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明かされる真実

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首都エルドラードの地下深く、騎士団の特別監獄から続く、古く、そして忘れ去られた地下水道。

俺たちは、その汚泥と闇の中を、音もなく進んでいた。ハルが先頭で分厚い鉄格子をこじ開け、マルコが周囲の気配を探り、後方ではゼイドが警戒にあたる。エリアーナとリズベットは、俺が監獄生活でわずかに衰弱した身体に、回復魔法をかけ続けてくれていた。


ようやく地上へと続くマンホールにたどり着き、ハルが周囲の安全を確認した後、俺たちは一人、また一人と、首都の最も薄汚れた裏路地へと姿を現した。月明かりだけが、俺たちの覚悟を決めた顔を、青白く照らし出している。


「隊長、どうします? このまま西へ向かい、首都を脱出しますかい?」

ハルが、小声で、しかし焦りを滲ませながら今後の進路について尋ねた。


「いや、まだだ」

俺は、彼の言葉を制した。仲間たちの視線が、一斉に俺に集まる。


「その前に、寄るところがある」


「寄るところ、ですかい!?」ハルが、驚きの声を上げる。「今、俺たちは国中から追われるお尋ね者なんですよ! 騎士団の連中が、血眼になって俺たちを探しているはずだ! そんな悠長なことをしている暇は……!」


「リオン君、どこへ行くつもりなの……? 危険ではないのですか……?」

エリアーナも、心配そうな顔で俺を見つめている。


俺は、彼らの不安を、そして信頼を、その視線で受け止めた。

「ああ、危険な場所だ。だが、今の俺たちが、これからどこへ向かい、何と戦うべきなのか、その答えを見つけるために、どうしても必要な場所なんだ。……信じて、ついてきてくれ」


俺のその言葉に、ハルは一瞬だけ躊躇ったが、やがて「……へっ、分かりましたよ。隊長がそう言うんなら、地獄の釜の底まで付き合いますぜ」と、不敵な笑みを浮かべた。他の仲間たちも、無言で頷いている。


俺は、彼らを率いて、迷路のような裏路地を進んでいった。目的地は、一つしかない。


数十分後、俺たちはギデオンの店「迷い猫」の地下室に、その身を隠していた。俺たち全員が、彼の狭い店に雪崩れ込んできたのだ。ギデオンは、その光景に一瞬だけ目を見開いたが、すぐに全てを察したかのように、ニヤリと笑った。

「……へっ。監獄破りだけでも大したもんだが、そのまま軍隊引き連れて俺の店に凱旋とはな。お前さんの師匠も、天国で大笑いしていることだろうよ。……それで? 王国騎士団全員を敵に回した、哀れな反逆者さんたちは、この情報屋に何の用だい?」


「急いでいる。例の薬瓶の調査結果を聞きたい」

俺は、単刀直入に切り出した。仲間たちも、固唾を飲んでギデオンの言葉を待っている。

これが、俺たちがこれから戦うべき相手の、そして俺自身の謎に繋がる、重要な情報であることを、彼らも理解しているのだ。


俺のその言葉に、ギデオンの表情から、いつもの飄々とした笑みが消えた。彼は、カウンターの奥の、厳重に施錠された引き出しから、俺が預けたあの禍々しい紫色の薬瓶を取り出した。


ギデオンの表情から、いつもの飄々とした笑みが完全に消えていた。彼は、カウンターの上に置かれた禍々しい紫色の薬瓶を慎重な手つきで指し示す。


「……ああ、こいつか。結論から言うと、とんでもない代物だ。お前たちが思っている以上に、根が深いぞ」


彼は、集まった俺の仲間たちの真剣な顔をゆっくりと見渡すと、重々しく口を開いた。

「こいつは、術者の生命エネルギーを、強制的に魔力へと変換するための、禁術を応用した代物だ。古い文献にしか残っていないような、呪われた錬金術だな。だが、ただの魔力じゃない。この薬の本当の恐ろしさは、変換する魔力の『質』を、特定の個人のものに強制的に書き換えるよう改造されている点にある」


「どういうことだ……?」

ハルが、訝しげに尋ねる。


ギデオンは、俺の顔をじっと見つめて言った。

「この薬は、使用者の命を燃やして、リオン、お前の『深紅の炎』を無理やり作り出すための薬だ」


その言葉に、エリアーナやゼイド、そしてハルたちも息を呑んだ。地下室は、水を打ったように静まり返っている。俺自身の炎を、模倣する薬だと?


