再び、原初の炎
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レナードが起動させた隠し通路の石扉が、俺たちの背後で重々しい音を立てて閉じた。その瞬間、騎士団の追手の気配は完全に遮断され、俺たち六名を、数千年の時を刻んだ古代の空気が包み込んだ。
「……ふぅ。どうやら、うまく撒けたようだな」
マルコが、安堵のため息をついた。
「ええ。でも、もう後戻りはできないわね」
セレスティアが、静かに、しかし覚悟を決めた表情で言った。彼女とレナードは、この通路に足を踏み入れた瞬間から、もはや王国最高の頭脳ではなく、俺たちと同じ「反逆者」となったのだ。
新たに開かれた通路は、これまでのどの通路とも異なっていた。壁や床は、継ぎ目のない滑らかな金属のような素材でできており、そこには無数の、星の光のような粒子が埋め込まれ、まるで銀河の中を歩いているかのような、幻想的な光景を作り出している。
「しかし、本当なのかね」マルコが、壁に軽く触れながら、俺に尋ねた。「ここなら、本当に騎士団の連中に感知されないのか? まるで、墓の中にいるみてえに静かすぎる」
その問いに答えたのは、杖を構え、常に周囲の魔力の流れを探っていたエリアーナだった。
「ええ、マルコさんの言う通り、この通路自体からは私たちの魔力はほとんど漏れていないようです。レナード先輩の地図にあった通り、壁に埋め込まれた特殊な鉱石の影響で、ここから先は騎士団が使っているような広範囲の監視結界での感知は難しくなっているのだと思います。でも……」
彼女は、そこで一度言葉を切り、真剣な表情で付け加えた。
「短距離の感知系魔法までは無効化できません。だから、もし近くに警備兵がいたら、気づかれる可能性はあります。そこだけは、気を付けて」
エリアーナの的確な分析に、俺たちは改めて気を引き締めた。
俺たちは、セレスティアの冷静な先導のもと、その幻想的な通路を進んでいった。侵入班の俺、マルコ、リズベット、エリアーナ。そして、新たに加わったレナードとセレスティア。この六名が、俺たち「自由の翼」の、遺跡深部攻略のための、最初のチームとなった。
通路の壁には、時折、巨大な水晶の窓のようなものが設けられており、そこからは、騎士団が調査を行っているであろう大書庫や、以前俺たちが戦った守護者のいる広間などの様子を、まるで箱庭のように見下ろすことができた。騎士団の兵士たちが、松明を手に、右往左左往しているのが見える。
「へっ、間抜けなこった。俺たちが、こんな場所から優雅に見物しているとは、夢にも思っちゃいねえだろうぜ」
マルコが、皮肉っぽく笑う。
俺たちは、彼らに気づかれることなく、慎重に、そして迅速に、遺跡の深部へと進んでいった。目指すは、ただ一つ。俺の運命を狂わせ、そして、全ての答えが眠るであろう、あの場所だ。
どれほどの時間を進んだだろうか。セレスティアの足が、一つの巨大な円形の扉の前で止まった。
「……ここよ。この先が、レナードと私が『原初の炎の間』と名付けた場所」
俺は、ゴクリと喉を鳴らした。この扉の向こう側に、あの炎が待っている。
レナードが、扉の横にある制御盤のようなものを操作すると、重々しい音を立てて扉が開いていった。そして、俺たちは、再びあの広大な空間へと足を踏み入れた。
そこは、以前、俺が記憶の中で訪れた時と、何も変わっていなかった。ドーム状の高い天井からは柔らかな光が降り注ぎ、壁面には壮大なレリーフが刻まれている。そして、その広大な空間の中央。そこには、他には何もなく、ただ一つの、黒曜石を磨き上げたかのような、簡素な円形の台座がぽつんと置かれているだけだった。
そして、その台座の上に、それは灯っていた。
頼りなく揺らめく、拳ほどの大きさの「小さな炎」。
その炎を見た瞬間、俺は、魂が奥底から共鳴するような、激しい感覚に再び襲われた。まるで、炎が俺を呼んでいる。帰ってきたのだ、と。
俺は、仲間たちの制止も聞かず、まるで何かに導かれるように、ゆっくりと台座へと歩を進めていった。
(師匠……。そして、父さん、母さん……。俺は、ここに戻ってきた。自分の力の意味を、そして、生きる意味を、見つけるために)
俺は台座の前に立ち、揺らめく小さな炎を、じっと見つめた。そして、今度は、覚悟を決めて、ゆっくりと、革手袋をはめた右手を、その神秘的な炎へと――差し伸べた。
前回と同じように、熱さは全く感じなかった。むしろ、温かい光に包み込まれるような、心地よい感覚。
そして、次の瞬間。
台座の上の小さな炎が、爆発的な輝きを放ち、一瞬にしてその体積を増大させた!
それは、もはや「小さな炎」ではない。虹色の光を放つ、巨大な炎の奔流となり、俺の身体を、完全にその中心へと飲み込んでしまったのだ!
「リオン君っ!!」
エリアーナの悲痛な叫び声が、広間に響き渡った。マルコやリズベットも、咄嗟に武器を構える。
だが、レナードが、彼らの前に立ちはだかった。
「待て! 手を出すな!」
「しかし!」
「よく見ろ!」レナードは、興奮と畏敬に満ちた声で叫んだ。「あれは、攻撃ではない! 炎が……リオン君を拒絶していない! まるで……彼を、受け入れているかのようだ! 」
レナードの言う通り、俺は、炎の中にありながら、不思議と苦痛は感じていなかった。俺の意識は、もはや記憶の奔流に飲み込まれてはいない。ただ、俺の魂の奥底に、直接、温かく、そして荘厳な声が、響き渡っていた。
それは、男でも女でもなく、老いても若くもない、ただ純粋な意志そのもののような、古代の声だった。
『――力の器よ』
その声と共に、俺のこれまでの戦いの記憶が、脳裏を駆け巡る。絶望に沈んだあの日、仲間たちの声に支えられ、騎士団と決別し、そして、自らの意志で、再びこの場所に戻ってきた、今の俺の姿が。
『真実を知り、苦悩を越え、己が道を見定めたか』
その声は、俺の覚悟を、肯定してくれているかのようだった。
『――汝、成熟し、大器となった』
その言葉が響き渡った瞬間、俺を包んでいた虹色の炎は、その輝きをさらに増し、そして、俺の身体の中へと、まるで吸い込まれるように流れ込んできたのだ!
仲間たちが固唾を飲んで見守る中、俺の意識は、自らの内に流れ込んでくる、壮大な力に、ただただ圧倒されていた。
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