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真実の炎

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「グオオオオオオッ!!」


理性を失い、ただの破壊の塊と化した十数体の強化兵たちが、俺一人に殺到してくる! その動きは、もはや何の技術もない、ただの力任せの突進だったが、それ故に予測が難しく、そして一撃一撃が致命的な威力を持っていた。


「上等だ」

俺は、不敵な笑みを浮かべた。

「ハル、リーザ、ゼイド、エリアーナ! お前たちは、雑魚の掃討と、子爵の身柄確保を! こいつらは、俺が引き受ける!」


「隊長!? いくらなんでも、一人でこの数を相手にするのは無茶ですぜ!」

ハルが、制止の声を上げようとするが、俺はそれを無視した。


「その紛い物の炎で……俺の領域に踏み入るな」


俺の全身から、これまでにないほど、純粋で、そして強力な深紅の炎のオーラが噴き出した! 俺の炎は、強化兵たちの不浄な炎を、まるで王が臣下を従えるかのように、その勢いを圧倒し、ねじ伏せていく。


「な、なんだ、あの炎は……!? 我々の薬とは、比べ物にならない……!」

後方で、アーノルド子爵が、恐怖に引きつった声を上げる。


俺は、双剣を構え直し、炎の獣と化した男たちへと、静かに歩を進めた。


最初の強化兵が、獣のような咆哮を上げ、炎を纏った拳を俺に叩きつけてくる。俺は、その大振りな攻撃を、最小限の動きで回避すると同時に、右手の剣を一閃させた。俺の剣に纏った深紅の炎は、強化兵の腕を、まるで熱したナイフがバターを切るように、抵抗なく切断した。


「ギャアアアッ!」

腕を失った強化兵が、苦痛の叫びを上げる。だが、その苦しみは一瞬で終わった。俺の左手の剣が、その心臓部を正確に貫き、その生命活動を完全に停止させたのだ。


「次だ」


俺は、爆裂加速で瞬時に次の標的へと移動し、同じように、その四肢を炎の剣で断ち切り、そして確実に息の根を止めていく。それは、もはや戦闘ではなく、一方的な「処刑」だった。俺は、彼らの苦しみを長引かせないように、可能な限り迅速に、そして慈悲なく、その命を絶っていった。


俺のその圧倒的な、そしてどこか悲しげな戦いぶりに、ハルたちも、そしてエリアーナとゼイドも、ただ息を呑んで見守るしかなかった。


「……行くぞ!」

最初に我に返ったのは、ゼイドだった。

「アッシュフォードは、俺たちに時間を稼いでくれているんだ! 俺たちは、俺たちの任務を果たすぞ! あのクズを捕らえる!」

彼のその言葉に、エリアーナも、ハルたちも、ハッとしたように動き出した。


「おうよ! 隊長にいいとこ全部持ってかれちまう前に、俺たちも仕事を済ませるぜ!」

ハルが、戦斧を構え直し、まだ抵抗を続けていた子爵の私兵たちへと突進していく。リーザも、その後に続く。エリアーナは、回復魔法で負傷した味方を癒しながら、的確な魔法支援でハルたちを援護する。


そして、ゼイド。彼は、雷光を纏い、一直線に、恐怖に顔を引きつらせて後ずさる、アーノルド子爵へと迫っていった。



「ひ、ひぃぃぃっ! 来るな! 俺に近づくな、化け物め!」

アーノルド子爵は、ゼイドの気迫に完全に圧倒され、腰を抜かしてその場にへたり込んだ。その姿には、もはや貴族としての威厳など、微塵も残っていない。


「……黙れ」

ゼイドは、その冷たい瞳で子爵を見下ろし、長剣の切っ先を、彼の喉元に突きつけた。

「貴様のような男がいるから、貴族全体の誇りが汚されるのだ。ヴァルガス家の名において、貴様のその腐りきった性根、叩き直してくれる!」

ゼイドの言葉には、貴族としての、そして一人の騎士としての、揺るぎない怒りが込められていた。彼は、アーノルドを気絶させると、その襟首を掴み、引きずっていく。


一方、俺と強化兵たちとの戦いも、終局を迎えようとしていた。俺の圧倒的な力の前に、強化兵たちは次々と倒れていき、残るは一人となっていた。


彼は、仲間たちが次々と屠られていく様を、理性を失った瞳で見つめながらも、その身体は、まだ闘争本能だけで動き続けている。

「グ……オオオ……!」


彼は、最後の力を振り絞るかのように、その炎のオーラを最大まで高め、俺に向かって突進してきた。


俺は、その姿を、静かに見つめていた。彼の身体は、もはや薬の副作用でボロボロだ。皮膚は焼け爛れ、筋肉は断裂し、その命が、今まさに燃え尽きようとしているのが、俺には分かった。彼は、もはや敵ではない。ただの、哀れな犠牲者だ。


