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第23話 リリーナ様。お茶会を開く。

 


 クレアール公爵のご依頼を受ける前に、我が家で規模の小さいガーデンパーティー……お茶会を開くことにした。

 招待客は十名前後。

 まああれよ「詐欺男にひっかかったけど、婚活ガンバロー! オー!」っていうのをね、やっておこうかと。

 このお茶会の後にわたしがクレアール公爵のパートナーを務めたら、被害に遭ったご令嬢達も、「え、もしかしてわたしも、ワンチャンいいお話あるんじゃない?」って希望が持てるかなって思うわけよ。

 ひっそりとした被害者お疲れ様会みたいなものだったけど、うちの使用人達はなんだか張り切ってた。

 シュバインフルト伯爵家が年頃のお嬢様達を招いてのお茶会なんて、先代の時はなかったから、メイドちゃん達はそういう華やかな催しをこのタウンハウスで行うことが嬉しかったようだ。

 あんまり気合い入れるな、ほどほどにして、招待客が引くのはやめてとオーダーしたんだけど、メイドちゃん達のウキウキ具合は準備に反映されていた。

 わたしが招待したお嬢さん達は例の詐欺男の存在が社交界から消えていたので、落ち込んでいる人、事情を把握している人に分かれていた。


「シュバインフルト伯爵様のお茶会なんて、ちょっと緊張してしまいます」

「主催するわたしも緊張している。何せこういったご令嬢方を招いてのお茶会なんて初めてだ」


 メイドちゃん達はお茶やお菓子を給仕してるだけなんだけど、表情が明るい。

 それに反比例するかのように、招待客の表情は困惑気味だ。

 そりゃそうだ。

 あの詐欺男から金を引き出されて、親にこってり怒られたばかり、しかしその親から、わたしの茶会に出席するようにと言われれば戸惑うなという方が無理だろう。

 わたしも、このお茶会を開いたのはいいが、出席者のみんながみんな、前を向いて今期の社交シーズンでお相手を見つけられるかどうか、なんていうのは博打かもしれない……と思い始めていた。

 それでも他愛ない歓談で場がほぐれてきたころに、わたしは言い出した。


「実は、今回招待した方々は――ちょっと高額な金銭を、とある貴族の令息に融通したことがあるでしょう」


 みんな思い当たるようで、ぴたりと雑談が止まった。


「その人物は同一人物だ」


 ぎょっとするご令嬢達。


「ベンジャミン・フォン・ビュッセル。実は、わたしも、奴から5000万ライドの金銭を融通するように言われたのだが――……奴がここにいる皆様からも大なり小なり金銭をだまし取っていることをつきとめ、先日、本人を糾弾したが顔を張られて利き手の手首を折られた」


「シュバインフルト伯爵……」

「ではその手の包帯は……」


「シュバインフルト伯爵家の当主から金銭を引き出そうとし、怪我を負わせた男をわたしは許すことなどしない。ビュッセル家に対して、賠償請求を先日行った。本日参加された方々にも金銭において被害があったことは当人の自白をとっている。ビュッセル家に賠償を行うように通告したが、すぐさまの賠償は無理なようだ。なので、ビュッセル家の金銭的な賠償を被害者の代表である当家から各家に金銭を先日お渡ししている」


「ビュッセル家がやるべきことではありませんの!?」


 気色ばんで発言するご令嬢にわたしは頷く。


「もちろん。シュバインフルト伯爵家当主に対しての無礼は、金額にも代えられないとわたしは思っている。ビュッセル家次男のベンジャミンは家門から除籍された。これ以上の被害が及ばないように当家が管理している。これを伝えたいために、本日集まっていただいた」


 同一人物がこの場にいるご令嬢達から金銭をだまし取っていたという話を聞かされて、怒る者もいるが、唖然とする者、先日のシュナース伯爵令嬢のように、奴の甘い言葉にいまだ縋っていたい者と様々だった。


「十四回の縁談を断られた後に、結婚をちらつかされたわたしは、あやうくあの男に食い物にされるところだったわけだ」


 自嘲するように呟くと、この場にいるご令嬢達ははっとした。


「よく、騙されませんでしたね……」


 ご令嬢の一人が震えながら発言する。


「金額が大きかったことがね。わたしには皆様のように頼れる両親がいないから、相手のバックグラウンドがどういう状態なのかをちょっと念入りに調べなければならない」


「親が薦める縁談でも、ちょっとそれはどうかというのはあります」


 あーうーん。まあそれは各家庭いろいろありますよね。


「そういった気持ちを素直にご両親にお伝えして、念入りに調べてもらう方が確実だろう。それでも不安があれば、わたしが調べてもいい……ただその、調査自体はいいけど、確実なお相手を見つけるのは……わたしよりもご両親を信じたほうがいいだろうな。なんせ縁談打診で断られる女なので」

「リリーナ様!?」


 参加されてるご令嬢はそこまで言わなくても……と、何とも言えない表情をしてる。

 だけど、これは事実だし。


「貴族の結婚は政略だから……感情よりも家格の事情がどうしても優先される。でも納得のいく結婚が最終的にできればいいのではないだろうか」


 出席してるご令嬢達は肯き合う。


「それで、今後、王都にいるときは気軽に声をかけてほしいとも思ってね。恥ずかしい話、お茶会なんて催したのは初めてなんだ」


 わたしがそう言うと、彼女達は口々に「もちろんです」と頷いてくれた。

 そこから普通に、彼女達が興味を持っている、王都の流行なんかが話題の中心となってお茶会が開始された時より、各々、馴染んだところでお開きに。

 これを機に親交が深まれば、あのクソ野郎に騙されたことも笑い話になるんじゃないかと、思ったのだった。



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