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二人の戦士

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俺の身体に、虹色の光を放つ「原初の炎」が流れ込み、そして静かに収束していく。俺の内にあったはずの二つの根源の炎――聖炎と呪炎――が、穏やかな調和をもって鎮まっているのを感じた。


「……全て、分かった」


俺がそう呟くと、仲間たちは息を呑んだ。俺の纏う空気が、先ほどまでとは明らかに変わっていることに、彼らも気づいたのだろう。絶望に沈んでいた少年の面影は、もうどこにもない。そこにあるのは、自らの宿命を受け入れ、そして、進むべき道を明確に見定めた、一人の戦士の顔だった。


エリアーナが、心配そうに、しかしその瞳の奥に確かな信頼を宿して、俺の名を呼んだ。

「リオン君……?」


俺は、彼女に力強く頷いてみせた。

「ああ。俺たちが何をすべきか、そして、俺が何者なのか。その答えの在り処が、示された」


俺がそう言った、まさにその瞬間だった。


ゴゴゴゴゴゴ……!!!!


俺たちがいた「原初の炎の間」全体が、激しく振動し始めた! そして、炎が灯っていた台座の背後、これまでただの石壁であったはずの場所が、眩い光を放ちながら、巨大な扉の形へと姿を変えていく! 石が擦れる重々しい音と共に、その扉は、まるで数千年の眠りから覚めるかのように、ゆっくりと、内側に向かって開かれていった。


扉の向こう側は、星々が渦巻く、宇宙のような空間が広がっている。そして、そこから、これまでのどの場所とも比較にならないほど、神聖で、そして厳粛な魔力が、静かに流れ出してきていた。


「な、なんだ、こいつは……!? 新しい道か!?」

ハルが、驚愕の声を上げる。


「間違いない……!」レナードが、興奮に震える声で叫んだ。「見てみろ! これまで解読してきたどの文献にも記されていなかった、未知の空間だ! あの扉の先に、この遺跡の本当の心臓部があるに違いないぞ!」


仲間たちの視線が、一斉に俺に集まる。俺は、その道の先にあるものを、直感的に理解していた。あれは、俺が一人で進まなければならない道だ。


「……お前たちは、ここから先には来られない」

俺は、静かに告げた。


「何を言っているんだ、隊長! 俺たちも一緒に行きますぜ!」

「そうよ、リオン君! もう、一人で背負わないって約束したじゃない!」

ハルとエリアーナが、必死に反論する。


俺は、静かに首を横に振った。

「これは、俺自身の問題だ。俺が、この双炎を受け継ぐに値する『器』であるかどうかを試される、最後の試練なんだ。……だから、俺一人で行かなければならない」


俺のその揺るぎない覚悟を前に、仲間たちは言葉を失った。


俺は、エリアーナの肩にそっと手を置いた。

「心配するな。必ず、戻ってくる。……。」


エリアーナは、涙をこらえるように深く頷いた。


俺は、仲間たちに背を向け、一人、新たに開かれた道――星々の海へと続く、未知の空間――へと、足を踏み入れた。



光の扉をくぐった瞬間、俺の身体は無重力のような浮遊感に包まれた。そして、気づけば、俺は巨大なドーム状の空間に立っていた。床も、壁も、天井も、全てが磨き上げられた黒水晶でできており、そこには、まるで本物の宇宙のように、無数の星々や銀河が、ゆっくりと、そして壮大に巡っている。ここが、レナードたちが追い求めていた、この遺跡の心臓部……『星詠みの間』か。


その荘厳な光景に、俺が息を呑んでいると、空間の中央に、二つの人影が、光の粒子が集まるかのように、ゆっくりと姿を現し始めた。


一人は、白銀の、そしてどこか神々しい輝きを放つ鎧を纏っている。その佇まいからは、深い慈愛と、そして全てを守り抜こうとする、揺るぎない意志が感じられた。彼こそが、初代『聖炎の戦士』。

そして、その手に握られているのは……俺が師匠から受け継いだ、白銀の魔剣そのものだった。


もう一人は、漆黒の、そして禍々しいほどの力を感じさせる鎧を纏っている。その佇まいからは、絶対的な破壊力と、そして悪を許さないという、孤高の魂が感じられた。彼こそが、初代『呪炎の戦士』。

そして、もう一人が手にしているのもまた、見間違えようのない……俺の漆黒の魔剣だった。


(馬鹿な……!? なぜ、奴らが俺の剣を……!? いや、違う……。こいつらが、この剣の、本来の主……!)