俺は、双剣を構え直した。そして、突進してくる彼と交差する、その一瞬。

俺の右手の剣は、彼の心臓部を正確に貫き、そして、左手の剣からは、これまで隠してきた、白銀の聖炎を、ごくわずかに放出した。


「……!?」


聖炎の穏やかな光が、彼の身体を内側から包み込む。彼の身体を焼いていた、不浄な深紅の炎が、まるで浄化されるかのように、すっと消えていく。彼の顔から、獣のような苦悶の表情が消え、代わりに、ほんの一瞬だけ、人間の、穏やかな表情が戻ったような気がした。そして、彼は、ただ静かに、灰となって崩れ落ちていった。


「……安らかに眠れ」

俺は、誰に言うともなく、そう呟いた。


広間には、再び静寂が訪れた。俺は、ゆっくりと双剣を下ろし、その切っ先から滴り落ちる、黒い血を見つめていた。


「リオン君……」

いつの間にか、エリアーナが俺のそばに来ていた。その瞳には、俺の戦いぶりに対する畏怖と、そして、俺が抱えるであろう悲しみに対する、深い同情の色が浮かんでいた。


「……終わったな」

俺は、彼女に、力なく微笑みかけた。



アーノルド子爵を拘束し、彼の私兵たちも全て無力化したことで、エルトリアにおける俺たちの任務は、事実上、完了した。ハルたちが、捕らえた兵士たちの身柄を確保し、リズベットとエリアーナは、負傷者の手当てに追われている。ゼイドは、気絶したアーノルド子爵を、忌々しげな表情で見下ろしていた。


俺は、部隊のメンバーに、戦後処理を指示すると、一人、屋敷の屋上へと向かった。東の空が、ゆっくりと白み始めている。夜明けが、近い。


俺は、この街を見下ろしながら、深く息をついた。俺たちは、勝利した。ヴァルトール伯爵の裏切りを示す、決定的な証拠も手に入れた。だが、俺の心は、晴れるどころか、むしろ、さらに重い霧に覆われているかのようだった。


俺の力の紛い物によって、理性を失い、そして死んでいった兵士たち。彼らもまた、誰かの息子であり、夫であり、父親だったのかもしれない。彼らを、あんな化け物に変えてしまったのは、アーノルドやヴァルトールのような、権力者たちの飽くなき欲望だ。


(……俺が戦うべき本当の敵は、ゼノン帝国でも、山岳民族でもないのかもしれないな)


俺の中で、一つの思いが、確かな形を取り始めていた。国というシステムそのものが、腐敗し、人々を不幸にしているのなら、俺が守るべきは、そのシステムではない。システムの中で苦しむ、名もなき人々、一人一人の自由と、尊厳だ。


そのためならば、俺は、この国そのものを敵に回すことも、厭わない。


「……リオン君」


不意に、背後からエリアーナの声がした。彼女は、俺の隣に立つと、同じように、白み始めた空を眺めた。

「……終わったのね」

「ああ、ひとまずはな」


「……あの、最後にあの人に見せた、白い光は……?」

彼女は、俺が最後に使った、聖炎のことに気づいていたのだ。


「……さあな。俺にも、よく分からん」

俺は、とぼけてみせた。まだ、彼女に全てを話す時ではない。


「……そうですか」エリアーナは、それ以上は追求せず、ただ、静かに俺の隣に立っていた。「……でも、あなたの炎は、ただ破壊するだけの、怖い炎じゃないんですね。私、そう信じています」

その言葉は、俺の荒んだ心に、温かく染み渡った。


「……どうだろうな」

俺は、そう言って、力なく笑った。


夜が明け、新しい一日が始まろうとしている。

どんどん更新していきますので作品評価&ブックマークをお願いします!

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