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第38話 リリーナ様。王城に招かれる。

 


 グルーグハルト公爵と勅使を送り出すと、クラウドとフリッツを執務室に呼び出した。


「王城に行くことになった、王妃殿下からのお茶会の招待ではあるが、ただのお茶会とは違うだろう」


 そう、普通なら、王妃殿下のお茶会の誘いは光栄なことだが、これは王家とグルーグハルト公爵が水面下で進めていたレオナルト様の縁談をおしゃかにしたわたしに釘を刺すのが目的に違いない。


「まあ、やらかしたからな。よくて厳重注意、最悪わたしの爵位剥奪もありえるだろう」

「そんな!」

「まさか!」


 クラウドとフリッツは顔を見合わせている。


「王家と公爵家が水面下で推し進めていたレオナルト様の縁談をぶち壊したのだから、わたしの存在はよろしくない。そしてその場合わたしがこのシュバインフルト伯爵家のタウンハウスに戻ることはない――可能性もある」


「レオナルト様が、リリーナ様にパートナーになって欲しいと自ら申し込まれたのにですか!?」


 レオナルト様の希望が受け入れられない状況かもしれない。

 一度は国の為に結婚したにも拘わらず。


「元王族というのは不自由だな。無理矢理組まれる縁談を断ることもできないなんて、貴族令嬢と変わらないようだ」


 あまりにも不憫すぎる。

 政略の為と心に決めた初婚も、この二人には伝えられない顛末で終わった方だ。

 今後もそういうことはあるだろう。


 わたしがやったことで、王家の怒りを買ったなら、幽閉とか修道院送りとか、国外追放とか、そういう可能性もあるし、毒杯を賜るか斬首かというパターンもなきにしもあらず。


 ……悪役令嬢断罪コースのオンパレード、どれか選びなさいと言われてるようなものだな。


 実際、魅了スキルで世間を騒がせた平民娘じゃなく、由緒正しい公爵家の妖精姫との婚姻を邪魔したのだからそういう結果も出てくるだろう。

 ただでさえ悪い意味合いの社交デビューを果たした女だし、まさに悪役令嬢ポジションだ。

 っていうか、他にこんな汚名をかぶってる女どこにいる。


「本当に、わたしの代でシュバインフルト伯爵家が終わってしまうのは、お前たちを含め、一族の者には謝っても謝り切れない。お前たちに報いてやれないわたしを赦してほしい」


「ご当主様!」


「もし、わたしが戻らなかったら、この書類をシュバインフルト家の息がかかってる商会全部に通達しろ、王家へ卸す食品は今より5倍跳ね上がるようにしておいた。当主が私情で行うから咎はわたし一人のものだ。その際、お前たちは知らぬ存ぜぬを通せ。王家がシュバインフルト伯爵の爵位を取り上げても、数日はこの状態になるはずだ」


 ――あの人の、自由と幸せを。


「わたしはレオナルト様をお守りしたい」


 狂気のような忠誠と献身なんて言われたけど、そんな高尚なものじゃない。

 ただ楽しかった。

 普通の貴族の令嬢として扱われることが嬉しかった。

 プロポーズも嬉しかったし、パートナーとしておそばにいて、夜会やデートも楽しかった。

 ちょろいからな。

 簡単なんだよ、ただ好きって言ってくれれば誰だってよかった。

 だからベンジャミンにつけ込まれたのよね。


 でもレオナルト様とベンジャミンは明らかに違う。


 レオナルト様はわたしに、何を求めるものもなく、ただ傍にいて笑顔を見せてくれただけだった。わたしと一緒にいて楽しいと思ってくれてるようだった。

 それだけで、わたしも毎日がすごく楽しかった。

 本当に単純だけど、それだけで充分なのよ。

 好きな人が幸せになるなら、その為ならなんだってする。



 指定された日に、『シュピラーレ』が作ったドレスを装い、王城へ参じた。

 本当に王妃殿下に招かれた一貴族という感じで、庭園に案内されていく。

 プライベートな庭園にガーデンテーブルとチェアが設置されている。

 案内の侍女に椅子を薦められるが、招待された王妃殿下がまだ現れないのだから、わたしはそれを辞した。

 植栽されている花や灌木を観察し、王城の外観を見ていたりで、招待主が訪れるのを待つ。

 ほどなくして、訪れたのは、王妃殿下ではなかった。



「待たせたかの?」


 そんなお声かけにもカーテシーで無言を貫きとおす。


「楽にしなさい」


 前回の夜会のように長々としたカーテシーをしようとしていたわたしに、声を掛けたのは先王陛下だった。


「アーデルハイドの名前を借りて、呼び出したのは私だ。まあ座りなさい」

「御意」


 先王陛下に薦められてようやく着席する。

 アーデルハイドとは現王妃殿下のお名前。

 なるほど、先のグルーグハルト公爵への打診は先王陛下からのお話だったのか……。

 実の父親が息子の再婚を気にするのは当然よね。


「レオナルトに薦めていた再婚だが、グルーグハルト公爵から辞退があった。卿に先妻と似ている娘との再婚は不幸にしかならないと言われてね」

「御意、そのように進言いたしました」

「レオナルトの先の結婚の話は聞いているか?」

「クレアール公爵ご本人様から伺っております」

「ふむ」


 先王陛下がそう言うと、ティーワゴンを引いて、先王陛下とわたしにお茶が用意される。

 さて、どうくるかな……。


「レオナルトから結婚の申し込みは?」

「ありました」


 思い出せば、信じられないだろうけど、結婚してくれないかと初手の会話の一番に申し込まれた。

 とりあえず、今期パートナーからどうだろうとは言われたけど。

 あの時は、婚活連敗の末、ロマンス詐欺にと立て続けにあったから、レオナルト様のプロポーズについてもその真意は、きっと虫除け殺虫スプレー役なんだろうって思うことで諦めていたんだけど……。

 ご一緒の時間が多くなるたびに、あのプロポーズは本当にレオナルト様の意志だったんじゃないかなって、思うことがあった。

 レオナルト様はいつからわたしを好きだったんだろう?

 今思えば、婚約とか結婚とか、そんな縛りがない、お互いに自由で、でも、やっぱり楽しい思い出をたくさん作った。

 そういう時間があったから、わたし、ちゃんとレオナルト様が好きだって、自覚ができたのよ。

 そう――……。


 わたしはレオナルト様が好きなんだ。



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