第27話 リリーナ様。ご令嬢達からも縁談の方向性が間違っていたことを指摘される。
さて、ダンス一曲踊ったところで、わたしは先日お茶会にご招待したご令嬢方に囲まれた。
さあくるか、さっきのスザンナ嬢と同じように「この間はあんなこと言ってたのに、なんであんたがクレアール公爵様とご一緒なのよ!」とか「抜け駆けしたわね、ふざけるんじゃないわよ!」とかくるかなと思った。
「リリーナ様! どうやってクレアール公爵とご一緒に!?」
「いつの間に! どうやったか教えてくださいませ」
レオナルト様からのご依頼ですとは言えない。
「しかし、これで私達にも希望が見えましたわ! 例え今は結婚が決まっていなくても、リリーナ様のように、起死回生の大逆転で大物一本釣りができるという!」
「素敵だったわあ~まるで一枚絵のよう~」
「それね! 人気小説の挿絵みたいで!」
「これでクレアール公爵に群がる政略がらみのご当主様方が撤退していきますわよ!」
概ね好意的な発言でほっとした。
そしてよかった。お茶会を先に開いておいて。
中には「婚活十四連敗の女がどんな小狡い手を使って、クレアール公爵を篭絡したのよ!?」と非難を受けるかもしれないとは、思っていたからね。
「きっかけはなんですの?」
「ああーん、お茶会の時、どうして教えてくださらなかったの?」
「当然、クレアール公爵から今夜のパートナーにってお申込みがありましたのよね?」
まあね、ああいう被害に遭ったから、こういうコイバナは燃料なんだろうな。
そう思ってたら、また別のご令嬢達が数人、わたし達の輪に加わってくる。
「リリーナ様、やっぱり先日の夜会で、お誘いをお受けしたのでしょ?」
「もう、それならそうと言ってくださってよろしかったのに!」
さっきの侯爵令嬢のように、レオナルト様のパートナーになりたい系のご令嬢達なのかと思ったが、ちょっと違うようだ。
レオナルト様の夜会でお話したご令嬢達だ。
「だいたい、リリーナ様は目標値が低すぎるんですわ」
「なんで下位貴族の次男三男をピンポイントで婿に望むのか、わたくし理解できませんでしたのよ!?」
「相手がシュバインフルト伯爵家当主では、下位貴族なんて尻込みしますわよ。いつ気づいてくださるのか、わたくし、気を揉んでおりました」
なんかタウンハウスのメイドちゃんズと同じことを言ってる……。
貴族特有の持って回った言い回しではなく好意的な言葉、わりと本音駄々洩れ。
あれ~? このご令嬢達も好意的ではないかな?
「それにしてもクレアール公爵様ですか」
「いきなり大物がきましたね~」
「でもリリーナ様の場合は、それでよろしいのではありません? だって、同い年のご令息だと、幼い感じがしてリリーナ様が頼れるのはやっぱり年上でないと!」
その発言に例のお茶会に参加したご令嬢達がうんうんと頷いてる。
新たに話の輪に加わったご令嬢達にわたしは尋ねた。
「ここは……何を抜け駆けしてるの、この女はってなるところでは?」
わたしの発言に、ご令嬢達は顔を見合わせる。
「だって、リリーナ様は伯爵令嬢ではなく伯爵ですもの。おいそれとそんなことを口に出したら婚約中の家と実家から大目玉ですよ」
一つの輪になったご令嬢達は、その発言に各々頷く。
「……そうなのですか、さきほどランメルツ侯爵家のスザンナ嬢とお会いしましたけれど、ちょっと視線が痛かったので身構えていたのですが」
わたしの言葉にご令嬢達は「ああ~あれに会ったのか~」という表情をしている。
「あの方はねえ……リリーナ様でしたら大丈夫だと思いますけれど」
「ほんと、親子そろって、しつこいというか……とくにご令嬢のスザンナ様……クレアール公爵様もお断りしてるのに、ぐいぐいいきますから」
「昨年社交デビューしたのに、怖いもの知らずというか……昨年はリリーナ様喪中で領地にいらしたからご存じありませんものね」
昨年の社交シーズンの出来事は、確かにご令嬢の一人がいうように、喪中で領地に引っ込んでいたわたしは知らない。
もちろん義弟のクリストフも何も言わなかった。義弟は下位貴族だから、高位貴族の独身令嬢なんて興味もないから、わたしに語ることもないのだろうけれども。
とりあえず、「レオナルト様をパートナーにして! きぃいいい」なんて声はわたしを囲むご令嬢からは聞こえなかったんだけど。
「それにしてもさっきのランメルツ侯爵令嬢スザンナ様をへこましたのは爽快でしたわ」
「あの方、昨年、デビュタントでクレアール公爵様を独占していたのですよ」
「もうまるで自分がクレアール公爵様と婚約したも同然といった感じで鼻持ちならないというか!」
ほう、そんなことがあったのかー。
そりゃレオナルト様を独占状態なら、周囲への牽制もすごかったんだろう。
さっきだって、「伯爵令嬢ごときが!」って目が訴えていたもの。
「もう、夜会だけではなくて、リリーナ様もお茶会に出席してくださいませ」
「うん……実は先日、ごくごく小さなお茶会を開催したのだけど……」
わたしがそう言うと、ご令嬢達はギラギラした目でわたしに注目する。
え? なに? 招待されたいとかそういうの?
いやいや、貴女達はもう婚活しなくていいじゃないの。
わたしがご招待したのは「これから婚活ガンバローオー!」なご令嬢を招待しての決起集会のつもりだったからさ。
「楽しそうだね、リリーナ」
背後から声を掛けられて振り返る。
金色の瞳がわたしを見下ろしていた。
ふむ。レオナルト様も紳士同士の会話を終えてきたところなのかな。
わたしの周りにいたご令嬢達は近くで元王子様を見られて嬉しそうだ。
イケメンは目の保養だもんね。わかる。
「リリーナ様が、今期の社交シーズン中にお茶会を主催したと仰っていたのです」
「リリーナが?」
ええ、つい先日、ささやかなお茶会を開きました。
だからレオナルト様との夜会出席を今日まで延ばしてもらっていたのですよ。
その効果が今実現してて、一安心。
「聞いてない、どうして教えてくれなかったのかな?」
「いろいろ思うところがありまして」
「私も参加したかったのに」
レオナルト様の一言で、目の前のご令嬢達は「もう一回お茶会主催するように薦めてください」とか言いだしそうな雰囲気。
「機会があればまたいずれ」
わたしがそう流すと、ご令嬢の一人が声をあげる。
「それでは、私のお茶会には参加してくださいませ」
「そうですわ、リリーナ様はいつも忙しそうなんだもの」
うおー、ガッツあるなー。
コミュ強とはこれのことをいうのかもしれない。
「そうですね、ご招待お待ちしています」
わたしはにっこりと笑ってそう言った。