「魔法師には、通常、自分が扱う属性の魔力に対する、ある種の『耐性』が備わっている。火の魔法使いが、自分の炎で火傷しないのはそのためだ」ギデオンは、指でテーブルを叩きながら、説明を続ける。「それは、自分の魂の色と同じ色の絵の具を扱うようなものだ。だが、リオンの『深紅の炎』は、そもそも規格が違う。あれは、通常の人間が扱えるような魔力密度じゃあない。コップ一杯の水と、荒れ狂う大嵐ほどの違いがある」


彼は、そこで一度言葉を切り、その場の全員に理解を促すように、ゆっくりと言葉を続けた。

「そんなものを、何の耐性もない人間が、薬の力で無理やり体内で発生させればどうなるか……分かるな? 敵を焼く前に、自分自身の魂と肉体が、その力の奔流に耐えきれず、内側から燃え尽きて灰になる。まさに、使い捨ての自爆兵器だ。非人道的にも程がある」


ギデオンのその詳細な説明は、俺たちが戦場で目の当たりにした、あの強化兵たちの悲惨な末路と、完全に一致していた。そして、仲間たちは、改めて俺の力の異常性と、それを模倣しようとする敵の非道さに、戦慄を覚えているようだった。


その時、エリアーナが、震える声で、その場にいる誰もが抱いていたであろう、根本的な疑問を口にした。

「……では、なぜリオン君は、その炎を扱っても、無事でいられるのですか? なぜ、あなただけが、あの深紅の炎を、自分の身体を焼かずに、自在に操ることができるのですか?」


彼女の真っ直ぐな視線が、俺に突き刺さる。ハルも、ゼイドも、そして俺を信じてついてきてくれた全ての仲間たちが、その答えを待っていた。


俺は、もう彼らに隠し事をするべきではないと、覚悟を決めた。



俺は、仲間たちの真剣な視線を受け止め、ギデオンと一瞬だけ目配せをした。彼が小さく頷くのを確認すると、俺はゆっくりと口を開いた。

「……それは、俺が生まれつき、あの『深紅の炎』よりも、もっと根源的で強い炎――『聖炎』と『呪炎』、その両方を持って生まれてきたからだ」


俺の口から放たれた、聞き慣れない二つの炎の名前に、仲間たちの顔に困惑の色が浮かんだ。俺は、あの学外実習で訪れた古代遺跡で、俺に何が起こったのかを、彼らに語り始めた。台座の上に灯っていた「小さな炎」に触れたこと。そして、その瞬間、俺の脳内に、壮大な過去の記憶が流れ込んできたことを。


「大昔、世界が戦乱に明け暮れていた時代、古代エルヴン文明の賢者たちが、万物の炎の根源であるという『原初の炎』を解析したそうだ。そして、その中から、二つの相反する性質を持つ、特別な炎を取り出した。それが、聖炎と呪炎だ」


ギデオンが、俺の言葉を引き継ぎ、その歴史的な背景を補足した。

「その二つの炎は、それぞれに選ばれた戦士に託され、その血筋の中で、永い年月を経て、徐々にその力を薄めながらも、受け継がれてきた。……ほとんど、おとぎ話の世界だがな。俺も、お前さんの師匠から聞かされるまでは、信じちゃいなかった」


彼は、そこで一度言葉を切り、俺の肩に手を置いた。その目には、深い同情と、そしてある種の畏敬の念が浮かんでいる。

「そして、何かの運命の悪戯か……。聖炎の資質を、その身にわずかに受け継いだ父親と、呪炎の資質を、同じくその身に秘めていた母親。その二人の間に生まれたのが、こいつ、リオンだ。こいつの身体には、聖炎と呪炎、その両方の力が、古の時代のままの、強大な力で宿ってしまった。……こいつが、あの深紅の炎を自在に操れるのは、こいつ自身が、その炎の『器』そのものだからだ」


その衝撃的な真実に、仲間たちは、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。俺が、ただの強力な魔法使いなのではなく、神話や伝説の域にある、特別な存在であったという事実に。


エリアーナは、その瞳にみるみるうちに涙を浮かべ、俺の顔をじっと見つめていた。

その視線には、もはや驚きや畏怖だけではない。俺が、その過酷な宿命を、たった一人で、これまでずっと背負ってきたことへの、深い、深い同情と、そして愛情が込められているように見えた。

彼女は、俺が遺跡で「母を殺した」と絶望していた、あの言葉の本当の意味を、今、理解したのかもしれない。


ゼイドは、言葉を失っていた。彼のプライドも、ライバル心も、このあまりにも壮大な真実の前では、その意味を失ってしまったかのようだった。彼は、自分の握りしめた拳を見下ろし、そして、ゆっくりと顔を上げて、改めて俺の顔を見つめていた。


