその瞬間が訪れた。


レグナスが、苛立ち紛れに放った大振りの薙ぎ払い。アルフォンスは、それを冷静に見切り、最小限の動きで屈んで回避すると、がら空きになったレグナスの胴体に向けて、電光石火の突きを放った!


ズバッ!


浅くではあるが、長剣の切っ先がレグナスの脇腹を捉えた。


「ぐおっ!」


激痛に顔を歪めたレグナスは、バランスを崩し、たたらを踏む。アルフォンスは、その好機を逃さず、さらに踏み込み、渾身の力で長剣を横薙ぎに振るった!狙うは、レグナスの大剣を持つ手首!


ガキィィィィン!!


ひときわ大きな金属音と共に、レグナスの大剣が、その手から弾き飛ばされ、宙を舞った!


カラン……コロン……と虚しい音を立てて、大剣が石畳の床に落ちた。


勝負は、決した。


「……ぐ……! ば、馬鹿な……この俺が……こんな……雑魚に……!」


レグナスは、信じられないといった表情で、脇腹を押さえながら膝から崩れ落ちた。その顔には、怒りと屈辱、そしてわずかな恐怖の色が浮かんでいる。


「やったー! アルフォンス先輩、すごい!」


ティナが、一番に歓声を上げる。マイルズ先輩は、目に涙を浮かべ、アルフォンスに駆け寄った。


「アルフォンス君……! 私のために、すまない……そして、本当に、ありがとう……!」


「マイルズ先輩、気になさらないでください。騎士として、友人として、当然のことをしたまでです。それに、あなたの名誉は、グレイ家の名誉は、誰にも汚させるわけにはいきませんから」


アルフォンスは、肩で息をしながらも、マイルズ先輩に力強く微笑みかけた。エリアーナも、誇らしげな表情でアルフォンスを称えている。


アルフォンスは、自身の勝利に安堵しつつも、戦闘中に感じた、いつも以上の力が湧いてくる感覚に、わずかな違和感を覚えていた。まるで、誰かに背中を押されたような、不思議な温かさを感じたのだ。だが、激しい戦闘によるアドレナリンのせいだろうと、彼はすぐにその感覚を振り払った。


俺は、彼らの喜びの輪から少し離れた場所で、静かにその光景を見ていた。内心では、聖炎の力を使ったことへのリスクを心配しつつも、今は、アルフォンスの勝利と、マイルズ先輩の名誉が守られたことを素直に喜ぶべきだろう。


レグナスは、屈辱に顔を歪めながら立ち上がると、忌々しげに俺たちを一瞥したが、何も言わずに、取り巻きたちと共に広間を後にしていった。これで、石板解読の権利は、俺たちのチームのものとなった。


「さて、次は、この謎解きだな」


アルフォンスが、祭壇の上の台座と、壁の石板を見比べながら言った。


「いくつか紋様があるが……どれが正解なんだろうか?」


エリアーナや他のメンバーも、石板を眺め、あれこれと推測を始める。俺は、先ほど感知した、ごく微細な魔力の流れを放つ石板を、彼らに気づかれないように、さりげなく視界の端に入れるように誘導した。そして、ティナが「偶然」それを見つけるように。


「……あ、この石板、なんだか少しだけ、他と違うような気がしませんか? 光の当たり具合とか……」


ティナが指差したのは、まさに俺が目星をつけていた石板だった。


「本当だ……言われてみれば、微かに魔力を帯びているような……?」


エリアーナも同意する。


「よし、これを使ってみよう」


アルフォンスが、その石板を手に取り、台座の窪みにはめ込んだ。


ゴゴゴゴ……。


広間全体が振動し、奥の壁の一部が、音を立てて左右に開き始めた。隠された通路が、現れたのだ。


「……道が、開いた!」


歓声が上がる。俺は、誰にも気づかれずに、小さく息をついた。


こうして、俺たちは、リーダー同士の一騎打ちという予期せぬ試練を乗り越え、そして、石板の謎を解き、新たな道を開いた。

このダンジョンは、まだ多くの秘密と、そして危険を隠している。

どんどん更新していきますので作品評価&ブックマークをお願いします!

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