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第21話 リリーナ様。パートナーの打診は虫除け係だと納得する。

 


 あー終わった終わった。


「リリーナ」


 確認した契約書をフリッツに渡した。

 おっと、そうだ。お見舞いのお礼をお渡ししないと。


「クレアール公爵閣下、先日のお見舞い、ありがとうございました」


 そういって、アイコンタクトでフリッツに返礼品をお渡しするよう促した。

 消耗品と装飾品の二つを用意した。

 相手が相手なのでいただいたものより高価なものは用意できなかったけど、クラウドはそれぐらいでいいと言うので、消耗品はちょっと高級な茶葉を用意。

 これは実父アーベライン子爵が海運貿易で入手した珍しいものなので、いただいたお見舞いの品よりお値段は落ちるけど、物珍しさではいいと思った。

 味が気に入らなければ、ご本人様ではなくとも、誰かが消費してくれるだろう。

 そしてもう一つは、シェルカメオのカフスボタン。

 これも実父の伝手だ。

 元王子様は、お礼はいいのにって表情をしていたけど「ありがとう」と言って受け取ってくれた。



「それで、リリーナ、夜会の時に言ったことは覚えてる?」

「……覚えておりますが、検討中です」


 はて、何を言われた? なんておとぼけなことは思わない。


 ――今期の社交シーズンのパートナーに。


 ええ~わたしなんかが~ってまあ思うには思うけど。この性格でカマトトぶってもね。

 もう今回のゴタゴタで婚約とか結婚とか、前世も今世も自分ダメなんだなって、はっきりわかったし。

 この方がわたしに結婚とか、今期のシーズンのパートナーにって言うのには、それなりの理由があると思うのよ。

 予想すると、どこかの家が自分の家の娘をって薦めてるんじゃないだろうか? で、閣下自身はそれをよしとしていない。

 断る口実が欲しい。

 虫よけが欲しいってところなんじゃないかな?

 伯爵家当主という立場は普通の貴族の令嬢とは違うし、虫よけにはもってこいよね。

 逃げ回ってないで、さっさと再婚しちゃえばいいのに。

 再婚したくないのは、やっぱり、亡くなった奥方様のことが大事だったのかな……。

 新婚一か月で亡くなられたから、いい思い出いっぱいなのかも。

 政略結婚でも、もう彼女以外とは結婚したくないとか……そう思ってるなら、虫よけも必要か……それはそれでやっぱりロマンスだし憧れるよね。

 そのお手伝いかあ。


「お尋ねしたいことがあるのですが」

「うん」


 この間来た従僕の人とは違う……多分筆頭執事なんだろうな。

 フリッツも少し離れて控えるようにしたみたい。

 わたしは公爵閣下の案内で、庭園を案内され、池の傍に案内される。

 人払いとまではいかないけど、わたしと公爵閣下の会話は聞こえない距離までフリッツとクレアール公爵家の筆頭執事と距離をとってくれた。


「人払いありがとうございます。先日の夜会で閣下がわたしにパートナーを依頼された理由はだいたい察することができます。今回、閣下のお話をお受けするとした場合、シュバインフルト伯爵家にどんな利益がありますか?」


「利益……」


 先代に何某か借りがあるなら、快くOKを出してもいいけど、なんというか、虫よけ係を引き受けると、わたしとは関係ないゴタゴタに巻き込まれそう。

 リスクの補填が欲しいところよ。


「リリーナの結婚を手伝うよ? 結婚しよう」


 だーかーらー、それはもういいんだって。

 お爺様に婿も孫も見せられなかったから。

 この女の婿になりたがる男がこの国のどこにいるのか。

 ……隣国?

 この人は隣国の王女様と結婚してたし、そっちの伝手があるということ?

 提案される結婚って、そういうオチでは?

 いや~だったらもっと早く、お爺様が亡くなる前に紹介して欲しかった!!


「結婚……」


 それ以外で何かありませんかね? 

 と言いたかった。

 そんなわたしの心の声が漏れたのか、元王子様は仰った。


「リリーナの代でシュバインフルト伯爵家を終わらす気なのか?」


 それを言われると痛い。

 女で爵位持ちの当主なのにって、もうちくちく言われそうで。

 陪臣達も「ええ~今更~? リリーナ様の後継をうちの家から? だってリリーナ様まだ若いし女性なんだから、頑張って後継者産んでよ~」って雰囲気というか圧があるんだわ。

 陪臣達の気持ちもまあわかるんだけどさ。

 でも、以前ほど前向きになれないのよねえ。

 お爺様に曾孫を見せたいっていう目標がない。

 あと、未遂だったけど、結婚詐欺のショックが。

 やっぱアレは人の心の弱い部分につけ込む犯罪じゃない? 感情がジェットコースターでしょ、恋愛って。

 やつは詐欺男だってわかっていても思い切るのにエネルギー使ったのよ。

 異世界の貴族の結婚。

 前みたいに相手のことを割り切って生活を共にするっていうのが、今できるかって言ったら難しい。


「結婚……今回の件のこともあって、ちょっと、その問題は時間をおきたいのですが」


 率直な思いを言葉に出してしまっていた。


「そうか……リリーナは自由だから羨ましいな」


 どきりとした。

 自由か――そうだよなあ、わたしが両親が健在の普通の貴族令嬢だったら、もう親の決めた縁談に乗って、右から左へと結婚だもんね。

 今回の詐欺男被害に遭ったご令嬢のうち数人はもう、親が慌てて縁談をなんとかまとめて、今シーズン中に婚約が決まるらしいし。

 伯爵家当主という責任はあるけど、自分のことは自分で決められる自由はある。

 そして、この目の前の公爵閣下も、多分王族だったこともあって、最初の結婚は政略だったんだろうし、今また、結婚の打診が降るようにあるんだろうけど、初婚の時とは立場が違うんだから、せめて自分で決めたいよね。

 まして男の人だもの。


 ――自由で不自由だったから……。


 って言ってたし。

 仕方ない。

 今回の件でそれなりにお世話になったことだし、採算度外視で協力するか……。

 ここでクレアール公爵家の伝手を作っておくのも悪くはないだろう。

 これも貴族の仕事と思えば。

 だけど大丈夫かな~。

 伯爵家当主の肩書はあれど、パートナーに据えるにはいささか問題ありな人物だと自分でも思うんだけど。

 ま、気が変わってチェンジとかの可能性もなくはないだろうしね。


「かしこまりました」

「え?」

「今期社交シーズンのパートナー務めさせていただきます。ただ、少しだけお時間をいただけないでしょうか?」




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