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再会の賭け

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俺の、そして俺たち「自由の翼」の最初の目的地は――迷霧の森の古代エルヴン遺跡に決まった。俺の決意に、仲間たちは迷いなく頷いてくれた。その頼もしい姿に、俺の心にも、確かに希望の光が灯っていた。


だが、その熱い決意に、冷や水を浴びせるような現実的な言葉を放ったのは、副隊長のハルだった。


「……とは言ったものの、隊長。どうするんですかい?」

彼は、ギデオンの地下室で、腕を組みながら、素朴な、しかし最も核心を突く疑問を口にした。

「さすがの軍も、俺たちが遺跡に行くとは思っちゃいないでしょうから、超厳重ってほどではないかもしれません。ですが、国家機密レベルの遺跡ですぜ? それなりの警備が敷かれているのは、間違いないんじゃないですかい?」


ハルのその言葉に、先ほどまで高揚していた仲間たちの顔にも、再び厳しい現実の色が戻ってきた。ギデオンも、やれやれといった様子で首を振っている。

「小僧の言う通りだ、リオン坊。今のてめえらが、騎士団の警戒網を突破してあの遺跡にたどり着くなんざ、正面から王城に殴り込みをかけるようなもんだ。無謀にも程がある」


「……確かに、騎士団の警備を突破するのは、骨が折れるだろうな」俺も、それは覚悟の上だった。「だが、あの遺跡の内部は、奴らもまだ完全には把握できていないはずだ。俺の魔剣が鍵となったあの通路の先は、おそらく俺たちにしか進めない。遺跡にさえ入れれば、スムーズに深部に辿り着けるはずだ」


「ですが、その『入る』のが一番難しいのではありませんか?」

エリアーナが、不安げに言う。


その時、これまで黙って話を聞いていたゼイドが、静かに、しかし力強い声で口を開いた。

「……待て。方法が、ないわけではないかもしれない」


俺たちは、一斉にゼイドに視線を向けた。


「俺が騎士団に配属される前に、宮廷にいる父の友人から、聞いたことがある。」彼は、真剣な表情で続けた。「あの遺跡は、現在、騎士団によって厳重に封鎖されている。だが、それは単なる警備のためだけではない。遺跡の重要性を認識した王国の上層部は、魔法研究機関と合同で、大規模な公式調査団を派遣しているらしい。そして、その調査チームの中核メンバーとして、レナード・アークライト先輩と、セレスティア・ルーンフェルド先輩が、若手ながらもその才能を高く評価され、抜擢されていると聞いている」


ゼイドのその言葉に、俺たちは息を呑んだ。レナードとセレスティアが、あの遺跡にいるだと?


「なるほど……!」ハルが、ポンと手を打った。「つまり、あの遺跡の警備は、外部からの侵入者を防ぐと同時に、中にいる天才坊主たちを守るためのものでもあるってわけですな!」


「ああ」俺は、ゼイドの情報の重要性を即座に理解した。「だとしたら、話は変わってくる。俺たちの目的は、もはや騎士団の警備を強引に突破することじゃない」


俺は、仲間たちに向き直った。

「レナード先輩とセレスティア先輩に何とかして連絡を取り、彼らの協力を得て、穏便に警備を突破し、遺跡の深部に侵入する。それが、俺たちの作戦だ」



俺が提示した新たな作戦方針に、仲間たちの顔にも、わずかな光明が差したようだった。だが、すぐに新たな疑問が浮かび上がる。


「しかし、どうやって連絡を取るんだ?」

ハルが、再び現実的な問題を口にした。「あの遺跡の周りは監視の目が光っているはずだ。手紙を出すにしても無理だろうし、下手に動けば、すぐに騎士団に嗅ぎつけられるぜ?」


「それに、レナード先輩たちの立場も考えなければなりませんわ」リズベットが、心配そうに付け加える。「もし、私たちが接触したことが騎士団に知られれば、彼らまで反逆者として扱われかねない……」


