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交錯する思惑と十字路の対決

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エリアーナ・クレスウェルのチームと合流し、俺たちは総勢八人という、やや大所帯で模擬ダンジョンの探索を再開することになった。人数が増えたことによるメリットは確かにある。単純な戦力が増強されただけでなく、索敵や罠の発見、あるいは魔物との戦闘においても、役割分担が可能になり、効率は格段に上がった。それに、マイルズ先輩やティナのような、やや頼りないメンバーにとっては、エリアーナチームの存在は精神的な支えにもなっているようだった。

特に、エリアーナチームのリーダーであるアルフォンス・フォン・ベルンシュタイン。彼は、騎士科の三年生で、ゼイドと同じく有力貴族の出身らしいが、ゼイドのような傲慢さはなく、むしろ実直で正義感の強い、絵に描いたような優等生タイプだ。金髪碧眼の整った容姿も相まって、女子生徒からの人気も高いと聞く。彼は、リーダーとして常に冷静沈着に振る舞い、俺たち「四葉班」のメンバーにも公平に接してくれている。


だが、俺にとっては、メリットよりもデメリットの方が大きいように感じられた。まず、単純に気を遣う相手が増えた。何より、エリアーナ自身の存在だ。彼女は、合流してからというもの、何かと俺の近くにいることが多くなった。積極的に話しかけてくるわけではないが、時折、俺の様子を窺うような視線を送ってくる。俺は、彼女の視線を感じるたびに、内心で居心地の悪さを覚えながらも、平静を装い、距離を保ち続けるしかなかった。


そんな、表面上は協力しつつも、水面下では様々な思惑や感情が交錯する、奇妙な緊張感をはらんだ状態で、俺たちはダンジョンの通路を進んでいった。いくつかの小部屋を抜け、簡単な罠を解除し、数体の模擬魔物を連携して倒しながら、俺たちは比較的順調に次のチェックポイントを目指していた。連携は、アルフォンスの的確な指示と、各メンバーの能力(ティナの時折暴発する魔法を除けば)によって、それなりに機能していた。俺は、相変わらず最後尾で、目立たないように立ち回りながらも、常に周囲への警戒は怠らなかった。


どれくらい進んだだろうか。俺たちは、やがて、かなり開けた空間へとたどり着いた。そこは、いくつかの通路が交差する、十字路のような広場になっていた。天井は高く、壁には古代文字のようなものが刻まれており、荘厳な雰囲気が漂っている。おそらく、このダンジョンの中でも、重要な地点の一つなのだろう。


「ここが、地図にあった大十字路か。ここを抜ければ、第二チェックポイントも近いはずだ」


アルフォンスが、地図を確認しながら言った。他のメンバーも、少し安堵したような表情を浮かべている。


だが、その安堵は、すぐに打ち砕かれた。広場の反対側の通路から、騒々しい声と共に、複数の人影が現れたのだ。その中心にいる人物を見て、俺は思わず眉を顰めた。ゼイド・フォン・ヴァルガスとその取り巻きたちだ。彼らは、どうやら俺たちよりも先行していたらしい。その顔には、自信と傲慢さが満ち溢れていた。


「よう、こんなところで会うとはな。ずいぶんとノロノロしているじゃねえか、落ちこぼれ共」


ゼイドは、俺たちの存在に気づくと、わざとらしく足を止め、嘲るような視線を向けてきた。彼の後ろには、屈強な騎士科の生徒ばかりで構成された、いかにも戦闘向きといったチームメンバーが控えている。


「ゼイド・フォン・ヴァルガス……!」


アルフォンスが、ゼイドの名を呼び、眉根を寄せた。彼とゼイドは、同じ貴族出身ということもあり、以前から何かと対立することが多かったのかもしれない。


ゼイドは、アルフォンスを一瞥したが、すぐに興味を失ったように、その視線を俺と、そして俺の近くにいるエリアーナへと移した。彼の目に、嫉妬と怒りの炎が燃え上がるのが、はっきりと見えた。


「……ほう? これは驚いた。エリアーナ嬢、君ほどの淑女が、なぜ、こんな雑魚どもと一緒にいるんだ? まさか、そこの薄汚い平民に、何か弱みでも握られたのか?」


ゼイドは、下卑た笑みを浮かべながら、俺を指差して言った。その言葉に、エリアーナはカッと顔を赤らめた。


「なっ……! 無礼なことを言わないで、ゼイド様! リオン君は、私たちの仲間です!」


「仲間、だと? 笑わせるな! こいつは、訓練場でまぐれ当たりを起こしただけの、ただの幸運な雑魚だ! それにしても、お前ら、まだこんなところで油を売っていたのか?」


ゼイドは、侮蔑的な視線で俺たち全員を見回した。


「俺たちはとっくにこの先のエリアを探索し終えて、戻ってきたところだというのに。お前らときたら、一体どれだけ時間を無駄にしているんだ? まさか、簡単な罠にでも引っかかって、進めなくなっていたんじゃあるまいな? それとも、そこのエリアーナ嬢やベルンシュタインの足を引っ張っていたか? 全く、使えない奴らだぜ! ハッ!」


ゼイドは、そう言い放つと、俺たちに背を向け、広場の先にある、最も広く、そして一見安全そうな通路を指差した。


「悪いが、この先、安全そうな道は俺たちが使わせてもらう。お前らは、そっちの、いかにも陰気で危険そうな通路でも進むんだな! ハーッはっは!」


彼は、高笑いを響かせながら、取り巻きたちと共に、その通路を塞ぐように陣取った。あからさまな嫌がらせだ。アルフォンスや、俺たちのチームのマイルズ先輩は、怒りに顔を歪めている。ティナは、怯えたように後ずさっている。


