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第32話 リリーナ様。救出される。

 


 顔を抑えてのたうちまわるベンジャミンを見て、もしかして、毒なんじゃないかと思ったらしい。

 無事な男二人は動きがとれないようだ。

 ぎゃあぎゃあ騒ぐ、ベンジャミンの声が聞こえたようで、階段上から甲高い女の声がした。


「さっさとその女を殺しなさい!」


 わたしは階段の方を見上げる。

 やっぱりか――ランメルツ侯爵令嬢。

 まさか男三人がかかりでわたしを拉致ったのに、そのうちの一人に悲鳴をあげさせたものだから、姿を現したのか。


「ベンジャミン。動くと吹きかけた毒が身体に回るぞ、動かなければ助かるかもしれないが」


 もちろんはったりだ。

 実父の伝手で手に入れた南国の香辛料を水に混ぜた唐辛子スプレーもどきだ。

 身の安全の為には防犯グッズは持ち歩くものだろ。普通。

 しかしこの張ったりが効いてベンジャミンの動きは止まる。声はうるさいけど。

 でもこれで一人、動きは封じた。


 それにしても……。


「ランメルツ侯爵令嬢、貴女、気に入らない女にこういうことしてきたのか?」

「偉そうにわたくしに説教する気!? 伯爵家の分際で!!」


 わたしはわざとらしく、溜息をつく。

 ランメルツ侯爵……娘を甘やかしすぎだな。


「ランメルツ侯爵令嬢、貴女はご自身をわかってない」


 そういうと、足早に階段から降りて、彼女はわたしの頬に平手打ちをした。

 かつてベンジャミンがわたしの頬を腫らしたよりも弱い力だ。


「もう一度言うぞ、貴女はわかっていないようだ。侯爵令嬢であるということ――極端な言い方をすれば、それはすなわち、侯爵家当主の付属物でしかない」

「なんですって?」

「つまりは、当主の持ち物の一つでしかないということ」


「この女っ……お前たち、何をつったってるの!? この女を殺しなさい!」


「殺されるほどのことをした覚えはないけれど?」


「うるさい! お前さえいなければ! レオナルト様はわたくしのものよ! そして伯爵家のくせに生意気よ!」


 単純すぎる。

 そしてもしかして、頭が残念なのかもしれない。

 伯爵家当主と伯爵令嬢の違いがわかってないようだ。

 やっぱり、レオナルト様がわたしを今期のパートナーにっていうのは、こういうのを炙り出すのが目的だったのかもしれないな。


「何をぼけっとしているの!? その女を殺して!」


「無理だろ。お前たち、前金もらってるなら、今のうちに逃げた方がまだ助かるかもしれないぞ? この空き屋敷にわたしを連れ込んだ時点で、何人に目撃されてると思ってる? 馬車にカーテンはなく、メインストリートを怪しげな紋章無しの馬車で、わたしが乗ってるのが丸わかり――……準備をしたのがこのうるさいバカか、そこのヒステリックなお嬢様か知らないけれど、もうあと数分で、この屋敷に踏み込まれかねないからね」


 わたしがそう言い終わると、バンと背後から音がして空き屋敷のエントランスに光が差し込み、憲兵と私兵が入り乱れて突入してくる。

 ……早っ……。

 これって、わたしを拉致って移動してる途中で、つけられていた可能性あるんじゃないか?

 ベンジャミンと、ランメルツ侯爵令嬢と、あと馬車の中でゲスいにやにや笑いしてた男が拘束されるけど、やけに冷静にベンジャミンに指摘していた男は拘束されずにいた。

 私兵が突入してきた時点でホールドアップしていて、右手に鷲の紋章……クレアール公爵家の紋章入りの懐中時計を握っている。

 それを見た私兵達は礼をしていた。


「ご無礼をお許しください。シュバインフルト伯爵」


 馬車の中でベンジャミンを窘めたのは、すでにレオナルト様の手の者だったということか。

 すごいな……。


「クレアール公爵家の者だったのですね」

「はい。主より護衛の任を承っておりました」


 なるほど。突入が早かったのはそれもあるのか。


「リリーナ! 無事か!?」


 レオナルト様ご本人が登場されるとは……。

 あと力任せにハグされると、酸欠に。

 無事に助かったのに、意味がないというか。


「よかった……」


 でもまあ、ちょっと嬉しい。

 乙女のピンチに駆けつけてくれるなんて、さすが元とはいえ王子様。

 そして憲兵と私兵に警護されるようにしてとある人物が入ってくる。


「離しなさい! わたしを誰だと思ってるの!? その女の方が、わたしの何倍も悪辣で危険な女よ! わたしは正しいのよ!」


 そう喚くランメルツ侯爵令嬢に平手打ちをしたのがランメルツ侯爵自身だった。

 親も呼んだのね。

 まあね、こっちの状況証拠だと捏造だなんだと言われないために、レオナルト様権限で引っ張り出したんだろう。


「お父様……どうして!? ひどい! あの女さえいなくなれば、わたしとクレアール公爵様は一緒になれるのに!」


 ……だめだこりゃ。

 オヤジの張り手にもこのセリフが出てくるとは、精神が逝っちゃってると周囲が判断するだろうな。


「すまなかった、シュバインフルト伯爵」


 ランメルツ侯爵がわたしに謝罪する。

 いや、しかしこれは。


「ランメルツ侯爵……ご令嬢は、気の毒だが、心の病を患ったのでは?」


 わたしがそう言うと、ランメルツ侯爵は肩を落とす。

 あれはもう、誰が何を言っても自分の主張しかしないぞ?

 実際行動に移しちゃってるし。

 まあ顔はひっぱたかれたけど、計画は未遂、わたしへの直接的被害はなし。

 この落とし前、ランメルツ侯爵令嬢の修道院行きになるかもしれない。


「なんにせよ、わたしはひっぱたかれ損かな?」

「リリーナ、大丈夫か?」

「平気ですよ」


 そんな大事な宝物みたいにハグをされると、勘違いしそう……。



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