仲間たちの懸念はもっともだった。騎士団の監視下にある彼らに、安全に、そして確実に俺たちの意図を伝える方法。それは、極めて困難なミッションだった。


「……何か、騎士団に気づかれれないような、秘密の連絡手段があれば……」

エリアーナが、必死に頭を巡らせる。


その時、それまで黙って俺たちの議論を聞いていたギデオンが、ニヤリと口元を歪めた。

「……まあ、方法が全くないわけでもないぜ?」


「本当か、ギデオン!?」

俺は、思わず声を上げた。


「ああ。俺もいろいろと修羅場をくぐってきているんでな」ギデオンは、店の奥から、森の地図と、数着の、闇に溶け込むような黒いローブを取り出してきた。「騎士団は、確かに遺跡の周囲に厳重な警戒網を敷いている。だが、どんな完璧な網にも、必ず『穴』はあるものさ。この地図に記した場所は、迷霧の森の中でも特に魔力の流れが不安定で、騎士団の監視魔法が機能しにくい、いわば『死角』だ。」


彼は、続けて黒いローブを俺たちに見せた。

「そして、このローブは、お前に渡した手袋と同じ原理で作られた、特製の魔力隠蔽の外套だ。これを纏えば、たとえ監視魔法の範囲内に入ったとしても、お前たちの魔力反応を極限まで抑え込み、気配を消すことができる。これを使えば、遺跡のかなり近くまで、気づかれずに接近できるはずだ」


「だが、問題はそこからだ」ギデオンは続けた。「どうやって、中にいる天才坊主たちだけに、合図を送るか……」


「どうやってメッセージを届けるか、か……」

俺は、腕を組み、思考を巡らせた。通常の魔力通信は、間違いなく騎士団に傍受されるだろう。


「……そうだわ!」

その時、エリアーナが、何かを思いついたように声を上げた。

「あの遺跡の周辺には、迷霧の森特有の、微弱な魔力を持つ小動物がいたわよね? 例えば、あの『光苔ネズミ』とか……」


「光苔ネズミだと?」


「ええ。夜になると、体の苔が青白く光る、あの小さなネズミよ」エリアーナは、興奮気味に説明を続けた。「光苔ネズミは、最後に強く触れたものの魔力パターンを、自分の身体に生えている光苔に転写する能力があるの。普段は、森にいる強い魔物の魔力パターンを転写して、他の外敵から身を守っていると聞くわ。」


エリアーナのその言葉に、俺の脳裏に閃きが走った。

(魔力パターンの転写…だと? それならば…!)


俺は、エリアーナに向き直った。

「エリアーナ、そのアイデア、使えるかもしれない。俺があの封印された扉を開けた時に使った、特殊な魔力パターン…あの『詩』を、そのネズミに転写させることができれば…」


「ええ!」エリアーナも、俺の意図を即座に理解したようだ。「レナード先輩やセレスティア先輩のような、優秀な魔術師なら、その異常な魔力パターンを持つネズミが遺跡の警備網の中をうろついていれば、ただの動物ではないと、必ず気づいてくれるはずよ!」


エリアーナの大胆かつ、彼女らしい発想に、俺たちは皆、感嘆の声を上げた。

「へっ、お嬢ちゃん、なかなか冴えてるじゃねえか!」ハルが、豪快に笑う。

ゼイドも、「ふん、悪くない作戦だ」と、素直に認めているようだった。


「……決まりだな」俺は、仲間たちに向き直った。「俺たちの作戦はこうだ。まず、ギデオンが用意してくれたルートと魔力隠蔽のローブを使い、遺跡の『死角』へと向かう。

そこで、光苔ネズミを捕獲し、俺があの扉を開いた時と同じ魔力信号に、その苔のパターンを書き換えて、彼らに送り込む。そして、レナード先輩たちからの反応を待つ。もし、彼らが俺たちの意図を理解し、協力してくれるなら……俺たちは、遺跡の深部へと、再び足を踏み入れることができるはずだ」


俺のその言葉に、仲間たちは、力強く頷いた。


「よし、分かった」ギデオンが、満足そうに頷いた。「それなら、お前さんたちが遺跡に向かうための、最低限の装備と食料も、俺が用意してやろう。これも、師匠への『貸し』ってことにしておいてやるよ」


こうして、俺たち「自由の翼」の、最初の、そして極めて困難な任務の計画が、固まった。

俺たちは、ギデオンの店の、薄暗い地下室で、息を殺しながら、作戦の準備を始めた。

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