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子爵の悪あがき、偽りの炎

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高炉と港の第七倉庫を完全に制圧し、ヴァルトール伯爵とアーノルド子爵の裏切りを示す動かぬ証拠を掴んだ俺たちは、夜明けと共に拠点である古い兵舎へと帰還した。

救出された労働者たちは、リズベットとエリアーナによって応急処置が施され、衰弱しきってはいるものの、全員の命に別状はなかった。


作戦室に集まった俺たち主要メンバーの間には、疲労と、そしてこの国の深い闇を目の当たりにしたことによる、重苦しい空気が流れていた。


「隊長、どうしますかい? これだけの証拠が揃ったんだ。すぐにでも首都に戻って、団長閣下に報告すべきでは?」

ハルが、低い声で尋ねる。


俺は、首を横に振った。

「いや、それでは遅すぎる。俺たちが首都に戻る頃には、ヴァルトール伯爵は既にアーノルドを切り捨て、全ての証拠を揉み消しているだろう。あの老獪な狸親父なら、やりかねん」


「しかし、隊長……さすがに子爵閣下を拘束するとなりますと、俺たちの権限では……」

ハルの懸念はもっともだった。通常であれば、それは明らかな越権行為であり、反逆と見なされてもおかしくない。


だが、俺は静かに告げた。

「ドレイク団長からの許可は得ている。俺が閣下と交わした会話の中で、子爵が黒であると確定した場合、その身柄を拘束することもやむなし、との言質は取れている。これは、俺の独断ではない。騎士団の正式な任務だ」


俺のその言葉に、ハルたちは驚きながらも、納得したように頷いた。彼らは、俺がドレイクと特別な関係それがどのようなものであれにあることを理解している。

「へっ、そういうことなら話は早えや。あのクソ貴族のふてぶてしいツラを、ひっぱたいてやるのが楽しみですぜ!」


「よし、全部隊、準備しろ! これより、アーノルド子爵の屋敷を包囲し、奴を捕らえる!」

俺の号令一下、特務遊撃部隊は、最後の戦いに向けて、その士気を高めていった。



アーノルド子爵の屋敷は、新市街の中でもひときわ豪奢で、そして悪趣味な建物だった。


俺は、ハル、エリアーナ、ゼイド、そして数名の精鋭を伴い、屋敷の正面ゲートへと堂々と進み出る。

「開門しろ! アルクス王国騎士団、特務遊撃部隊隊長、リオン・アッシュフォード少佐だ! 統治責任者であるアーノルド子爵に、緊急の要件がある!」


門衛の兵士たちは、俺たちの突然の来訪と、そのただならぬ気配に狼狽したが、俺の階級と名を聞き、慌てて屋敷の中へと連絡を取りに走っていった。


数分後。屋敷の扉が開き、現れたのは、寝間着姿のまま、不機嫌そうな顔を浮かべたアーノルド子爵本人だった。

「何の騒ぎだ、アッシュフォード少佐。早朝から、礼儀も知らんのかね?」


「単刀直入に言おう、アーノルド子爵」俺は、冷徹に言い放った。「貴様を、国家への反逆罪の容疑で拘束する」


その言葉に、子爵は一瞬だけ顔を引きつらせたが、すぐに腹を抱えて大笑いし始めた。

「はっ、はっはっは! 反逆罪だと? この私が? 馬鹿も休み休み言え、平民上がりの小僧が! 私の後ろには、誰がついていると思っているのだ!」


「ヴァルトール伯爵、か? 残念だったな。その伯爵が、お前の裏切り行為に直接関与しているという証拠も、全て挙がっている」

俺は、ハルに合図を送り、高炉の現場責任者の男と、港で押収した証拠物件の一部を、子爵の前に突き出した。


「なっ……! ば、馬鹿な……! 私の計画が、なぜ……!」

アーノルドは、狼狽し、顔面蒼白になっている。


「リーザ、マルコ。そいつを捕らえろ」

俺の命令に、後方に控えていたリーザとマルコが、子爵に歩み寄る。


「や、やめろ! 私に触るな、下賤の者どもが! 私を誰だと思っている!」

アーノルドは、ヒステリックに叫び、後ずさった。そして、彼は、最後の悪あがきとばかりに、懐から数本の、あの禍々しい紫色の薬瓶を取り出した!


