最終話 リリーナ・フォン・シュバインフルトの結婚
無事にシュバインフルト家のタウンハウスに戻り、クラウドはじめ使用人一同は、わたしの無事を喜んでくれた。
クラウドとフリッツの二人は、シュバインフルト伯爵家が王家に対しての食料品値上げの強権発動を行使しなかったという安心感があったから余計に喜んでいたのだろう。
そしてなによりも一番喜んだのは……。
「わたし、結婚することになった」
って一言よ。
タウンハウス内はもう大歓喜。
カミラは料理長に祝いの食事をとか、婚約までのスケジュールを立てましょうとフリッツとクラウドが意気込んだり、メイドちゃんズは『シュピラーレ』のマダムを呼んで、婚約式と結婚式のドレスを! とかもう収拾がつかない状態。
反対されるよりはいいんだけど、君たち、相手が誰とか全然わたしに尋ねないのは何故なのか。
「あーよかった。まとまって……アーベラインの父上が海軍とバッチバチににらみ合いしてたから、王家も気を揉んで義姉上を王城に招聘したんでしょ、国王陛下に拝謁した?」
王城の招待から数日後、義弟のクリストフとマリアンナがシュバインフルトのタウンハウスにやってきたとき、そう言った。
「先王陛下には拝謁したけど、何それ」
「あのさ、クレアール公爵が義姉上に結婚を申し込む前に、実父のアーベライン子爵に何も言わないで進めるわけないでしょ。ちゃんと会って打診してたらしいよ、グルトライド海域のどこかで」
……レオナルト様、実父に打診してたのか。
というと社交シーズン前に会っていた……この二人の結婚式前か?
普通は当主に打診するけど、ほら、先代はすでに亡くなってたし……だからって実父は子爵なのに、そして本人、常に海上にいるからつかまりにくいのに。
よく捕まえたわね。
「それなのに、リリーナ義姉上からなんの連絡もなくて、気になるなら海にいないで陸に上がってくればいいのに。臣籍降下したとはいえ、王家の末っ子、グルトライド王家はどう思ってるのか気になってたところに、海軍が『たかが子爵家、せこせこ海運業をとりまわしてるだけのくせに、ほんと身の程わきまえろ』とか言っちゃったもんだから……」
「海上ルートに異変が起きるな」
実父は軍事物資も取り扱ってるからな。
海軍への物資流通をほんの少し止めるのはわけもないか。
「海軍のえらーい人が謝っても、アーベライン子爵は引かなかったらしくてね王家に泣きついたんだよ、王家の末の王弟殿下は、シュバインフルト伯爵とどうなってるのって」
「まあ、わたしも似たようなことを用意していたからな……」
「はあ?」
「だって、王家が進めていたレオナルト様の再婚話を壊したようなものだろう? 王家が怒ってこの首をとるかと思ったし」
クリストフは「似たもの親子……」とかぶつぶつ呟いている。
そんなクリストフの横でマリアンナがキラキラした瞳でわたしを見ている。
「そ、それで、婚約式はいつになりますの?」
「今期の社交シーズンの最後かな。結婚は来年の社交シーズンの最初」
結婚しようとしても、一年。
この異世界貴族社会、時間がめちゃくちゃかかるのよ。
それでも、これはわたしとレオナルト様の立場なら、「めっちゃスピード婚じゃね?」とか言われてしまうぐらいのスケジュールなの。
結婚後領地はどうなるかとの問題だってある。
社交シーズンは王都、シーズン終了したらシュバインフルト伯爵領。
レオナルト様は領地は持たないけど、外交政務を受けてるから……シーズン後には
シュバインフルト領に一緒に行き、外交業務は河川を使い海上から行く。(絶対速いし)
なので。
領民達は「えええ~王弟殿下と結婚するなら、館、新しく建てなくちゃダメじゃん!」とかなって、現在領地では建設予定地を選別中。
レオナルト様もわたしも、新築の館の設計図を見て、あれこれと相談中。
ね、こういうことなのよ。
「それで、義姉上、爵位はどうなるの? クレアール公爵預かりになるの?」
「持ったままでいいそうよ。子供が生まれたら譲渡する」
そこらへんはレオナルト様といろいろ話し合った。
「じゃあもう、最低二人は欲しいよね、今から頑張ろうか」
なんてレオナルト様がふざけて言ったものだから、わたしは慌てて、ウェディングドレスは着たいので! と返した。
だって、一応なんだかんだいっても、初めてウェディングドレス着るんだから。
そうそう、ウェディングドレスといえば……。
「マリアンナ、このあと、『シュピラーレ』のマダムがくるから、一緒にドレスを仕立てない?」
「え!?」
「そのために呼んだんだよ」
「え!?」
マリアンナはいいのかしらとクリストフを見ると、クリストフはうんうんと頷いてる。
「いいんだよ、リリーナ義姉上の結婚式に招待されるんだから、今のうちに仕立ててもらいなさい」
「え、え、でも!」
「遠慮しなくてもいいよ、マリアンナは可愛がられてるから」
「ええ~!!」
マリアンナは両手で頬を抑えてる。可愛いな。
クソ生意気な義弟だけど、この子をわたしの義妹にした功績は褒めてやる。
「クリストフは、宝石商を呼んであるから、マリアンナに似合いそうなアクセサリーでも選んでやれ」
「それも奢りなの? 太っ腹~」
「お前の分は自腹で揃えろ」
「けちけちけち~!」
「じゃあ、リリーナの義弟には俺から用意するかな?」
ドアを開けて入ってきたのはレオナルト様だ。
クリストフはぎょっとする。
「花嫁のドレスの仕立てなんだから、レオナルト様は来ます」
わたしがそう言うと、クリストフはぱくぱくと金魚のように口を開ける。
ふふん。してやったり。でも、お前、人を指さすのはやめろ。
「ご当主様! 『シュピラーレ』のマダムが見えました!」
その声を聞いて、マリアンナをエスコートしてドレスルームへとわたしは歩き出す。
結婚式の準備は一年というけれど、その一年はあっという間に過ぎ去って、王都の大聖堂でわたしはレオナルト様と挙式をした。
出席親族が王族。
高位貴族も公爵家は出席、シュバインフルトの傍系達もそうだけど、実父アーベライン子爵も、海から陸に上がって、花嫁の父をやってくれた。
高位貴族も下位貴族も、出席者だけでもかなりの人数。
この招待客を収容できるのは、グルトライト王国の大聖堂以外にはなかった。
そりゃもう厳かな結婚式よ。
誓いの言葉は。
――貴方に永遠なる献身と忠誠と――……変わらぬ愛を。
お願いだから、夢なら覚めないでほしいなと思いながら、わたしは元王子様の唇にキスをした。
先代伯爵の、お爺様の言葉を思い出す。
――結婚は愛する者としなさい……。
お爺様、わたし、愛する人と結婚しましたよ。
フラワーシャワーを浴びながら、レオナルト様を見上げる。
挙式が終わった瞬間、レオナルト様はわたしを子供のように高く抱き上げる。
すごいなウェディングドレスって重いのに。
「リリーナ。愛してる」
わたしはその後、彼と、たくさんの子供達に囲まれることになるのだった。
はい、本日新作これにてオールアップです☆
お付き合いありがとうございました!
初めて試したよ~新作40話を即日公開っていうの。
もう二度としない……orz
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