作戦決行の夜
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俺が天井を蹴破り、オフィスへと突入したのは、現場責任者の男が通信魔道具を置いた、まさにその瞬間だった。
ドガァァン!
凄まじい破壊音と共に、天井の建材と土埃が部屋中に降り注ぐ。男は、突然の襲撃に何が起こったのか理解できず、驚愕の表情で俺を見上げていた。
「な、何者だ、貴様は……!?」
俺は、彼のその問いには答えず、着地の勢いを殺さずに、一瞬で彼との間合いを詰めた。そして、革手袋をはめた右の拳を、彼の鳩尾に的確に叩き込む。
「ぐっ……は……!」
男は、短い悲鳴を上げる間もなく、その場で崩れ落ち、意識を失った。俺は、彼が他の場所に警報を発する前に、完全に無力化することに成功した。
「……まずは、一人」
俺は、気絶した男を素早く拘束すると、通信魔道具で部隊全体に短い指示を送った。
『――ハル、聞こえるか。予定通り、港の第七倉庫の制圧を開始しろ。こちらは、今から高炉の制圧に入る』
『了解! こちらも今から、派手な花火を打ち上げますぜ!』
ハルの、頼もしい声が返ってくる。
俺は、オフィスの扉を開け、階下の作業場へと視線を向けた。俺が指揮官を制圧したのとほぼ同時に、マルコが、あらかじめ仕掛けておいた発煙魔道具を作動させていた。作業場には、一瞬にして視界を奪うほどの濃い煙が充満し、監視役の兵士たちが混乱している。
「何だ、この煙は!?」
「敵襲か! どこからだ!」
「エリアーナ、リズベット、今だ! 労働者たちの救護を!」
俺の指示に、外で待機していた二人が、建物の入り口から突入してくる。エリアーナは、水の魔法で即席の防壁を作り、労働者たちを監視役の兵士たちから隔離する。リズベットは、有毒な煙を中和するための魔法を展開しながら、衰弱した労働者たちに駆け寄っていく。
「マルコ! 監視役を無力化しろ!」
「お任せを!」
煙の中から、マルコの二本の短剣が、まるで闇夜の牙のように煌めいた。彼は、混乱する兵士たちの背後や死角から音もなく現れ、その急所を的確に打ち、次々と戦闘不能にしていく。その動きには、一切の躊躇も、無駄もない。
残った数名の兵士が、俺の存在に気づき、武器を構えて襲いかかってきた。
「てめえがやったのか!」
「ああ、そうだ」
俺は、双剣を抜き放ち、その刃に深紅の炎を纏わせた。「お前たちは、ここで終わりだ」
俺の炎の剣が閃くたびに、兵士たちは悲鳴を上げる間もなく、その場に崩れ落ちていく。
数分後。高炉の中には、俺たち特務遊撃部隊のメンバー以外、立っている者は誰もいなかった。
「……リズベット、労働者たちの状態は?」
俺は、リズベットに尋ねた。
「ひどいわ……。長期間、有毒な煙を吸い続けたせいで、肺も、魔力回路も、かなり蝕まれている。すぐにでも、本格的な治療が必要よ」
彼女は、苦々しげな表情で答えた。
「そうか……。エリアーナ、リズベット、治療を続けてくれ。マルコ、捕らえた兵士たちを拘束し、尋問の準備を。特に、あの指揮官からは、ヴァルトール伯爵に関する全てを吐かせるぞ」
俺が指示を出していると、通信魔道具から、ハルの威勢のいい声が聞こえてきた。
『こちらハル! 隊長、港の第七倉庫、および、謎の港湾警備隊の制圧、完了しました! 木箱の中身も確認。間違いなく、例の『白い灰』ですぜ!』
「よくやった、ハル。こちらも、高炉の制圧は完了した。……これで、証拠は揃ったな」
貴族たちの証言、高炉での非人道的な労働実態、そして港での密輸の現物証拠。この三つを揃えれば、ヴァルトール伯爵も、そしてドレイク騎士団長も、もはや言い逃れはできないだろう。
俺は、高炉の外に出た。東の空が、わずかに白み始めている。夜明けは、近い。
だが、ここからが本当の始まりだ。市民を食い物にして私腹を肥やす者たちを、俺は、決して許さない。
俺は、夜明け前の、冷たい空気を吸い込みながら、新たな決意を胸に刻みつけていた。
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