俺は、その衝撃的な事実に、息を呑んだ。俺が師匠から受け継いだ二振りの魔剣は、ただの強力な武器ではなかった。それは、数千年の時を超えて受け継がれてきた、初代の戦士たちの魂そのものだったのだ。


彼らは、一言も発しない。ただ、その兜の奥で、二対の瞳が、静かに、しかし鋭く、俺を見据えている。俺が、彼らの力と、そしてこの剣を受け継ぐに値する『器』であるかどうかを、見極めようとするかのように。


俺は、ゆっくりと、腰に差した二本の魔剣の柄――俺自身の、黒い魔剣と、白い魔剣――を、同時に握りしめた。そして、魔力を込める。音もなく、漆黒の刀身と、白銀の刀身が現出する。


初代の戦士たちが、ゆっくりと剣を構えた。それに応じるように、俺もまた、双剣を構える。オリジナルと、その継承者。時を超えた、奇妙な対峙。


次の瞬間、俺たちは、同時に動いた!


キンッ!!!


四本の剣が、空間の中央で激しく衝突し、星々を揺るがすかのような、甲高い金属音を響かせた。

俺の、最後の試練が、始まったのだ。



戦いは、熾烈を極めた。聖炎の戦士の剣技は、流麗で、一切の無駄がなく、まるで未来を予知しているかのように、俺の攻撃を完璧にいなし、そして的確なカウンターを繰り出してくる。呪炎の戦士の剣技は、荒々しく、一撃一撃が山をも砕くほどの凄まじい破壊力を秘めており、まともに受ければ、砕け散ってしまいそうだった。


そして何より、彼ら二人の連携は、完璧だった。聖炎の戦士が俺の体勢を崩し、そこに呪炎の戦士が必殺の一撃を叩き込む。俺は、爆裂加速と、これまでに培ってきた全ての技術を駆使し、必死に応戦するが、完全に防戦一方だった。


「くっ……!」


俺は、呪炎の戦士の大剣を双剣で受け止め、大きく後方へと吹き飛ばされる。体勢を立て直そうとした、その一瞬の隙を、聖炎の戦士の剣が、俺の肩を浅く切り裂いた!


「ぐあああっ!」


傷口から、血が迸る。だが、それだけではなかった。


――なぜだ! なぜ、我らが守ろうとした者たちが、我らに刃を向ける! 与えても、与えても、満たされることなく、さらに多くを求め、そして最後には、我らを裏切る!


聖炎の戦士の剣が、俺の身体を傷つけた瞬間、彼の魂の叫び、その永い年月の間に蓄積された、深い、深い苦しみが、俺の脳内に直接流れ込んできたのだ!


「なっ……!?」


俺は、その凄まじい感情の奔流に、動きを一瞬止めてしまう。その隙を、呪炎の戦士は見逃さなかった。彼の大剣が、俺の胴体を薙ぎ払う!


「ぐはっ!」


俺は、再び吹き飛ばされ、星々の海を映す床に叩きつけられた。そして、その大剣からもまた、別の、しかし同じように深い苦しみが、俺の魂を苛んだ。


――我らは、悪を討った! 世界を脅かす脅威を、この力で滅ぼした! なのに、なぜだ! なぜ、我らが、人々から『化け物』と、『厄災』と、忌み-嫌われなければならないのだ! 守っても、守っても、返ってくるのは、恐怖と、憎悪だけ……!


聖炎の戦士が抱える、「分け与えても裏切られる苦しみ」。

呪炎の戦士が抱える、「守っても忌み嫌われる苦しみ」。


二人の、数千年にも及ぶ絶望と孤独が、俺の精神を、容赦なく蝕んでいく。


(……そうだ……。力を持つ者は、いつだって孤独だ……。理解されることなどない……。俺も……同じだ……)


俺の心が、彼らの絶望に共鳴し、折れそうになる。


だが、その時。俺の脳裏に、仲間たちの顔が浮かんだ。俺を信じ、共に戦うと誓ってくれた、エリアーナ、ゼイド、ハル……。そして、俺に「自由に生きろ」と遺した、師匠の顔。


(……違う……! 俺は、一人じゃない……!)


俺は、ゆっくりと、しかし力強く、立ち上がった。

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