「こうなれば、やむを得ん……!」彼は、屋敷の中から駆けつけてきた自身の私兵たちに向かって、その薬瓶を投げつけた。「飲め! そして、こいつらを皆殺しにしろ! そうすれば、我々の罪も消える!」


私兵たちは、一瞬ためらったが、子爵の狂気に満ちた命令に逆らうことはできず、その薬瓶を手に取り、中身を一気に呷った!


「「「グゥゥゥゥアアアアアアアアアッッ!!」」」


人間とは思えないような絶叫を上げ、彼らの身体が異常に膨張し、その全身から、不浄な深紅の炎が噴き出し始めた!


「なっ……!? こいつら……!」

エリアーナとゼイドが、息を呑む。


俺は、双剣を抜き放ち、その刃に、俺自身の、本物の深紅の炎を激しく燃え上がらせた。

「全員、戦闘準備! あの薬に飲まれた哀れな兵士たちを、これ以上苦しませるな。 一体残らず、制圧するぞ!」


「グオオオオオオッ!!」


理性を失い、ただの破壊の塊と化した十数体の強化兵たちが、俺たちに向かって殺到してきた! その動きは、もはや何の技術もない、ただの力任せの突進だったが、それ故に予測が難しく、そして一撃一撃が致命的な威力を持っていた。


「ハッ! やれるもんならやってみやがれ、てめえら!」

ハルが、巨大な戦斧を構え、獣のような咆哮を上げる。リーザも、タワーシールドを構え、俺たちの前に立ちはだかる。ゼイドとエリアーナも、それぞれの武器を手に、覚悟を決めた表情で俺の隣に並んだ。


「行くぞ!」

俺の号令と共に、特務遊撃部隊と、アーノルド子爵の私兵たちとの、激しい戦闘が始まった。


「はあっ!」

ゼイドが、雷光を纏った剣で、強化兵の一体に斬りかかる。だが、彼の渾身の一撃は、敵の纏う禍々しい炎のオーラによって威力を殺され、その分厚い筋肉に浅い傷をつけることしかできない。

「なっ……! 俺の雷が……効かないだと!?」


「ゼイド、下がりなさい!」

エリアーナが、水の障壁を展開し、ゼイドを庇う。だが、強化兵の炎を纏った拳の一撃が、その障壁をいとも簡単に打ち砕く!

「きゃっ!」


「エリアーナ!」


俺は、爆裂加速で瞬時に二人の間に割り込み、強化兵の拳を、炎を纏った双剣で受け止めた。

「……お前たちの相手は、俺だ」


俺のその言葉に、強化兵たちの赤い瞳が、一斉に俺に向けられた。彼らの本能が、俺から放たれる”本物”の深紅の炎の魔力を感じ取り、俺こそが最大の敵であると認識したのだろう。


「グオオオオッ!」

強化兵たちが、他のメンバーには目もくれず、俺一人に殺到してくる。


「……上等だ」

俺は、不敵な笑みを浮かべた。

「ハル、リーザ、ゼイド、エリアーナ! お前たちは、雑魚の掃討と、子爵の身柄確保を! こいつらは、俺が引き受ける!」


「隊長!?」

ハルが、制止の声を上げようとするが、俺はそれを無視した。


「その紛い物の炎で……俺の領域に踏み入るな」


俺の全身から、これまでにないほど、純粋で、そして強力な深紅の炎のオーラが、奔流となって噴き出した! 俺の炎は、強化兵たちの不浄な炎を、まるで王が臣下を従えるかのように、その勢いを圧倒し、ねじ伏せていく。


「な、なんだ、あの炎は……!? 我々の薬とは、比べ物にならない……!」

後方で、アーノルド子爵が、恐怖に引きつった声を上げる。


俺は、双剣を構え直し、炎の獣と化した男たちへと、静かに歩を進めた。

「……お前たちのその苦しみも、俺が終わらせてやる」


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