ハルやリズベットたち古参兵は、顔を見合わせ、そして、深く頷いた。「……なるほどな。それで、合点がいったぜ、隊長」。彼らの瞳には、俺への変わらぬ、いや、これまで以上の絶対的な信頼が宿っていた。


こうして、俺の最大の秘密は、俺が率いる「自由の翼」の仲間たちに、共有されることとなった。俺たちの絆は、この瞬間、ただの信頼関係を超えた、運命共同体としての、より強く、そしてより確かなものへと変わったのだ。


重い、しかしどこか温かい沈黙が、ギデオンの店の地下室を支配していた。俺が、そしてギデオンが語った真実の重みを、仲間たちはそれぞれに受け止めようとしてくれている。


「ふん……」最初に沈黙を破ったのは、ゼイドだった。彼は、呆然とした表情から一転、何かを振り切るかのように不敵な笑みを浮かべた。「……双炎の、後継者、か。なるほどな。俺が、貴様に勝てなかったわけだ。……だが、勘違いするなよ、アッシュフォード。俺が、貴様を超えるという目標を、捨てたわけではない。むしろ、目標がより高くなっただけの話だ!」

その声には、もはや以前のような嫉妬や焦りはなく、純粋な、戦士としての挑戦の光が宿っていた。


「へっ、隊長が伝説の英雄様だろうが何だろうが、俺たちにとっちゃ、あんたは隊長だ。それ以上でも、それ以下でもありやせん」ハルが、豪快に笑い飛ばした。「俺たちは、あんたの命令に従うだけですぜ。どこへでも、ついて行きますよ」

ハルのその言葉に、リズベットやマルコたち古参兵も、力強く頷いている。


仲間たちの、その変わらぬ信頼と、そして新たな覚悟。それが、俺が失いかけていた希望を、再び心に灯してくれた。


「リオン君……」

エリアーナが、真剣な眼差しで俺を見た。彼女は、涙をこらえ、俺が先ほど語った内容を必死に整理しているようだった。そして、一つの結論にたどり着いたような表情で言った。

「あなたが話してくれた『原初の炎』……そして、師匠さんが残したという古文書。それらが全て、あの学外実習で訪れた迷霧の森の遺跡にあるというのなら……私たちが今、何をすべきなのかは、もう決まっているのではないでしょうか?」


彼女の言葉は、質問ではなく、確認だった。そして、この場にいる全員の思いを代弁するものだった。彼女は、物語の核心と、俺たちの進むべき道を指し示したのだ。


俺は、彼女のその洞察力と、揺るぎない意志に、驚きながらも静かに頷いた。

「ああ、その通りだ、エリアーナ。ギデオン、俺たちが向かうべき場所は決まった」


俺は、仲間たちに向き直り、宣言した。

「俺たちの、最初の目的地は決まった。俺たちが向かうべき場所は、西の山岳地帯にある、ただの隠れ家じゃない。もう一度、あの『迷霧の森』へ、そして、あの古代エルヴン文明の遺跡へと向かう。そこに、俺たちの戦いに必要な、全ての答えが眠っているはずだ。俺の両親のこと、師匠が本当に何をしようとしていたのか、そして、この聖炎と呪炎をより深く知るために」


俺のその決断に、ギデオンがやれやれといった様子で首を振った。

「正気か、リオン坊。あの遺跡は今頃、騎士団の連中が完全に封鎖しているはずだ。それこそ、国中のエリートが集められてな。そんな場所に、お尋ね者のてめえらがノコノコと出向くなんざ、自殺行為も同然だぜ?」


「それでも、行く」俺の決意は、揺らがなかった。「俺の力の謎を解き明かすこと。それが、ゼノン帝国が開発する非道な兵器に対抗し、そして、俺が求める真の『自由』を掴むための、唯一の道なんだ」


その言葉に、異論を唱える者はいなかった。俺の宿命が、今や、仲間たち全員の戦うべき理由ともなったのだ。


「へっ、面白え! 今度は、国中の騎士団を敵に回して、ダンジョン攻略ですかい! 最高にスリリングじゃねえですか!」

ハルが、豪快に笑う。


俺たちの、新たな、そして本当の意味での旅が、始まろうとしていた。俺は、仲間たちのその頼もしい顔を見渡し、そして、これまで感じたことのないほどの、強い決意と、そして希望を、胸に抱いていた。

両親を殺したという罪の意識は消えない。国に対する不信も。だが、すべてを背負った上で、俺は、俺にしかできない戦いを、始めなければならないのだ。

どんどん更新していきますので作品評価&ブックマークをお願いします!

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