俺は、密かに周囲の魔力の流れを探った。師匠から叩き込まれた感知技術は、ダンジョン内の微細な魔力の淀みや不自然なパターンを捉えることができる。そして、俺の感覚は、ゼイドたちが塞いでいる、一見安全そうな通路の先に、巧妙に隠された複数の罠の気配を明確に捉えていた。床に仕掛けられた広範囲の感圧式プレートと、それが作動した際に壁の両側から高速で射出される物理的な矢、そしておそらく麻痺効果のあるガス。かなり悪質な複合罠だ。ゼイドたちのチーム構成では、これを見抜いて回避するのは難しいだろう。一方で、俺たちが押し付けられそうになっている別の通路は、確かに雰囲気は悪いが、感知する限りでは、こちらの方が罠の数は少ない、あるいは構造が単純なものが多いようだ。


……なるほど。利用できるな。ゼイドのその性格と、あの通路の罠を。


俺は、内心でほくそ笑みながらも、表情には出さず、一歩前に出ると、わざと挑発的な笑みを浮かべて、ゼイドに話しかけた。


「……へえ、ずいぶんと自信満々じゃないか、ヴァルガス。だが、本当にその通路が安全だと、どうして言い切れるんだ?」


「あぁ? 何を言ってるんだ、貴様?」


ゼイドは、俺の予期せぬ反論に、怪訝な顔をした。


「いや、何しろ、君は『運が良い』だけかもしれないからな。もしかしたら、その通路にこそ、とんでもない罠が仕掛けられていて、君たちはそれに気づかずに、まんまと引っかかりに行くところなんじゃないか、って思っただけさ」


俺の言葉に、ゼイドの顔がみるみる赤く染まっていく。彼のプライドを、真正面から刺激したのだ。しかも、それは俺が感知した「事実」に基づいている。


「な、なんだと、貴様……! この俺が、罠に気づかないだと!? ふざけるな!」


「ふざけてなんかいないさ。だって、君たちのチームは、力押しは得意そうだけど、細かい罠の発見とか、そういうのは苦手そうだろ? それに比べて、俺たちのチームには、エリアーナさんや、ティナさんみたいに、魔法的な感知能力に優れたメンバーがいる(と、俺は適当に言ってみる)。もしかしたら、俺たちが、君たちが見落としている危険を、先に察知しているかもしれないぜ?」


俺は、ティナが「偶然」罠を発見することが多かったという事実を、都合よく利用しつつ、自分自身の感知能力を隠しながら、彼らを揺さぶった。


「ぐ……! き、貴様、何を偉そうに……!」


ゼイドは、怒りに声を震わせている。彼の取り巻きたちも、俺を睨みつけているが、俺の妙に自信ありげな態度に、わずかな不安を感じているようにも見えた。


「まあ、信じるか信じないかは、君次第だけどな。俺たちは、念のため、こっちの通路を調べてみるよ。もし、君たちが罠にかかって助けが必要になったら、遠慮なく呼んでくれよ? ……もっとも、その頃には、手遅れかもしれないけどな」


俺は、わざとらしく肩をすくめ、ゼイドたちが塞いでいない、別の通路(俺が比較的安全だと判断した方)を指差した。


俺の挑発は、効果てきめんだったようだ。ゼイドは、俺への怒りと、そして、もしかしたら本当に罠があるのかもしれないという僅かな疑念の間で、葛藤しているように見えた。だが、彼の高いプライドが、引き返すことを許さない。


「……ちっ! 貴様らなんかの助けがいるか! いいだろう、見てろ! この通路が安全だってことを、俺たちが証明してやる!」


ゼイドは、そう吐き捨てると、取り巻きたちを引き連れて、彼らが選んだ通路へと、足早に進んでいった。その背中には、俺の言葉を振り払おうとするかのような、意地と焦りが見て取れた。


「……行ったか」


アルフォンスが、溜息をつきながら呟いた。


「リオン君、君の機転のおかげだ。助かったよ」


マイルズ先輩が、感心したように言った。ティナも、尊敬の眼差しを俺に向けている。


「……本当に、あの通路には罠が?」


エリアーナが、俺に問いかけてきた。彼女は、俺がゼイドを騙したことには気づいているようだった。


「……さあな。ただの、ハッタリかもしれない。でもむかつくからな。不安を煽ってやっただけさ。」


俺は、曖昧に答えた。

「……あなたは、本当に不思議な人ね」


エリアーナは、そう言って、小さく微笑んだ。その表情には、呆れと、感心が混じっていた。


俺たちは、ゼイドたちが去った後、俺が指差した通路へと進むことにした。アルフォンスも、俺の判断を信じてくれたようだった。


通路を進み始めると、すぐに、先ほどゼイドたちが進んでいった通路の方から、大きな爆発音と、いくつかの叫び声が聞こえてきた。


「うわあっ!」

「罠だ! くそっ、あの平民め、謀りやがったな!」


どうやら、俺の見立て通りだったらしい。あるいは、ゼイドたちが焦って進んだせいで、本来なら避けられたはずの罠に、わざわざ引っかかったのかもしれない。いずれにせよ、これでしばらくは、彼らに追いつかれる心配はないだろう。


俺は、内心でほくそ笑みながらも、表情には出さなかった。ゼイドの妨害は回避できた。

(これで平穏に次に進めそうだ。)


俺は、最後まで自分を偽り通すことができるのだろうか。


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